シラクイラ観光
「では、こちらからご乗船ください」
宿からの従業員が案内人を務めてくれ、さらに船の手配までしてくれた。
「網の繕いをしていたところなのにすみません」
「いえいえ、これだけ報酬が頂けるのでしたら毎日でも」
港に着いたところで、様々な漁船や交易船などが見えたのだが、どの船にどう交渉して良いのか分からなかったレオたち。そこは手慣れたものなのか、その宿の従業員が調整をしてくれたのである。
レオたちの人数だといくつかの船に分散することも覚悟していたが、案内人である宿の従業員も乗せても余裕のある大きな船を手配された。
「小さな船より大きな船の方が揺れが少なくて、酔いにくいのですよ」
そういえば、マルテッラと共に誘拐されたときの船も大きかったから酔わずに済んだのかも、と考えるレオ。
「この辺りは入り江なので、波は比較的穏やかですからご心配なさらずに」
「では、あの岬の向こうに出てしまうと揺れるんですか?」
「そうですよ。流石に初めての皆さんならその手前までにしておきますね」
「さぁ皆さん、こちらをどうぞ」
1人1竿ずつ配られる。
「最初のエサをつけるのはこちらでやりますが、そのうち慣れれば自分でできるようになった方が楽しいですよ」
「うぇ、これって何?何かの内臓?」
「そうですね。こっちは魚の内臓ですが、あっちは陸の魔物の内臓ですかね。肉屋で余り物を貰ってくるんで、元は聞かないことにしているんです」
「うわ、聞かなければ良かった」
「あれだけ魔物を退治しているのに、今さら?」
「「あはは」」
ほとんどの仲間たちは釣りが初めてである。マルテッラなど、魚が食いついたときの竿がビクっと震えるのを気持ち悪がってしまう。
「その魚が食いついたアタリが楽しくて釣り好きになる人も多いのですよ」
「この辺りで文字が刻まれた陶器などが見つかるって聞いたんですが」
「あ、それはこういう釣りではなく底引き網での話だね。兄ちゃん、そんなのに興味があるのかい?邪魔だからそのまま海に捨てる奴もいるけれど、そう、あの辺りに投げ捨てたりしている奴もいるよ。陸に戻ったときに見に行ってみたらいいさ」
「ありがとうございます!」
「どの辺りの底をさらっているときに見つかるんですか?」
「そうだね。入り江でもあの東の岬の手前あたりかな」
「レオ、どうしたんだ?」
「いや、そのあたりの海には昔の遺跡が沈んでいるのかな?って思って」
「なるほど、兄ちゃん、夢があるね。結構深いから泳いで潜ることはできないけれどな」
「そういう魔法があれば良いのに」
フィロのつぶやきに皆が笑っている。
「おい、あれって」
ダガーほどの大きさの魚の群れが船に近づいて来ている。しかも胸ビレが大きく、ときどき海面より上を飛んでくる。
「あれは!やばい、逃げろ。アイツに噛まれると肉を食いちぎられるぞ」
有名な魔物の魚らしいことを漁師が教えてくるので、レオは王級水魔法≪霧氷≫で飛んでいるものを次々と凍らせていく。それで全てが対処できるわけでないので、ケーラが≪氷壁≫を、他の者たちもそれぞれ攻撃魔法や武技の≪飛斬≫などを発動して船に近寄らせない。合間を見て悪魔たちも召喚して魔法発動させるので、船の安全は確保される。
「アンタらって、すごいんだな。みんな若いのに凄腕の冒険者だったんだ」
「へへへ。まぁ任せておきなって」
「って、今度はまた大きいのが来たぞ!」
その飛魚たちを追いかけて来たのか、レオの上半身ぐらいは口に入りそうな大きな魚が何匹も近づいてくる。船上からでは後手になるため≪飛翔≫で海上に飛び出し、魚たちの真上から王級火魔法≪爆炎≫を発動していくらかの海水も蒸発させながら撃退していく。
「レオ、まわりの船に被害が出ないように気をつけなさいよ」
冷静にマルテッラが注意喚起しているが、ここまでくると漁師たちは驚きで言葉が出ない。
「お騒がせしました。もう大丈夫ですよね。こんな魚が襲ってくることもあるならば、漁師って大変なんですね」
「いや、十年に一度程度だよ。しかも撃退なんてできないから大きな被害が出るんだよ。兄ちゃんたち、すごいじゃないか。シラクイラの救世主だよ」
そんな頻度だから自分も聞いたことがなかったんだと思っているレオの横で、代官様に報告して盛大なお祭りにしないと、という漁師たち。
私たちはお忍びできているのだから大事にしないように、とマルテッラの指示で宿の従業員が漁師たちの興奮を抑えるのに必死であった。




