フィウーノ撃退戦
「レオ、少しはゆっくりできたかしら?こちらの宴を免除してあげたのだから」
「はい、おかげさまで。明日以降のことについてフルジエロ殿下への伝言でしょうか?」
「良く分かっているじゃない。そう、このまま防衛戦をしていたら、遠征して来ているフィウーノ王国の方が音を上げるのは確かよ。でも、今日でもわかったと思うけれど、ムッチーノの住民の不満はもっと溜まることになるわ。少しでも早くフィウーノ軍を撃退しないと」
代官館に呼び出されたレオは、マルテッラに再び夜の≪飛翔≫を指示される。
「でも、草原のフルジエロ殿下とこのムッチーノの街で挟撃するのではなかったのですか?」
「今日のバルバリス侯爵の突撃は奇襲だったから成功したようなものよ。何度も成功するものではないわ。それに兵の数は敵の方が倍なのでしょう?」
「では、兵糧の焼き討ちなどをして来ましょうか」
「そうね、レオの力ならそれも簡単でしょうね。でも、兵糧を焼くのはもったいないから奪って来て。ムッチーノの住民に配るから」
「え!それは難易度が急に上がります。遠くから火で燃やすのと違って、魔法の袋に収納するにしても、目の前にまで行く必要があるのですから」
「分かっているわよ。だからレオにしか頼めないのよ」
「……」
自分の持っている魔法の収納袋では、1つに荷馬車を1台収納するのが限界と思われる。これが2つなので、たくさん奪うには何度も往復する必要がある。当然、それだけ敵の目も厳しくなるはずである。
「難しいこと考えずに。まず西、それから北、東、南と順番に奪ってくれば、敵も油断したままでしょう?」
「でも、それを一晩のうちにしないと、翌日には伝わりますよね?」
「そうね。でも、それぐらいレオならできるって騎士団のみんなに見せつけてあげてよ。そうでないと、いつまでも騎士団にレオが見下されたままなのは嫌なのよ」
「……」
元々、単なる平民だった自分にすると騎士団や侯爵に見下されても何とも思わないのだが、マルテッラにそう言わせてしまうと頑張るしかない。
「分かりました……」
「じゃあ、この代官館の庭を空けておいて貰うから、よろしくね。でも油断せずに、気をつけてね」
「そんな、レオ様、私たちも≪飛翔≫ができればご一緒しますのに」
「ケーラ、魔法の袋を貸して貰えるかな」
「あ、もちろんです。中身はここにおいていけますので」
「ありがとう。今晩だけだと思うから」
レオはケーラからも大容量の腰袋を借りて、夜の上空に≪飛翔≫で舞い上がる。
「じゃあ、アクティムとファリトンもお願いね」
「少し離れたところに火事を起こして注意を引けば良いのだな」
まずは西からとマルテッラの案のまま向かうが、かがり火の量を見ても、かなりの大軍であることがわかり腰が引ける。
「うーん、明るいからどこに兵糧があるかは分かりやすいのだけど……」
目処をつけたところの上空から、少し離れたところに対して≪爆炎≫を撒き散らす。その上で≪夜霧≫で暗い霧を狙った場所に出現させて、そこに降りて行って兵糧を積んだ荷馬車を魔法の袋に収納して行く。
「あの霧が怪しいぞ!敵があの中にいるのだろう!」
敵陣にも何人か居た魔法使いの1人と思われる者が≪火炎≫を飛ばしてくるが、≪結界≫魔法で防ぐ。
「馬鹿野郎!兵糧を燃やす気か!いくら敵が居たとしても、違う魔法を使え!」
どうも火属性が得意な魔法使いだったようで、水魔法では≪水球≫が飛んでくるが、脅威には思えない。
≪夜霧≫ではなく≪大夜霧≫を発動し直すことで、敵兵達を混乱させつつ、自身は事前に目処をつけていた場所から兵糧を奪って、上空に逃げ戻る。
「兵糧を燃やすともったいないと叱られるから、あの大きなテントを燃やして行って」
悪魔アクティムとファリトンに指示をして自身は代官館に戻り、収納袋の中身をおいて行く。
「流石レオね。良い感じね。あと3か所も頑張ってね」
「承知しました」
夜中なのに律儀にマルテッラが待っていることに感謝しつつ、今度は北の敵陣に向かう。適当なところで切りをつけて来た悪魔達も合流して、先ほどよりは小さな陣の中で兵糧の場所を探し、そこでも闇魔法の≪夜霧≫などを活用して作戦を決行する。
その後も東、南と順番に、敵陣を燃やしつつ兵糧を奪って代官館に戻るとすでに明け方であった。
「レオ、お疲れ様。でも、今回の行動の内容をお兄様のところに伝えてから休んで欲しいの」
代官館の庭が兵糧で溢れているのだが、その横にいたマルテッラから追加の指示を受ける。
「あっちの陣では、敵陣で何が起こったのか分かっていないはずだから」
「承知しました……」
マルテッラからの書状をフルジエロ公子のテントに届けた後は、公子と会話することもなく西の城門に戻る。そして、悪魔達に適当に攻撃させながら、自分はうつらうつら昼寝をして休むのであった。




