公国の貴族
続いて説明されたのは、このルングーザ公国の貴族制度についてである。
この公国は皇帝や国王ではなく公爵が元首であり、貴族は侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士爵である。準男爵・騎士爵が準貴族、子爵・男爵が下級貴族、伯爵以上が上級貴族と区別されることもある。
公国では大国のように国土が広くないこともあり、領地持ち貴族は居なく、全員が法衣貴族であり、年金を国家から貰っている。また大国で良くある寄子制度、伯爵以上が寄親になり、子爵以下はその寄親が面倒をみることで、元首が全ての貴族を直接管理監督することが無いようにする制度は適用されていない。
領地持ちは居ないものの、今回のように戦争になれば貴族はそれぞれの爵位に応じた規模の戦力を用意する義務、軍役があり、公国では常に雇用する従士たち以外に冒険者を臨時雇いするのが普通とのこと。
レオが爵位を貰った、叙爵された法衣騎士爵の年金は毎年金貨10枚とのこと。金貨1枚は銀貨100枚であり、普通の職人日当が半銀貨~1銀貨であることを踏まえると、2人ほどの従者などを雇用して最低限の体面確保する金額であるという。
また、貴族は当然のように家名があり、紋章がある。貴族になるとこれらを決める必要がある。家名は領地や出身地に由来することが一番多い。正式な手紙は、指輪の紋章で封印する必要がある。
という説明に続いて、3日ほどで家名と紋章を届け出るように言われる。その後で、重複有無など受理確認結果を返事するとのこと。
最後に、今回のハイオークキングやファイターたちの討伐報酬、魔石や肉の売上などが、他の戦闘参加者などにも分配された残りとして、レオたち3人に対して金貨2枚が渡される。
色々があって混乱しているレオを楽しそうに見ながら馬車に乗せて公女の屋敷に連れて帰るマルテッラ。
屋敷に到着すると、今回の冒険者レオ・ダンへの公女としての依頼報酬である日当とボーナスで、≪上回復≫もできたレオには1日あたり10銀貨、ベラたちには1人日あたり5銀貨を渡される。貸し馬の費用が1日あたり1.5銀貨であったので、それを除いても結構な金額である。
公女はすべてを横で聞いて知っているのもあるので、いったん預かった2人分の報酬を渡しにベラとフィロのところに向かう。
「馬の経費を引いても1日あたり3.5銀貨!スラム街の親子には過分な金額です」
「実は……。それ以外に、ハイオークキング等の分配金が3人に金貨2枚なんだ」
「!?」
「すごいね!」
「三等分で良いかな?」
「とんでもありません。貢献度合いを踏まえると、銀貨1枚ずつでも貰えたら十分です」
「いや、そういうわけにもいかない」
結局、レオは金貨1枚を2人に押し込んだ。
「実は、毎年金貨10枚の年金が貰えることになったんだ」
「どういうことですか?」
「騎士爵に叙爵されたんだ」
「貴族様!?失礼しました。これからは、私たちはお声をおかけしたりしません。どうかお許しを」
「お母さん、何言っているの?」
「そうだ。これからも一緒にやって行こうよ」
「そんなわけに行きません。貴族様がスラム街の者と話したり、スラム街に足を運ばれたりするなんて……」
「じゃあ、スラム街から引っ越しも考えておいてね。稼げるようになってきたんだし」
レオ自身も混乱しているが、ある意味で常識人であるベラも混乱しているようであるので、また落ち着いて相談することを約束してから、公女の屋敷に戻る。もちろん途中で黒ローブと黒仮面を外してである。長く黒づくめをまとって寝起きをしていたので、かなり解放感を覚える。
屋敷の門番たちからも久しぶりと言われて中に入り、再び公女と面会する。
「で、貴族になった感想はどう?」
「お分かりだったのですね。登城してどうなるか」
「聞いては無かったけど、もちろん想像はできていたわよ。で、家名と紋章はどうするの?」
「やはり黒づくめのレオ・ダンのまま貴族になり、公女殿下の使用人のレオナルドとは並行で?」
「その方が面白いから良いじゃない。相手を油断させられるのだし」
「では、レオ・ダン・何とか、ですか……」
「元々の出身地シラクイラのままでは問題もあるでしょうから、お好きな魔導書グリモワールと組み合わせてシラグリではいかがでしょうか。紋章も魔法や魔導書をイメージして、書籍と六芒星の組合せのこんな感じで」
執事が色々と現実的なアドバイスをしてくれる。
結果、知識cognitionisと魔導書grimoireを組み合わせたコグリモを家名に、紋章は書籍と六芒星の組合せにすることにした。




