魔術師委員会
「鉄級冒険者になられたレオ・ダン様には委員会のご案内をさせて頂きます」
と説明が始まる。
冒険者ギルドには、剣士や弓士などのように技術集団ごとの下部組織、分科会のような委員会が存在する。鉄級以上になると基本的にはどこかの委員会に属するが強制ではない。入会費用は無く年間費用が銀貨1枚である。鉄級冒険者にはそれほど高い額ではなく、中級以上の武技の指導は委員会に属していないと受けられないことから入会する者は多いという。初級の指導も受講料の割引がある。すべての使用武器についての委員会に属する必要は無く、所属委員会から紹介で対応可能であり、弓士の副武器が槍の場合に、弓士委員会から槍士委員会へ紹介されるという仕組み。魔法使いのための委員会は属性ごとにあるわけでなく、魔術師委員会で1つにまとめられている。委員会に所属していると、パーティーを組みたいときの斡旋も容易になるらしい。ある意味、初心者の木級以外から回収する冒険者ギルドの年間会費のようなものなのであろう。
「魔術師委員会を希望します」
とレオは期待して告げると、
「ご案内します」
とギルドの奥、各種委員会の個室の並びに案内される。『クレオンダのギルドは小さいからこんな個室はちゃんとあったのかな?』と思いながら付いて行くと、奥の方にあった魔術師委員会の扉の前で、ギルド職員がノックして
「新規会員をご案内しました」
と紹介してくれ、後はお任せします、と受付に戻って行った。
よくぞ、と室内に誘ってくれる先輩会員。
「私の名前はダーヴィデ。さっそくだがどのような魔法を使えるのかな?」
とたずねてくるので、名乗った後に、説明をすると、怪訝な顔をする。
「あまり強い攻撃魔法が無いのにDランク魔物を討伐したのか?メインは魔法ではないのか?それで魔術師委員会に?」
「なかなか魔導書との出会いも無かったので。ただもっと魔法を学んでいきたいのです」
「ほう、その意気や良し!この書棚にある魔導書、持ち出しは禁止だが、初級魔法は1冊ごとに1銀貨、中級魔法は5銀貨で1日閲覧できるぞ。実演指導も初級は1銀貨、中級は5銀貨だ」
「ありがとうございます。さっそく閲覧してもよろしいでしょうか?」
「ははは、やる気だな。いいぞ。ただし魔導書の全ての魔法を習得している先輩がいるとは限らないから自分での研究も頑張れよ」
とアドバイスを受ける。
レオは狩りや護衛ですぐに使えそうなものを棚の説明書きから選び、水初級≪洗浄≫中級≪氷刃≫、火中級≪火炎≫、土中級≪土壁≫、光初級≪灯り≫、闇初級≪夜目≫の銀貨18枚を支払う。それぞれ、衣服や武具などの汚れをとる、刃の形の氷で攻撃する、≪種火≫や≪火球≫より強い炎で攻撃する、土で壁を作る、部屋1つ分ほどを明るくする、暗闇でも見える、という非常に興味深いものであった。
先輩会員が横に居ても気にせずに6冊の魔導書の読破に集中する。いずれもそれなりに魔法自体への解説も書いてあり、何となく発動結果のイメージもつかめた。それほど経済的に余力があるわけではないので、実演指導は1人では上手く行かなかった魔法だけにして、その分のお金を別の魔導書の閲覧にまわそうと考えた。
その夜は自室で記憶から6冊の写本を作成し、増えた魔導書の冊数にニンマリしてしまう。写本の署名はレオ・ダンではなくレオナルドを使い続けることにしている。ルネやガスも鉄級冒険者に成ったのかなと考えながら眠りにつく。
翌日は新魔法の習得練習のために草原に向かう。≪土壁≫を発動できたときには、これがあれば先日の墓場での短剣投擲を防ぐのも楽であったかもと考えたり、≪氷刃≫や≪火炎≫を発動したときには、この威力があれば暗殺者たちを圧倒できたかもと考えたりした。
さっそく角兎ホーンラビットに対して≪氷刃≫や≪火炎≫を試すと、まだまだ習熟度合いが少ない現段階でも、初級の≪水球≫≪火球≫との攻撃力の違いに驚く。また、解体を行った短剣に対して≪洗浄≫を行ったときの便利さにも驚く。
ある程度期待通りの発動も出来たところで冒険者ギルドに戻り、解禁された中級武技の指導として盾の≪盾叩≫を学んでおく。きっとこれがあれば、魔狼との戦闘も楽であろうと思っていたからである。
また屋敷に戻ってから夜に≪夜目≫を試した後に≪灯り≫も試して、これもまた便利さに驚く。やはり魔法は新しい物を覚えるほど楽しいと実感する。
そうこうしてレオが戦闘力向上に明け暮れていたところ、他の使用人たちからもうすぐマルテッラの誕生日であることを教わる。
平民は成人のときでもなければそれほど誕生日をお祝いする余力も無いのだが、さすがに公女である。当然多くの人を呼び盛大なパーティーを開くことになる。ただ、と執事たちとの打ち合わせでは言いよどむ。
先日の墓場での暗殺者たちの背景も分からないままなのである。身元証明も完全になくして襲撃して来たのもあるが、一国の元首令嬢が狙われたのにもかかわらず、である。明らかに調査情報を漏らしている者がいるのであろう。以前の誘拐のときにも内通者が居たのが確実であったことも踏まえて、第3公女は他者からもわきが甘いとみられていて、軽んじられているという。今度の誕生日パーティーでも不手際があった際には、公爵からの叱責も免れないであろうから、第3公女の失脚を狙ってくる者も、公国の権威失墜を狙ってくる者も居ると思って警護する必要があるという。
誕生日が近づくにつれ、使用人たちの緊張感が高まって行く。




