真っ黒の姉妹
レオは待合わせの後、黒ローブ、黒仮面の真っ黒3人で受付に行き、イザベッラも愛称ベラで木級冒険者として登録しておく。それぞれが納品することもできるように、である。ちなみに、ベラはスラム街に暮らすようになって以前の身分証は失効していたので、有効な身分証を久しぶりの入手になる。
「死んだ夫が冒険者でしたが、私は初めて登録しました。こんな簡単に登録できるのですね。もう歳なのに、良いのですかね」
「お母さんはまだ25歳、若いよ」
「うん、登録に年齢は関係ないし。ベラは若いからこれからでも何でもできるよ、きっと」
荷馬車を思い付きはしたものの、レオ自身も御者の経験があるわけでないので、貸し出しのところで御者の指導も合わせて依頼する。貸し出し用の馬であるため、癖はそんなに無いとのことで、手綱の右を引けば右、左を引けば左に曲がり、両方を引けばとまる、軽くたたけば歩きだし、早くたたくと走る程度の合図で簡単には乗りこなせた。後は練習あるのみということであるので、レオは自分が乗るための馬と、荷馬車の両方を借り、ベラ・フィロ親子に荷馬車を任せる。
街をでて北西の魔の森に向かうまでの間に、ベラとフィロの2人は御者台に乗り、ときどき交代しながら操作を練習する。ある程度慣れると、レオも自分でやってみるために交代を申し出る。自分が乗っていた馬も大人しい方であるため、ベラに乗らせてみると、御者台と違い馬へ乗るためのバランスは必要であるが、馬車の制御と大差はないことを理解して、何となくは前に進むことができている。
「生活に追われていたので、このような体験は楽しい」
と、意外とベラも楽しんでやっている。フィロも乗りたがったが、体の大きさ的に無理がありベラの前に2人乗りが精いっぱいであった。
森の手前で、レオは今から入るので、2人には適当に時間をつぶすように、万が一盗賊等に襲われたなら荷馬車を守らず逃げて良い、命を優先、と指示する。
その日もレオは1体か2体のオークを狙って訓練をするが、前日との違いは、オークの死体の解体に手間をかけずにそのまま馬に載せて、ベラ親子のところに戻り荷馬車に載せかえて、また森に狩りに戻るという繰り返しになったことである。確かに森の入口まで戻る時間はもったいないところもあるが、オークの肉を丸々持って帰れることによる販売差額を踏まえると、我慢できる範囲と考える。
ベラ親子もオークの死体を見ると先日の襲撃を思い出したのか、最初は恐々であったが死んでいることを踏まえると、昨日食べたもも肉のもとであると割り切るようになった。
最終的にオーク10体と、往復することで遭遇機会が増えたからか魔熊1体が本日の成果となった。
貸し馬1.5銀貨、貸荷馬車5銀貨の原価はかかったが、10銀貨ほど手取りが残った。昨日と同じく貸し馬だけであると荷馬車費用5銀貨は不要であるが、肉8銀貨ほどの収入も無くなっていたので、差し引き3銀貨の追加収入である。また初日であるので狩りの量も少なかったが、明日以降はもっと狩れるはずである。
そこでその3銀貨の半分をベラ親子に渡すことにした。多すぎると恐縮されたが、最終的には受け取って貰えた。明日以降も?と確認すると、ぜひにとの返事も貰える。
翌日から狩りの成果が増えても、同じ1.5銀貨しか受け取らないベラ親子であった。そこで、レオはベラの護身のために短剣と小盾を購入すると共に、師匠ロドの寺小屋で子供用に作成していた文字や計算の教科書の写本を作ってフィロにあげる。
「大人になって行くにつれ、文字の読み書きや計算は必要になるから」
荷馬車で待っている間の暇つぶしにと言うと、自分も人並より少し苦手なベラが喜び必死にフィロに教えることになった。少しフィロににらまれたのは気にしないことにする。森への往復では、ベラが自身の苦手なところを熱心に質問してくるのでそれに答えているので、そのうちベラも人並になれるのではないかと思えた。
冒険者ギルドで、変わり者のソロ冒険者だった真っ黒レオ・ダンに姉と妹が増えたと噂され始めたことに、3人とも気づいていない。
レオがある程度の銀貨の安定収入ができるようになってきた一方、公女の魔法レッスンは難航している。
≪水球≫≪火球≫は元の≪水生成≫≪種火≫の規模を大きくして攻撃に投げつけるイメージなので、公女もある程度はやめに習得できた。その延長で、砂ではなく石を生成して投げつける≪投石≫も習得できたが、目に見えない風を刃の形にする≪風刃≫がイメージをつかめずに苦労している。さらに、もともと中級で難易度があがる≪回復≫も苦労している。
レオにしても、もし公女が中級魔法を習得すれば上級魔法の魔導書を用いた講義に進むかも、という期待があり、公女の習得を支援する。攻撃魔法を習得した3属性について、公女の家庭教師は中級の≪氷刃≫、≪火炎≫、≪土壁≫について指導を開始する。既に写本を所有済みの魔法ばかりであるが違いがあることを楽しみに魔導書を見せて貰う。しかし、≪氷刃≫は別著者の者であったが、≪火炎≫は同じ著者の異なる写本作成者、≪土壁≫は写本作成者まで同じであった。さらに≪氷刃≫についても新規情報が無くガッカリしつつ、≪氷刃≫と≪火炎≫については写本を作成しておく。
その難航している習得に対して、公女の家庭教師が回復魔法の上達には信仰心が不足しているのかもしれない、と発言したことを踏まえて、公女たるもの国民にそう思われるのは問題である、と神殿に行くになった。もちろん外出であるのでレオも同行する。
神は八百万と言われるほど無数に存在し、昔の偉人が神に祀られることもある。精霊や悪魔と同様に、信仰により力を得て神位があがることから、有名になり信仰を集めたいと望む神もいる。この公都では富裕街に、商売の女神メーコリウス、戦の神マース、知識・魔法の女神ミネルバ、鍛冶の神ウルカヌス、豊穣の女神デメテルなど有名な神々の神殿が集まっているエリアがある。
この公国の国教である豊穣の女神デメテルのところに公女として参拝するのにレオたちも付き合う。当然それなりのお布施も渡した上で、かなり偉そうな神官が祈祷をしてくれるのをじっと聞くことになった。
「私はデメテル様だけど、レオはどの神様なの?」
「師匠の寺小屋で知識・魔法の女神ミネルバ様をお祀りしていたので、ミネルバ様でしょうか」
「ではミネルバ様の神殿にもまいりましょう」




