ソロ冒険者レオ・ダン
それからしばらく、公女が屋敷を出ない日は草原へホーンラビット狩りに行くか、先日墓場で活躍していた先輩使用人に短剣や短剣投擲の武技等の指導を貰っていた。
ロドに購入して貰った短剣は2本しかないため宝物に追加することにして、新たに5本同型の投擲短剣を買い足すことにし、腰回りや足元に隠し持てるベルトも調達する。その短剣を用いて短剣武技の初級≪刺突≫中級≪連突≫、短剣投擲の初級≪穿孔≫中級≪連投≫を訓練したのだが、魔力操作が肝であることを掴んだレオには新たな武技を習得するのも今までの応用となりそれなりに短期間で可能となった。
その頃にはマルテッラへの魔法授業も、基本4属性魔法と回復魔法において次の段階になっていた。≪水生成≫の次として≪水球≫、≪種火≫の次として≪火球≫、≪そよ風≫の次として≪風刃≫、≪砂生成≫の次として≪投石≫はそれぞれ初級魔法であるが、≪治癒≫の次の≪回復≫は中級魔法でありマルテッラは習得に難航していた。
≪回復≫は既にみていた魔導書であるが、残り4冊は初めて見るのでいつものように読ませて貰って記憶した上で写本に取り掛かる。≪水球≫は異なる著者であったが新たな知見は無、≪火球≫は同じ著者であったが別の写本製作者によるものであり、解説部分に異なる表現があることに気付く。本質的な情報に差異は無かったのだが、そういうこともあるのだと認識する。≪風刃≫≪投石≫は初の魔導書であり、しかも≪風刃≫は刃の形状に変形することが、≪投石≫は砂ではなく石を生成することが新しい内容でありそのための魔法陣や魔術語に新たな知識を得られたことに喜びを感じる。
マルテッラへの教え方には疑問に思うことがあるのは確かであるが、新たな魔導書と実演によるイメージ把握をできる機会はありがたく貰っておく。その見返りでも無いが、マルテッラへの補講をレオがするのは確定になってしまったようであるが。
新たに習得した武技や魔法の実戦練習には、格下であるホーンラビットは安心して試せる相手であるので有効活用している。冒険者ギルドに納品するときに色々な傷の付き方や魔法による痕跡も気づいているのか、分かっている、というような目線をされる。ただ、仮面を着けているときには声などで人物特定されないように必要以上な発言をしないため無口な人物像が出来上がっているため、何も言わずに納品を受け取って貰える。
もともと社交的では無かったレオであり、無口で居ることも慣れてしまったので、気がつけば他の冒険者とも全く話をしない、受付と最低限しか話さないソロ冒険者になっていた。
『あれ?師匠ロドに言われてしばらくみていた「ソロ魔法使いの死」の悪夢へ一直線?』
と悩むレオであった。
かと言って、身元がばれても困るのもあり、結局はソロ冒険者を継続しているなか、角兎ホーンラビットの次の段階へ進めるべきと思うようになった。
もともと冒険者をしているのは実戦訓練を積むためであり、新規に習得した武技や魔法の訓練にはなるが、このままではそもそもの戦闘力向上があまり期待できないからである。
護衛としての戦闘力を優先するのであれば人型魔物が良いのだが、ゴブリンやオークは基本的に群れになるからソロは直ぐに厳しくなっていくだろうと悩む。ただゴブリン程度であればまずはやってみようと考え、生息地を確認すると、ルンガルの南に広がる森か、ルンガルの北西に広がる魔の森の手前の方にはゴブリン村も数多くあるとのこと。ただ魔の森は奥に行くほど強い魔物が出てくるので気を付けるようにと注意される。
また徒歩では日帰りが難しいとの話も聞き、荷馬ではない移動用の馬の利用を考えることにするが、馬の扱いは公女の屋敷の馬の世話しか経験が無く、自らが乗る訓練から始めることにする。使用人、護衛の本業にも意味があることであるので、まずは公女の屋敷で他の使用人たちに協力して貰い最低限の乗馬技能は習得しておく。ここでも覚えの良さが幸いするが、相手のあることであり、公女の屋敷でも何頭もいるそれぞれに合わせるのには苦労した。
ある程度の自信がつくと、今度は街の貸し馬で街道、草原、森の入口と順番に難易度をあげて行き、歩くだけでなく馬で駆けることも、森の中の道なきところでも進めるまで上達することができた。
そしてようやく公都ルンガルの南に広がる森へゴブリン狩りに向かう。ある程度森の中に進んだ後は、馬からも降りて辺りを散策すると、ゴブリン2~3体の群れを見かけるようになった。森の中での火魔法は火事が怖いので≪風刃≫を中心に遠隔攻撃で体力を削った後、接近でも片手剣と盾の武技を駆使する。角兎ホーンラビットと違い、やはり武器を持った人型を複数相手にするのにはいくらEランク魔物といえども慣れが必要で、しばらくは革鎧で防ぎきれない怪我を負ってしまう。≪回復≫や≪治癒≫も駆使し、何度も挑戦する。最初のうちは怪我もあり1日に狩れる数もそれほど多くなかったが、だんだん慣れてくる。幸い、ゴブリンが使用するこん棒やボロくなった剣などは価値が無いので、討伐証明の右耳や魔石だけしか持ち帰るべきものはなく、いくら狩っても持ち帰りには苦労は無い。
乗馬の練習から始めてゴブリン狩りになれるまで約1ヶ月、今度は魔の森に足を向けてみる。
こちらも少し森に踏み込むと確かにゴブリンが出現するが、その先には魔狼を見かける。もし群れに出くわすと勝ち目が無いと慌てて引き返すが、逃げ切れない。覚悟を決めて馬をかばうためにその前で盾と片手剣を構える。まずは≪風刃≫をいくつか放つも全ては当たらず、馬に向かわせないため盾武技の≪挑発≫をした上で、片手剣武技の≪連撃≫と≪剛撃≫も織り交ぜる。素早さは角兎ホーンラビットを上回る面は苦労するも、ホーンラビットより体が大きい分、急所でなくてもどこかに攻撃を当てることができ、それだけ脚などの怪我で動きも鈍ってくることでますます攻撃を当てることができるようになる。もちろん自身にも噛みつかれることによる怪我や体当たりで転ばされる等もいくつかあったが、体術≪回避≫≪肉体強化≫も駆使して致命的なものは受けずにしとめることができた。下位とはいえDランク魔物を初めて1人で倒したのであるから、戦闘終了後は周りに気を配る余力もないぐらい息も絶え絶えであったが、ふと我に返り、いつ血の匂いで別の魔物が襲ってくるかと不安になり、≪回復≫をした後は仕留めた獲物を解体する間もなく馬の背に乗せて森から逃げ出すのであった。
まだ昼食も取っていなかったが精神的疲労もあり今日の狩りはこれで終わりに決める。いったん落ち着いたところで昼食を取り、首を切り裂いて血抜きと魔石の取り出しだけは行ったものを再び馬の背に乗せてその前に乗馬して街に帰り、冒険者ギルドに成果を提出する。
「おめでとうございます。Dランク、鉄級に昇格ですね」
とレオ・ダンの身分証明書を木製から鉄製に変更される。




