ムッチーノ防衛2
フィウーノ王国に侵略され取り囲まれているムッチーノの街。その救援に向かっているフルジエロ第1公子達の軍勢の中でも、街の危急を知らせる狼煙を見て先発隊として急ぎ駆けつけて来たロレンツォ・ベルガミ子爵率いる30騎。
「敵陣に、10騎以上の味方が捕らわれている感じはありませんでした。あの人数の多い本陣の中ならばもしかすると、ですが」
「街の東西南北のそれぞれの門に対して攻め込もうとしている敵兵も、誰かを人質にして脅している感じも無く。それどころか、各門では守勢からの魔法攻撃を受けてフィウーノ軍は攻めあぐねている感じです」
「一体どういうことだ?我々より先に到着しているはずのマルテッラ公女殿下達の部隊はどこに消えたのだ?」
「何らかの方法で街に入られたのでは?」
「もちろん、その可能性が全くないとは言わないが、あの軍勢を通り抜けて街に入るほどの人数は居なかったはず。しかも、我々のような騎乗に慣れた騎士団員も居なくては……」
「そうですよね」
一方、そのようなことを言われているとは知らないマルテッラは治療すべき将兵も居なくなったことから、代官館でのんびりしている。レオ達は東西南北の各門に分かれて、危なげなく敵兵に魔法攻撃を行っている。
「フルジエロ公子達の軍勢が到着したら、この敵兵は逃げ出してくれるのかな?」
「急いで来られるだけの騎兵が中心だからな。兵の数だけで言うと、まだまだフィウーノ軍の方が多いだろう?」
「でも歩兵が多いなら騎兵が蹴散らせるだろうし」
「力押しをしてどっちにも死傷者が増えるのは嫌だなぁ」
「レオ、その言い方を誰かに聞かれると怒られるぞ。公国の貴族様なんだから」
念の為に、割り当て以外の門の様子を見に来ているレオに対するエルベルト達との雑談である。
「ベルガミ子爵、どういたしましょう?」
「街から危急の狼煙は出ていないし、各門の攻防の様子では緊急性はなくなったのであろう。だからと言って、公子殿下のところに戻って合流する選択肢はない」
「では?」
「我ら30騎、例え死すことになってもマルテッラ公女様をお救いするのが忠義の道というもの」
「しかし、どちらにいらっしゃるかも分かりませんが」
「亡くなられていないとすれば、可能性が高いのは敵の本陣。我らのうち誰か1人でもたどり着いて公女殿下を馬に乗せて逃げ切れば、この作戦は成功である」
「そんな。もしも馬にお乗せしても、逃げ切れるとは思えません」
「ではどうすれば良いのだ」
「公子殿下達をお待ちできないのであれば、優勢に見える街の軍勢と合流するのが良いかと」
「そうです。そのため、どこかの門を攻めている敵軍に対して後方から攻撃をして、隙を見て城門の中に入り込みましょう」
「そして街の軍勢と公子殿下の軍勢とで敵軍を挟み撃ちにするのです」
「そのような時間をかけていれば、公女殿下の身が……」
「フィウーノ王国といえども、他国の公女殿下、しかもまだ幼さの残るマルテッラ様に無体なことをするとは思えません」
「思考することを放棄して無謀な突撃をすることは忠義とは呼びません。取り得る選択肢から最適解を選んで実行することこそ忠義の道かと」
「うむ、良くぞ言ってくれた。感謝する」
脳みそまで筋肉で命知らずの子爵に付き添って死亡する一歩手前であった部下達は、方針変更を説得できたことで安堵の息を漏らす。
「では、目の前に見えるあの門から街に入るか?」
「いえ、敵の本陣はこちら西の街道側です。確実に街の中に入るためには、ここから見えない反対側の東門にしましょう」
敵軍から逃げるような行動を気に入らないベルガミ子爵ではあるが、部下達から目的達成のためと進言されて受け入れる度量だけはあるようである。
「フィロ、気づいている?」
「え?」
「ほら、あの敵軍の向こう側からこっちに向かっている騎兵達。30騎くらいかな」
「あ、本当だ。敵と戦っているってことは味方なのかな」
「でしょうね。多分、門の中に入りたいのだと思うから、攻撃を当てないようにね。守備兵の人たちにも開門の準備をお願いしておくわ」
東門はフィロとベラの親子が受け持っているところである。人数は2人だけでエルベルト達の3人に比べて少ないが、天使グエンや悪魔アクティムとファリトンを≪召喚≫できるので、魔法攻撃力という戦力では見劣りするどころか十分に上回っている。
「ベラさん、大丈夫ですよ。いつでも門を開けられます。何ならあなた達のおかげで敵兵は近くに来られていないので、もう開けておいて良いぐらいですよ」
「流石にそれは」
「ははは、冗談ですよ」
既に守備兵達から信頼はされて、軽口も交わすことができるだけのコミュニケーション能力があるベラ。
「では、万が一に敵の罠だったときのために、門を開けるのはギリギリまで」




