上位ハイオーク
石に寄り添って休憩し始めた途端に、北の森の方の兵士たちが騒ぎ始める。何事かとそれぞれが片手剣と盾を構えて、そちらに向き合う。
「ハイオークだー!」
兵士たちが騒いだ後に、その兵士を殴り倒して姿を現したのは、鎧を着て両手剣を持ったハイオークが3体であった。
「あれはハイオークファイターだ」
近衛騎士がつぶやきながら、レオたちの盾よりかなり大きな盾を前に、槍を構える。
いくら近衛騎士が優秀と言っても、Bランク魔物を3体も相手にできるのか。
「微力ながらお手伝いします」
レオは片手剣と盾を構えながら、姿を見せないようにした天使グエンを≪召喚≫し一緒に≪土壁≫を発動して、休憩に使用した石と公女を覆い隠す。
≪土壁≫を築き終えたときには、近衛騎士が2体を引き付けてくれて、1体がレオの前に。≪火槍≫をレオ自身が同時発動するのと同時に、グエンにも発動させて、目の前のファイターを何とか倒しきる。もう2体のうち1体に対して、続けて≪火槍≫を使用して近衛騎士に協力することで、何とかこの3体のハイオークファイターは始末する。
≪土壁≫から出てきた公女、ベラとフィロの3人は、近衛騎士とレオの傷を≪治癒≫や≪回復≫で治す。レオは魔力の残りが心もとないため温存している。
そこへ、どこかに行っていた神官3人、トンマンド、タンマルコ、マルカミッロがやってくる。
「公女殿下、ご無事でしたか?」
「皆も無事だったのね」
「はい、お陰様で。ここはまだ敵が来るようですから、あちらに」
マルカミッロが先導して北、魔の森の方へ進む。
すると8人の集団に対して、どこかから矢が3本飛んでくる。慌てて近衛騎士が大きな盾を構えるが、盾からそれた矢がタンマルコの太ももに刺さる。矢を抜いた後の治療はトンマンドと公女の≪回復≫に任せつつ、姿を見つけたハイオークアーチャーの方へ、近衛騎士とレオは走り出す。まがりなりにも盾を持つベラとフィロには、アーチャーの方向に向けて盾を構えて、公女たちを守るように指示をしてある。
鎧を着て大きな盾を持つにもかかわらず、近衛騎士は優秀さを発揮して十分な速度でアーチャーの前までたどり着き、先ほどと同様に2体を相手にする。残った1体をレオが相手することになるのだが、レオは魔力の残りが厳しいため、片手剣ショートソードと小盾スモールシールドが基本になる。さすがにそれでは不利と思われるレオは、まず5本の投擲短剣の武技≪連投≫を使用して少しでもダメージを与えた上で接近する。
公女の安全のためには早めに3体を倒すべきであるが、レオは自分の実力を踏まえて、まずは1体を預かりきることに専念し、近衛騎士がアーチャー2体を倒しきりこちらの支援に来るのを待つつもりであった。ハイオークアーチャーはハイオークファイターと同様にBランク魔物であるが、接近戦は得意では無いようで、近衛騎士が2体を倒したころにはレオも相手を始末できた。
それと同時ぐらいに、ベラたちの叫び声が聞こえる。
「公女殿下!レオ様!」
「マルカミッロ!何をしている!」
慌てて振り返ると、お腹に短剣が突き刺さり流血している公女が≪火炎≫をマルカミッロに放ち、そのマルカミッロに対して、フィロが盾を使って体当たりしているのが視界に入る。
公女たちとは距離があり、近衛騎士も盾を放り出して走っているが、すぐにはたどり着けない。
「ベラ、フィロ、≪回復≫を!」
レオが言うまでもなく、残る神官2人とベラとフィロが倒れる公女に対して≪回復≫≪治癒≫を繰り返しかけているが、公女は倒れたままである。
近衛騎士が、既に≪火炎≫で弱っているマルカミッロをつかまえて地面に押し倒している。レオはそこに到着するが、≪上回復≫を使用する魔力も残っていない。
「これを使ってください」
トンマンドが回復薬を差し出してくる。
「魔力を回復する魔法回復薬、ポーションです。効果は低いですが」
さっそく飲み、≪上回復≫を公女にかけることで、公女の呼吸も落ち着いてくる。
近衛騎士がマルカミッロを縛り上げて連れてくるが、自殺防止のために猿ぐつわもしており、事情を聞くこともできない。今この場で誰が黒幕かを知ることよりも、公女の安全を確保する方が優先である。
連続した戦闘でもあったので、一息つきたいところではあったが、この後のことも踏まえて念のために、レオは先程の投擲短剣を回収しに行く。黙り込んだメンバの空気が重くて嫌だったのか、フィロも付いて来て、その間にハイオークアーチャーの魔石を取り出したり、練習したことも無いのにアーチャーが持っていた弓と矢、接近戦用の片手剣を回収したりしていた。
レオが5本の短剣を回収し血を拭って公女のもとに戻ろうとしたとき、恐ろしい気配を感じる。
かなり近づいてしまっていた魔の森から巨大なハイオークが1体かけてきた。
「ハイオークキング!?」
叫んだ近衛騎士が盾を構えている。




