2020年 6月
2020年 6月
助手席でカチカチカチ、と車のウィンカーから出る小気味いい音を聞いていた。結局あのあと仕事をゴリ押しして5月末から休んだ。職場に相当な迷惑をかけたようだが、申し訳なさはなく、痛快にも感じていた。辞めてからは、家で寝るわけでもなく食べるわけでもなくただ過ごしていたが、その僕をドライブに誘ったのは、幼稚園からの幼馴染の裕輔だった。
「でさ、その女の子がめっちゃ胸おっきいのよ」と隣で裕輔は最近ワンナイトした女の子の話を自慢気に話す。ほぼ完璧なブレーキからの一時停止から、慣性をほとんど感じさせない加速。「なるほど?」と僕は適当に相槌を打ちながら、磨き上げられた助手席の窓から高速で流れていく道路の白線を眺めている。裕輔が車のエアコンを調節した。車の運転で、そいつがモテるかどうか分かると言うけれど、裕輔は間違いなくモテる運転だろう。僕が休んでいる理由を聞くでもなく、こんな下世話な自分の話を軽快に話している裕輔はかなり頼もしく、気楽だった。裕輔は、大丈夫じゃない奴に大丈夫?と聞いてはいけないことを、知っている奴だった。
2人でしっかり3セットサウナに入って喫煙室で煙草を吸った。久しぶりにコンビニ以外に出かけたからか、サウナで体の老廃物を出し切ったからなのか、格段に美味い煙草だった。
「仕事、辞めたわ」
裕輔のに質問させるのも申し訳なくて、報告するように言った。
「そりゃ最高だな」
と愛おしそうに煙を吐きながらニヤッとして幼馴染は言う。
何か付け加えて説明しようとしたけど、結局そのまま仕事の話をすることはなかった。裕輔も聞きたがってはいないのが分かる。説明しなきゃいけないことは、俺の呼吸による二酸化炭素や声のトーンから、全て裕輔に筒抜けだった。
究極な話、人の辛さなんか当の本人しかわかるはずない。こういうのを捻くれているというのかもしれない。でもここまでの23年間で出会った複数の「相談乗るの好きなんだよね」と得意気に話す人は、一様にネットに載っているような有名な慰めの言葉を流暢に話すばかりの人だった。
僕を含め、他人からなにか重要な悲劇めいた話を聞いた時、迂闊に言葉を返したところで本当にその人のためになるかは受け取る人によるし、人を言葉で慰めるというのは、相当な技術を要する。どんな時でも必要なのは、いつと下ネタと軽口を叩き、雑にドライブに誘ってくれる存在だ、と思う。
その後2人でラーメンを食べて(裕輔は好きな対位について熱弁していた、)各々解散となった。その日は久々の外出と3セットのサウナのおかげで、心地よい疲労感と共にたっぷり10時間寝ることができた。
僕の友達の話。




