ゴブリン2
森にもあと少しに近づいたが、既に疲労がいっぱいの3人。
遠くの敵に魔法を使おうと右手を突き出していたレオは、岩場の陰からルネに向かって奇襲をしかけたゴブリンに気付き、魔法の発動より先に片手剣で切りつける。すると、武技を習いに行ったときのギルド職員の≪斬撃≫のようにかなり鋭い切れ味でダメージを与えることができた。違和感を覚えても考える暇はなくそのまま戦闘を乗り切る。
何とか森に逃げ込み、荷馬も含めて木陰で一息ついて水筒から水を飲む3人。一番敵を呼び寄せていたガスは左腕に怪我をしているので、血止めを行う。
「何だったんだ?」
「南から何かに追われて逃げている感じだったけど、途中でエサを見つけて思考がそっちに支配された感じ?」
「私たちはエサ……」
「まぁホーンラビットの肉を積んだ荷馬も一緒だからね」
「いったい何に追われていたんだろう?」
遠くから分かりにくいところで木に登り、南、海の方を確認するルネ。
「なんか、人みたいよ。結構いて、歩いてこっちに向かっている」
「ゴブリンじゃないのか?」
「ううん、腰布とかでなくちゃんと全身に服を着ているよ。剣とか槍を持っている」
「服や鎧は模様がそろっている?」
「ちがう、みんなバラバラ」
「うーん、まずいかも。海賊や盗賊の可能性があるね。急いで街に知らせに行かないと」
「ルネ、急いで街に戻るんだ」
「そういうガスも怪我しているから一緒に行ってあげて。荷馬から獲物を降ろして2人で乗って行くんだ」
「レオも行かないのか?」
「一緒に逃げようよ」
「いや、俺たちの体格でも荷馬に3人は乗れない。魔法攻撃の後のある死体も残してしまったままだし、俺が残る」
「そんな……」
「衛兵たちに早く知らせて応援を連れて来て!早く!」
森の中でも元居た場所からは離れた木に登り1人、息をひそめていたレオには、だんだんと近づいてくる何十人もの男たちの声が聞こえてくる。
「おい、ゴブリンたちの死体があるぞ。誰かここに居たんだ」
「焦げた後もあるぞ。魔法使いが居るぞ。気をつけろ!」
「ち、気づかれてしまったんじゃないのか?せっかく街道を避けて上陸したのに」
「だからゴブリンたちを逃がさずに皆殺しにしておけば良かったんだよ!」
「お前もめんどくさいって同意しただろう?それよりも目撃者がやっかいだな。よし、10人ほど残って辺りを捜索だ。後は予定通り街道に向かえ」
「わかったよ」
残った10人が、レオたちが倒したゴブリンたちからの足跡を元に森の中を捜索し始める。そのままではどうせジリ貧になると理解したレオは、近くに1人だけで来た相手に短剣投擲で意表をついてしとめることを考える。魔力はもうほとんど残っていないのとできるだけ静かにしとめたかったからである。
ある程度近くで、1人で背中を向けた者ができたときに、木の上から投擲すると同時に木の下に飛び降りて不意打ちを狙う。しかし、所詮は初心者から抜け出そうかというだけのレベルしか無かったレオの行動は読まれていて、
「バレているんだよ。なめやがって」
と片手剣をはたき落とされて組み伏せられる。
「え?ガキ?どういうことだ?」
ショートソードとスモールシールドは取り上げられ、両手を後ろ手で縛られて森から連れ出されるレオ。何を聞かれても答えずにいると、
「他には気配も無いし、こいつを連れて皆と合流することにしよう」
と草原を北に向かって歩きだすが、レオが後ろ手に縛られているため上手く歩けず何度も転び、仕方ないと手は前で縛られて、そこから手綱のようにした縄を賊の誰かが必ず持つことになった。
街道の手前で隠れていた賊の集団に合流すると
「なんだそのガキは?」
「あそこに居たのはこいつだけだった。武器も何の変哲もないこのショートソードやスモールシールド、そして投擲短剣2本だけ。首にぶら下がっている身分証明書も木級冒険者。ただ、何を聞いても無言を貫きやがる」
「まぁ目標に関係があろうとなかろうともうすぐわかるだろう。目当てももうそろそろ来るだろう。どこかその辺りで縛りつけておけ」
『目当てって何だ?黙っていた方が生かして貰えるかもしれなさそうだな。下手に話すと震え声で泣き出しそうだし』と黙秘を続けることにしたレオ。
もうすぐ夕方になるかもと思われた時間帯に「今だ!」の掛け声の後、レオを一人残して賊たちが見えなくなり、馬のいななきや罵声、剣戟などがしばらく続いたが、賊がドレスの少女、レオと同じ歳か少し下ぐらいに見える子だけを担いで帰って来た。レオの近くに転がされたのを見ていると、胸の辺りが上下しているので気絶しているだけであろう。『賊の狙いはこの少女だったのか』と理解はしたが、この後どうなるのかは全く想像がつかなかった。
辺りはすっかり暗くなったなか、草原を南下していき街道から十分離れたところで野営の準備を始めるために地面に下ろされたところで、少女がもぞもぞしだした。




