コリピサ王国の真意
「公国側のモチベーションが湧かないのは分かったが、コリピサ王国の方は何でこんなことをやっているんだろうか?」
「本当のことは分からないが、コリピサ王国の内情は酷いらしいぞ。政治的にも経済的にも。その国内の不満を王家に向けさせないために、外敵を作る必要があるらしい。しかも、何かにつけて見下している公国を相手にときどき攻め込んでおくと自国の優位さの証明になると思っているみたいで。港町など海が欲しいなんて、言っているけど、公国全部を占領するぐらいの勢いでないと海なんて反対側だし現実的ではない。この草原辺りの領土、村々をいくらか刈り取っても薄利なのに、そこを狙うような侵略行為を繰り返して、ますます財政赤字になって税率をあげる圧政になり、さらに内情が酷くなるという悪循環」
「何でそんなことを続けているんだ?」
「聞いた話では、この緊張状態で儲けることができる武器商人たちが、軍部を中心に賄賂を贈って誘導しているらしい」
「ため息しか出ないな。付き合わされる公国は災難だな」
その真意が今一つ分からないコリピサ王国が、翌日には意外な手を使ってくる。
「怪我人がたくさんだ!受け入れ準備よろしく!」
前線からの連絡が来たと思えば、今までの何倍もの怪我人が運び込まれてくる。トリアージ、症状レベルによって選別された結果に基づいて、数が多い軽症者にはベラ、フィロと神官タンマルコ、マルカミッロの4人が対応する。対して、重傷者は神官トンマンド、公女、レオの3人が対応する。
「いったい何があったんだ!?」
「コリピサが魔物を出して来たんだ!」
「ハイオークだ!」
通常の人間同士の場合、現場の兵士は互いに大怪我をすると損という損得勘定もあり、運が悪い場合を除いて基本は軽症で引き上げて来ていた。軽症者を深追いしても自分たちが危険な目に合うというのも分かっているからである。それに対して魔物の場合、自分の被害を気にすることなく全力で攻めて来ていたというのである。公国側にエサを用意したのか、追い立てる術を用意したのか、それとも魔物使い、テイマーが操ったのか分からないという。
ただ、レオは公女の誕生パーティーやその翌日に公都ルンガルにコリピサ王国がテイムされたハイオークを連れて来ていたことを踏まえると、テイマーが操っている可能性が高いと想像した。
正規兵、特に騎士以上であるならばCランクのハイオークはそれほど脅威な強さではないが、連れてこられた従士や初級冒険者にとっては手ごわい相手であるのと、手加減をして貰える人間相手ではないということ自体が脅威である。
実際、治療所に来た怪我人は従士や初級と思われる冒険者が多かった。もちろん弱者をかばうために傷ついた者たちもいたが。
ある程度の治療を続けていると、大きな歓声があった後からは運び込まれる怪我人の量が減って来た。
「流石、第1公子殿下。部下を率いてハイオークの部隊を蹴散らしてくれた」
聞こえてきた声から、公女の誕生日パーティーでハイオークを瞬殺した第1公子を思い出して、納得する。
結局その日は、ハイオークの部隊を出して来たコリピサ王国が最初は優勢であったが、結局は公国に押し戻されて終わりになったようである。
岩場の拠点に戻ってエルベルトたちに様子を聞いても、第1公子の活躍の話ばかりであった。話を聞いていると、治療所がある北の方ではなく街道に近い南の方にハイオークの部隊が出されたので、街道を通過する一般人の被害も回避するため、第1公子が本陣から部隊を率いて対処したらしい。
「じゃあ、第1公子の活躍は治療所からは見えないのね。残念」
お気楽なフィロの発言に、皆が笑ってその話は終わりになった。
翌日も最初からコリピサ王国が、ハイオークの部隊を街道に近い方に出して来たため、第1公子が本陣から出陣したらしい。
それでも少しは怪我人も運び込まれてくるため、手分けして治療にあたっていたら、かなり近くで喚声があがる。何事かと思って盾などを取りに行っていたら
「敵襲だー!逃げろー!」
と治療所に何人かが駆け込んでくる。だいたいは治療していて重傷者も残っていなかったので、怪我人の避難誘導に気を取られることは無かったが、そもそもで何事か分かっていない。
治療所の敷地の入口で待機していた、朝に公女を連れてきた近衛騎士1人が公女に対して避難するように言うが、どの方向にどう逃げればよいのであろうか。
「私たちは戦闘力がなく足手まといになるので、別行動をします」
と宣言して、補佐をしていたメンバと一緒にどこかへ行く神官たち。
西が前線、北が魔の森の方向、東が自分たちの野営場所であり、南に本陣があるので通常ならば南に向かうべきであるが、南からもたくさんこちらに騒ぎながら逃げてくる者も居て、混乱している公国軍の陣の中ではその隙を狙ってくる者が居ないとも限らない。レオは近衛騎士とも相談して、少し北寄りの東方向に公女を連れて行くことにした。
思った通りそちらの方向はすいており、すぐに治療所および本来の前線からある程度は離れることができた。
「少し休憩させて」
公女の要望に応えることと、落ち着いて周りの様子を見るために、少し大きめの石に寄り添って休むことにする。




