家族の歓迎
家族、そして幼馴染だけでの歓迎の話は尽きない。しかし、レオとして話しておきたかったことを切り出す。
「あのさぁ、このシラクイラを出るつもりはある?」
「レオ、まさか!」
「そう、ルングーザ公国、それが嫌ならコリピサ王国でも良いんだけど一緒に暮らさない?コリピサ王国なら大きな屋敷だし、ルングーザ公国でも今から探すから、家には困らないし、家事などをしてくれる人もいるし。これから一生、働かなくても大丈夫なんだけど……」
「レオ、わかっているだろう?そう言ってくれるのはありがたいけれど、私たちはこの宿屋をやっていくのが生きがいなんだよ」
「お母さん……」
母アンだけでなく父ディオも兄クロもそれに頷いている。
「あら、私は行っても良いわよ」
「ルネ、お前は皮革職人をがんばれ」
「!痛いわよ。もぉ分かっているわよ」
ルネが場の空気を変えるために発言したことに対して、それも分かっているロドが頭を軽く叩いている。
レオとしても断られると思っていたが、それでも実際に断られると残念ではある。
「じゃあこれを……」
両親と師匠にそれぞれ貨幣の入った皮袋を渡そうとするが、それも断られる。
「分かった。でも、万が一に何かあってもすぐに駆けつけられないから、これだけはお守りにしておいてね」
皮袋からミスリル貨を取り出し、金貨を5枚ずつと高級の傷回復ポーションを3本ずつ入れて、アンとロドに押し付ける。
「レオ、それって!見るだけで良いから!」
「こら、ルネ!」
今度は空気を理解したわけではなく本気でルネがミスリル貨に飛びつく。
「だって、これってミスリル貨でしょ?銀貨とは違うわよね。一生見る機会なんてないだろうから」「ほら、ガスも」
「あぁ、確かにこれがミスリルか。鍛冶職人としてはいつか扱ってみたいものだな」
「じゃあ、俺も欲しいとは言わないが見るだけ」
ルネとガスに、兄のクロも混ざってくる。大人たちも、自身も直接見たことがあるわけではないが、子供達の年齢相応の感想と行動に頬がゆるむ。
そしてある程度すると、夜も遅いとして解散になる。
「レオ、しばらくは居るのよね?連絡なしに居なくなったら怒るからね!」
ルネに念押しされたあとは、久しぶりの実家の自室で今日のドタバタを思い出しながら眠りにつくレオ。
翌朝は、約束通り公女や仲間がとまる高級な宿に移動する。
両親達に、一緒に暮らすことも多めのお金を預けることも断られたことを残念そうに語るレオ。
「レオ、それは仕方ないわよ。あなたみたいに急な環境変化に対応できる人は限られるのよ。それと、急に大金を持ったことを周りに知られるとどうなると思う?」
「!」
「そうよ、強盗とかよ。この前も言ったでしょう?誘拐されて身代金の要求などされる危険もあるわよね。レオも家族のことになると思考が甘くなるわね」
「マルテッラ様のおっしゃる通りですよね。じゃあ、生まれ育ったこの街に道路整備とかのお金を置いていくのも……」
「そうね、お金を誰から?となるのに、代官や役所の人がちゃんと黙っていてくれるかしら。確かに発展しきってはいないけれど、困るほどの街でも無いようだし、無理に変化させない方が良い街なのかもよ。ご両親達も好きな街なんでしょう?」
まだまだ感覚が庶民であることをレオだけでなく、横で聞いていた仲間達も自覚させられ、マルテッラが公女であることを再認識する。
「それより、港町なんでしょう?せっかくなんだから、この街のことを案内してくれるかしら?」
「あ、俺たちも内陸育ちで、海にあんまり縁がなかったから楽しみなんだ。海の美味いもの食べるだけでなく、せっかくなら船に乗りたいな」
「レオ、私も!船に乗ってみたい!」
エルベルトやフィロの発言に対し、レオは自分が船に乗った最後がマルテッラと共に誘拐された時であることを思い出し、公女を見るが普通に頷かれる。
「承知しました。シラクイラのこと、ご案内いたします!」
レオは張り切って言ってはみたものの、この街に居たときには人とあまり話せずほぼ出歩いてもいなかった。そのため、高級宿らしくそういうことを依頼できる従業員にお願いすることになる。
「今日は色々と観てまわるため、庶民のふりをするわよ」
マルテッラが張り切るが仕草などを踏まえてもそうはなれず、せいぜい大商人の令嬢である。
「仕方ないですね。マルテッラ様は他国の商店のお嬢様、レオはその小姓、残りの俺たちは護衛の冒険者。でもフィロがそれっぽく無いなぁ」
「何ですって!」
「フィロ、そうは言っても周りから見た身長とか……まだまだ見習いだがお嬢様と同性の付き人にしておこうか」
結果、貴族っぽくはない馬車にマルテッラとレオとフィロだけが乗り、御者兼案内人を宿からの従業員が務める。その他の者たちは、大きい戰馬では目立つので、宿屋が手配して借りて来た通常馬に騎乗して観光することになった。




