ご褒美
公都に帰りつくと、貸し馬を3頭とも返すのと合わせて、まず冒険者ギルドに帰着の報告をすると、リーダーのレオ・ダンが公女の屋敷に来るように伝言があるとのこと。
どこで誰が見ているか分からないため、黒ローブと黒仮面のままでレオだけで屋敷に行くと、公女から一緒に登城するように指示される。黒づくめのまま?と確認するもそのままということで、≪洗浄≫だけ行って公女と一緒に馬車で城に向かう。
公女に目的などを聞いても教えて貰えないので、先日の状況説明を再度、城の官僚に対して行うのだと覚悟をした。
城に着いても、公女は行先も認識しているようで、黙ってついてくるようにと指示をされるがままに移動するが、かなり奥まで行くようである。
廊下に絨毯が敷かれているエリアになり、立ち止まったのは大きな扉の前であった。そこに1人で居た鎧を着た若武者と合流する形になった。
中から声がかかって扉が開き、公女が進み出るので、若武者と一緒にその後ろを黙ってついて行く。きっと貴族が立ち並ぶ中での公爵への謁見であるのだというのは何となく理解する。キョロキョロすること自体が不敬と言われる可能性もあるため、ほぼ下を見下ろしたまま前に進む。既に黒づくめで仮面までしているので、不敬もあった物ではないと言われかねないことすらも思考の外になるぐらい焦っている。
立ち止まり跪いた公女を見て、その後ろで若武者と同じように跪く。
「マルテッラよ、この度は将兵の治療の任、ご苦労であった。また危険な目に合わせてしまって済まなかった」
「いえ、公爵家の一員の務めを果たしたのみでございます」
「そしてその若武者が騎士爵マルテオ・チリアーノの嫡子であるか。面をあげよ」
「は、エウスパレ・チリアーノにございます」
「そちの父は非常に勇敢で公女の命を救ってくれた。嫡子エウスパレよ、襲爵した上で準男爵へ陞爵とする。父を見習い励むように」
「はは、ありがたき幸せ!」
『あの近衛騎士の息子であったのか。面影が感じられないぐらい優男なのは母親に似たのか。しかし、ちゃんと報われたようで良かった』
思考停止して、こんな場なのに他人事に対して上から目線で考えていたレオに対して、声がかかる。
「続いて、その黒づくめの冒険者も今回の功労者であるか。面をあげよ」
「黒ローブだけでなく黒仮面とな。よほど人に素性を知られたくないのか。名は何と申す」
「は、レオ・ダンでございます」
「体格だけでなく声も若そうであるな。にもかかわらず、なかなかの魔法の使い手とのこと。ハイオークキングへ一番ダメージを与えていたのはそちの魔法だったらしいぞ」
「騎士様が命を懸けて防御をしてくださっていたからだけにございます」
「自惚れることも無いとは先が楽しみであるな。レオ・ダンよ、騎士爵の名誉を与える。大儀であった」
「はは、ありがたき幸せ!」
驚くも、かろうじて隣の若武者の真似で返事をすることだけはできた。
その後は再び公女に続いて、若武者と一緒に謁見室を退出する。その後は別室に案内され、官僚らしき者から待機するように指示される。
「チリアーノ様、御父上のお陰で命があるようなものです。本当に優れた武勇のお方でした。大変失礼ながらぜひともお礼を申し上げさせてください」
「そう言って貰えると嬉しい。ぜひ父の最後を聞かせて欲しい」
どこが最後だったのかは分からないが、治療所から後のことについて、近衛騎士について記憶していることを丁寧に説明する。
「すごい記憶力だな。おかげで誇りに思える父の働きを知ることができた。感謝する」
長い説明をしている間に、本来の用事の官僚は到着していたようだが、説明が終わるまで待っていてくれたようである。
「エウスパレ・チリアーノ準男爵はこちらへ。レオ・ダン騎士爵はこちらへ」
公女はなぜかレオの近くで、にこにこしながら話を聞いている。
「レオ・ダン騎士爵は色々と驚かれているようですので、ご説明させて頂きます」
官僚が説明をしてくれる。
今回のような戦争の際の冒険者の働きについては、本来は雇用主である貴族の手柄になるものであり、その貴族が公爵家に褒美を貰い、貴族は冒険者にその分け前にあたる褒美を与えるのが普通である。しかし今回のレオ・ダンたちは独立した貴族ではなく公爵家の一員である第3公女マルテッラによる雇用であったので、公女の手柄、公女への褒美とならずに、レオ・ダンへの直接褒美となるとのこと。
今回の公爵からの褒美となる成果は、裏切り神官からの傷を癒して公女の命を救ったこと、敵の誘導により陣地へ攻め入って来たハイオークキングをはじめとした高ランク魔物を撃退したこと等であり、もともとの治療所での治癒行為は公女からの依頼であるため対象外とのこと。
また冒険者3人が褒美の対象であるが、残り2人の冒険者ランクは木級であり実力や調査結果を踏まえても、ほぼほぼリーダーであるレオの成果であることが確認されていること。
あと、治療行為に対する日当は公女から別途貰うように、と公女マルテッラを向きながら説明された。




