天使?
マルテッラの勢いに合わせて、知識・魔法の女神ミネルバ様の神殿にも向かう、公女とレオたち。
「私も魔法の習得がレオぐらいできるようになりたいの。ここでも祈祷をお願いするわ」
お付きの執事たちが神官に相談をして、デメテル神殿のときと同じようにお布施と祈祷の営みになる。
先ほどはマルテッラのみが前に進み出ての起動であったが、ここではレオも、と言われて2人で前に進み出ている。
神官が祈祷している最中に、誰かが話しかけてくる。
『なかなか精進しているようだな』
まわりを見渡しても誰か分からない。
『どちら様でしょうか?』
『俺?俺はミネルバ様の眷属の天使だよ』
『え!?御冗談を。どなたのいたずらですか?』
『その鵜呑みしないところも良いな。俺の名前はグエン。帰りにミネルバ様の護符を買って、今度魔石をその護符に供えながら俺の名前を念じてみな』
『?』
それっきり声も聞こえてこなくなったので祈祷が終わるまで待った後、マルテッラに確認する。
「祈祷中に誰か話しかけてきましたか?」
「そんな神様や神官様に失礼な者は居ないでしょう。何か聞こえたの?」
「いえ、空耳と思います」
とは言うものの、神殿でミネルバ神の護符は購入しておく。
「あら、レオはそういう物を持っていなかったわよね」
「これからもたくさん魔法を覚えたいので」
「じゃあ私も買うわ」
その日は外出ついでの公女の買い物などにも付き合い、屋敷に戻ってからも魔法訓練に付き合うことになった。マルテッラも御機嫌であり、屋敷に籠っているだけだとストレスもたまるのであろう、発散できて良かったと考えるレオであった。
翌日の狩りで、まずは草原で角兎ホーンラビットを何羽か狩り、兎肉を確保すると共に魔石を入手する。
そしてベラたちと別れた後、森に入ったところで、ミネルバ神の護符に≪洗浄≫で綺麗にした魔石の1つを押し当てて『天使グエン様』と念じてみる。赤紫色の宝石のようであった魔石が無色透明になる。
『やはり、一応試してみるのだな。それにしてもわざわざ低ランクの魔石を選ぶとは、そこも抜け目がない』
『グエン様?本当に天使様なのですか?どうして?』
『神霊も競争社会でな。多くの魔力や信仰を集めると神位があがるんだよ』
『それで?』
『お前はなかなか面白い。手助けしてやるとそれなりに報酬も得られそうだしな』
『報酬とは、今のように魔石の魔力を捧げるということでしょうか。神殿のように貨幣では無いのですか?』
『貨幣は、神殿の運営、神官たちの生活のためであり、それで維持された神官たちの祈りが力になるから、正直効率も悪いし迂遠だな』
『祈りは魔力を捧げることになるのでしょうか?』
『理解が早くて良いな。そうだ、信仰は結局のところ魔力を集めることになる』
『それで私はグエン様に魔力を納めるとどうなるのでしょうか?』
『俺と契約して神霊魔法を使えるようにしてやる』
レオの手の上に白い魔導書が現れる。中には初級≪契約≫中級≪召喚≫という神霊魔法と、魔術ではない神霊魔法の回復魔法である初級≪治癒≫と中級≪回復≫の魔法について魔術語や魔法陣等と解説が書かれていた。レオが目を輝かせて読みふけっているとグエンが指摘する。
『俺を忘れるな。まずその≪契約≫魔法で俺の真名グエンNguyenを使って契約するんだ』
魔導書の最初にある≪契約≫「contractus」でNguyenを意識しながら発動する。
『よし成功だ。お前なら一気に≪召喚≫も行けるだろう。やってみろ』
≪召喚≫「evoke」でNguyenを意識しながら発動すると、目の前に身長1mぐらいで背中に羽の生えたまさに天使という姿で空中に浮かぶ者が現れる。
「よし。俺がグエンだ。これからよろしくな」
「え!?」
「まぁまずは魔術の回復魔法と神霊魔法の回復魔法の違いを練習してみろ。魔力の属性変換、回復の場合は基本6属性と違って無属性への変換であったが、俺の真名を浮かべてそこから力を持ってくるように意識をするんだ。神霊魔法の回復魔法の≪治癒≫≪回復≫をマスターすれば、魔導書に次の魔法を入れてやる」
「頑張ります!」
「後は、俺を≪召喚≫したら、お前が習得済み魔法ぐらいなら発動してやる。魔物狩りなども手伝ってやる。それだけの魔力は貰うがな。それに姿を見られたくなければ、そう意識して呼べば良い。ほらな」
途中から声はするが姿が見えない。
「発動して欲しい魔法を念じれば手伝ってやる」
その日は≪氷刃≫の発動者がもう1人増えるというグエンの支援があったので、3体組のオークも楽に倒すことができ、20体以上のオークを荷馬車いっぱいいっぱいに積んで納品することになった。もちろん追加で狩れるようになったことから、ある程度の魔石はグエンに納めて、無色透明な石になった。




