銅級冒険者
「弓矢、ハイオークの次には、お前の何の力をみせてくれるのかな?」
とさらに挑発を続けるレオに対して、弓を投げ捨て腰の短剣を取り出す男。
片手剣や盾もしょせん中級レベルの腕でしかないことを自覚しているレオは、以前に公女が誘拐されたときに、賊にまったく歯が立たなかったことを踏まえて単なる白兵戦をするつもりはない。まだ距離が開いている隙に≪火炎≫を連射する。
先ほどの≪回復≫もこっそりしていたのもあり、世に希少な魔法使いが杖ではなく片手剣と盾を装備しているという意表をついたのもあり、狙い通りに。
「なんだお前、魔法使いだったのか!?」
「それがどうした?」
と男の服に着火するのを確認しても≪火炎≫を続けると、地面に飛び降りて火を消すために転がりだす。レオも後を追いかけて飛び降りて隙だらけになった男に片手剣を突き付けて、降伏させる。角兎など獲物を縛るのに持ち歩いている紐で拘束していると、3人の冒険者もハイオークをしとめてこちらを見ていた。
「衛兵のところにこいつを連行して行くがどうする?」
「そうだな、俺たちも状況把握にいったん戻るとしよう。ちょっと待ってな」
と、ハイオークの檻を運んできたのであろう大きめの荷馬車を持って来る。
「こいつに載せよう」
ハイオークを載せると共に、捕獲した男も乗せることにした。途中で、3人が倒していた別のハイオークと、レオが先に倒したハイオークも載せると、男が猿ぐつわの向こうから何かわめくが無視をする。
大通りに戻ると、ハイオークが載った異様な荷馬車を引いた4人組には当然に衛兵が寄って来て、事情を説明する。レオと男は衛兵の詰め所に連れて行かれることになった。
「もちろん同行するのは良いのですが、他のハイオークたちは片付いたのでしょうか?」
「所詮Cランク魔物だから、時間がたった今ではもう大丈夫だろう」
おしゃべりな男は、少し痛めつけると色々なことを白状したらしい。やはりコリピサ王国の者だったようだが、プライドだけ高い小者だったようで、あまり有益な情報は無かったようだ。似たような者が街の何か所に居てそれぞれが夜明け前に、従魔の証を外して檻から解放したハイオークをまき散らしたらしい。正確な目的は聞かされていなく、ルングーザ公国の公都における騒動による国力低下程度の認識であったようだ。その他は、なぜかいつもルングーザ公国を下に思っているコリピサ王国の国民らしい発言ばかりだったとのことで、レオに教えてくれた衛兵は機嫌が悪そうであった。
その後は、衛兵に言われた通り冒険者ギルドに向かうと、自分が倒したハイオークも届けられていたようで、今回の報酬を今朝話した受付で貰うことになった。
「レオ・ダン様、ちょっとご無理をされていませんか?避難誘導のお願いのつもりでしたのに、大丈夫でしたか?」
「行きがかり上、助けないとと思って」
「その親子があちらでお礼のためにお待ちですよ。受付が終わりましたら行ってあげてくださいね。で、証明書をお預かりします」
「ん?」
「Cランク魔物の単独討伐おめでとうございます!裏条件も達成なので銅級へ昇格でございます」
証明書を鉄製から銅製に変えている間に、裏条件は護衛で盗賊など人をためらいなく殺せるかの確認のため対人戦闘の経験、と教えて貰う。内緒ですよ、と。
「こちらが銅級証明書になります。また、今回の緊急依頼への協力、ハイオークの納品、こちらのお肉は味に人気がありますので高くなっております。さらに重要人物の捕獲など、合わせて2金貨と30銀貨になります」
「え!?」
「特に犯罪奴隷になるような生存での引き渡しはだいたい1金貨が相場で、重要人物の情報が1金貨、Cランクのハイオークの討伐報酬2銀貨、肉が5銀貨、緊急依頼への鉄級参加が5銀貨です。後は捕獲したハイオークの剣と荷馬車の買い取り費、これは他の方との分配後ですが合計で18銀貨ですね」
思わぬ大金を入手して驚きながら受付を離れると、先ほど助けた母子が近寄ってくる。
「受付から聞こえました、レオ・ダン様とおっしゃるのですね。先ほどは本当にありがとうございました。私はイザベッラ、こちらは娘のフィローラです」
「フィロ、8歳です。お母さんを助けてくれてありがとうございました」
「この御恩、決して忘れません。スラム街に暮らす母子家庭ですので何ができるか分かりませんが、何でもおっしゃってください」
「いや、特に何かは……」
「今すぐでなくても結構です。助けて頂いた辺りに住んでおりますので、あの辺りで私たちの名前を伝えて頂ければ」
と何度も頭を下げながら去って行く母子。
続いて、肩をたたいて来たのは、ハイオークと戦っていた冒険者3人。
「お前、小さい割になかなかやるじゃないか?魔法使いなんだな。あの炎、なかなかだったぞ」
「俺たちも銅級を狙って頑張ってみたけど、先を越されたみたいだな」
「お前たち、先に名前だろう。俺はリーダーのエルベルト。同じ片手剣と盾だ。こいつがカントリオでこいつも片手剣と盾。そっちはメルキーノで弓矢と短剣。3人とも鉄級だ。レオ・ダン、まだ昼前だが打ち上げで一緒に飲まないか?」
「いや俺は……」
「そうか、俺たちも成人したてで酒を覚えたばかりでな。実はまだエールが苦い。なめられるから内緒だぞ」
「また機会があれば一緒にパーティーでも組もうな!」
『3人とも人は良さげだし本当に機会があれば。もしかしてソロ冒険者を卒業できるきっかけになるかも』と思いつつ、今日のコリピサ王国からの話を報告するため急ぎ屋敷に戻るレオであった。




