公子の到着3
歓声とともにムッチーノの街の中心部に向かうバルバリス侯爵の一行。ベルガミ子爵の部隊と一緒なので330騎が街の中を進むため、かなりな規模の行進になる。籠城してから自由がなくなり不満の溜まっていた住民にすると、頼もしい騎士団の到着の証明である。街のあちこちから噂を聞いた者達が集まって来る。
バルバリスもその群集心理を理解しているためか、下手に急ぐことなくゆっくりと代官館に進む。
レオはその様子を見て、代官館に急ぎマルテッラに状況を伝える。
そして自身が不在のまま夜が明けてしまった西門の様子を見に行く。
「コグリモ様!どちらに行ってらっしゃったのですか!」
「あ、すみません。フルジエロ公子殿下の陣地へ。そして、中心部で騒ぎになっているバルバリス侯爵の300騎とともに帰って来ました」
「あ、それでは文句も言えないのですが、この西門。やはりコグリモ準男爵が居ないと、敵が勢いを盛り返して、ほら火矢が!」
「わかりました。少しお待ちくださいね」
レオは悪魔アクティムとファリトンを召喚し、自身も≪飛翔≫で城門から西の上空に飛び、一緒に敵陣に≪爆炎≫などの強力な攻撃魔法を発動してまわる。
そして、再び城門を目指して進めて来ていた攻城兵器の巨大な槌などにも≪豪炎≫などで攻撃を行う。悪魔達に攻撃を続けさせながら、自身は城門の上に戻り、天使グエンと共に回復魔法を、被害を受けていた兵士たちに発動する。
「コグリモ様、流石です!こっちで治療をしながら、あっちで敵を攻撃するなんてどうなっているのですか?」
「それはまぁ秘密です。他に怪我人はいないですか?」
「はい、もう大丈夫です」
「では、また代官館に戻ります。でも、敵への攻撃は継続しておきますのでご安心を」
悪魔達に攻撃の継続を指示しつつ、再び≪飛翔≫で代官館に戻るレオ。
「レオ、遅い!ほら、もうすぐ到着するわよ」
「すみません」
マルテッラとニーニエロは、レオに聞いた状況を踏まえて代官館の入口でバルバリス達を出迎えることにしたのである。
「ほら、あなたもそっちに並んで」
マルテッラに指示されるまま、出迎えの中心部に並ばされるレオ。
「これはマルテッラ公女殿下!建物の外にまで出て。感激でございます」
わざとらしいバルバリスの仕草も、周りを囲んでいる住民へのアピールとしての芝居であろう。騎馬から降りて、背の低いマルテッラよりさらに小さくなるように屈みながら前に進み出る。
その様子を、意図もわかった上でその芝居に乗るマルテッラ。そして自らも前に進み出る。
「バルバリス侯爵!あなた達の頼もしい援軍、このムッチーノの住民達も励まされたことでしょう!あなた達が到着したことで、この街の解放も目の前です」
「恐れ多いお言葉。すべてはフルジエロ公子殿下のご指示のもとでございます。引いてはルングーザ公国を導かれる公爵陛下の御心のままに」
「バルバリス侯爵、お立ちください。そしてニーニエロ代官も」「ムッチーノの住民の皆さん!苦しい生活を申し訳ありません。まもなくフィウーノ王国の軍隊も撤退するでしょう。今しばらくの我慢です!」
「「「おぉ!ルングーザ公国、万歳!」」」
レオには仰々しい行動としか思えなかった芝居は住民に響いたようで、ひときわ大きい歓声が湧き上がる。
「バルバリス侯爵、怪我をされた皆さんを彼方にご案内ください。その他の方は、ニーニエロ代官達の手配で宿に分かれて頂いて」
「公女殿下、ありがたいお話ですが、この程度はかすり傷ですぞ」
「いえ、またこれからも全力を出して頂くために治療をお受けください」
「は、ありがとうございます」
過去の戦場でもマルテッラの治療行為を知っていたバルバリスは、公女による治療を部下達が感激するのは認識していたので、一応は辞退を申し出ていただけであり、そのあとは騎士も馬も共に治療を受けることにする。
「ん?コグリモ準男爵?どこかに消えていたと思えば、ここで治療行為を?」
「西門の方へ少し行っておりました。はい、特に馬への回復魔法は私が。騎士の皆様は公女殿下が治療なさりますので」
「ふむ。では、馬達のこと頼むぞ」
回復魔法そのものが有益なことは認識しているバルバリスは、馬まで治療できるというレオにそのまま指示をする。愛馬を使い捨てにしたい騎士は居ないため、少し無茶な突撃で怪我をした馬の治療に対して素直に感謝される。
ある程度の治療が終われば再び西門で防衛戦を行い、日が暮れると宿で皆と合流する。
「代官館に行かなくて良いのですか?」
「今日はバルバリス侯爵の独壇場だと思うし、どうせ夜か朝にフルジエロ公子の陣営にでも行くことになるから、今はみんなと食事してゆっくりさせて」
「大変ですね。なら、ほら肉をしっかり食べてください」
仲間達との平和な時間も長くはなく、やはり代官館のマルテッラから呼び出しが来る。




