帰宅
泊ることになった際、自分の無事を家族に知らせたいと相談すると、レオの手紙を使者が届けてくれることになり、簡単ながら無事であること、もう少ししたら帰る旨の手紙をしたためる。
翌日午前中にはマルテッラが交換といった魔法発動体の指輪も届けて貰う。見た感じも上等そうであるが、試してみると発動効果も優れていて、きっと素材の質が良いのだろうということだけは分かった。お礼も込みだからとマルテッラが押し付けてくるので、ありがたく受け取ることにした。
そして午後に、マルテッラ、護衛の騎士たちや侍女なども伴ってルングーザ公国を出発する。
公女たちは誘拐現場に赴き、亡くなった者たちの霊を慰めるためである。既に遺体は公国に連れて帰り埋葬済のため、公女は午前中に墓参りは済ましていたらしい。公女のための立派な馬車と、お付きのための馬車、前回を踏まえての多くの騎士による大規模集団であり、現場には幾日もかかる移動となった。
そこでは縛られていたレオの証言に基づき、どのくらいの時間帯に到着するかも知られていた上に数十人が奇襲できる場所であったことを再確認するなど、現場検証も行われた。そこから、明らかに公国内に内通者が居たことが確実となった。
そこで慰霊の営みもした後、シラクイラの港町に移動する。事前の通達もあったようで、街の入口での確認もスムーズに、そして普段レオも足を踏み入れなかったエリアの宿への道も問題なく移動する。
ここで公女たちとお別れし、一部の騎士たちだけが事情説明もあってレオの帰宅に同行するはずであった。そのため、レオがマルテッラに
「色々と大変お世話になりありがとうございました」
と深々とお礼をしたのに、
「あら、私も行くわよ。レオにもお世話になったのにご両親たちにお礼に行かないなんてありえないわ」
と宣言。お付きの者たちも騎士たちも慌てるも公女に逆らえるはずもなく。護衛も含めて当初より多くの人数で帰宅することになった。
レオも先に出した手紙では具体的な帰宅日までは書けていなかったので、実家である料理店も備えた宿に着くと、いつものようにそれなりの客で埋まっている時間帯であり、他に広い場所ということで隣の寺小屋に移動することになった。慌ててルネとガスに人をやって呼びに行かせるロド。
遅れながら2人が入って来た寺小屋ではレオの父ディオ、母アン、兄クロ、師匠ロドを前に公女マルテッラが頭を下げていた。
「彼のお陰で誘拐された間も何とかなりました。ありがとうございました」
というのである。レオにしてみると、公女のお陰ですぐに殺されなかったはずであることも皆に伝えながら、全体の経緯も説明するのであった。その説明が間違えていないことを公女や騎士たちが補足するので、両親たちも一般町民が経験しないような体験について、事実と理解するのであった。
そして公女を見送り別れるはずのタイミングで、マルテッラが突然
「どうか彼を公国に連れて行かせてください」
と両親たちに頼み込む。戸惑いながら訳を確認すると、公国内には他国に内通している者が居て誰を信じて良いのか分からないが、レオならば大丈夫、公女の私設使用人として雇用したい、とのこと。
その上で公女は実家の宿屋に泊まることを希望したが、既に客がいっぱいだったのも理由に、ちゃんと当初予定の宿に戻って貰った。
やっと落ち着いたところで、ゴブリンと戦った時のガスの怪我を見せて貰うと、ある程度は治っていたが完治はしていない。レオが試させて欲しいと≪治癒≫を発動する。他人の魔力操作は初めてで難しかったが、数回試行錯誤すると完治できた。ロドに問われて、公女から魔導書を見せて貰ったことを答えると、
「やはりな。俺はレオにはこの小さな港町ではないところで魔法の素質を伸ばしてあげた方が良いと思う」
というロド。
「そんな、冒険仲間の私たちはどうなるのよ」
「お前の本業は冒険ではなく皮革職人だろう?ガスも鍛冶職人だ。レオは希少な魔法使いの素質があるんだ。もちろんやってみてダメだと思えば、この寺小屋と薬屋を継ぎに帰ってくれば良い」
そのまま、両親、兄、師匠、ルネ、ガスも話し合っていたが、結局レオ自身はどう思うのか?ということになり、
「新しい魔術語を覚えて新しい魔法を使えるようになるのは楽しい。だから外の世界を見に行ってみたい」
というレオの意見で公国に行くことになる。
「公女様が可愛いからじゃないわよね?」
とすねるルネは横に置かれて、
「ただ、かなりきな臭いことが多そうだから気を付けるようにな」
と師匠ロドから注意されつつ、色々な種類の解毒薬や回復薬と、きっと必要になるだろう?と羊皮紙と羽根ペン・インクのセットを餞別に貰う。
レオは久しぶりに帰って来た自分のベッドも一晩寝ただけでまた出発することになった。自室に置いてあった宝物である、初めての狩りの成果の角兎の魔石、いくつかの魔導書の写本や、最近稼いでいたいくらかの貨幣を荷物にまとめる。
そして翌朝に再度訪れてきた公女に公国に行く旨の返事をし、皆と別れの挨拶をするのであった。
クレモデナ王国で貰った使用人としての服に着替えて、さっそく帰り道でも他の使用人たちから様々なことを教えて貰うようにお願いをするレオ。愛想が良いわけでは無いが真面目で覚えの良いレオはそれなりに気に入られて、王侯貴族の使用人としての作法や業務を少しずつ教わることになる。実家の宿屋の手伝いの経験も少しだけは関連して役に立つところもあり、ときどき実家を思い出しながら胸が熱くなるのであった。
公国に戻ると、以前は公女の客室を与えられていたが、使用人となった今は小さな個室に案内され、そこに武具や着替え、写本や羊皮紙などの私物を置くとすぐに使用人の諸先輩に挨拶に行き仕事を開始するのであった。




