ドラゴン肉怖い
ドラゴン肉の効能・・・滋養もあるけど・・・
@短編その66
「おい!やかましいぞ!!往来の邪魔だ!!」
俺は、往来の多い道のど真ん中で騒いでいる男女に怒鳴り散らしてやった。
何を痴話喧嘩、してやがる。邪魔だ。
突然怒鳴られた男女は俺の方に振り向くが、まだ諍いを続けようとしているようだ。
じろりと睨むと、二人は怯んで、そして自分たちの状況に気付いた模様。
「あ、すいません」
女がペコリと頭を下げるが、となりの男はヘラっとした態度、むかついたので剣の鞘で突いてやった。
「どーもどーも、あだっ!突くなよぉ・・ケツ突き返してやるぞ。俺の好みじゃねえけど、イケメンだな」
「ばかっ!!あ、すみません、馬鹿な弟で・あ。今はおとーとじゃ無いわね」
何か変なこと言ったような・・聞き違いかな?
どう見ても10代の娘が20くらいの男の姉ってないだろう?
ま、いいか。すごすごと男女は道の端に寄る。
「もう騒ぐなよ。今度騒いだら投獄するからな!」
俺はふたりに警告すると、その場を後にした。
ああ、いちゃつくカップル、死ね。
そうさ。俺は最近彼女にふられた孤独な男さ・・・
せっかく王子の護衛の少年に、パールドラゴンの鱗をもらったのにプレゼントしそびれた。
もらった日、彼女と久しぶりのデートだったんだが、王と妃が乗るパレード車の爆破騒動で任務に戻らなくちゃいけなくなって・・・結局別れることとなったわけだ。仕方がないじゃないか、仕事なんだから・・・
ここはセブライ王国。
俺は近衛騎士団所属の騎士、ラヴィア。
おい、女みたいな名前だ言うな。俺だってこんな名前つけた親に文句言いたいわ。
ま、子供の時に死んだから、文句も言えねー。名前の由来を聞いて、納得出来たら許せたかもしれないが、もう分からないしな。いけねえ、湿った話になっちまった。
俺の隊は、近衛なので王族の警護がメインだ。
最近は王子がドラゴン狩りをするので、それに付き合わされている。
俺以下6人は、通称『大八車隊』と呼ばれている。略称『八隊』だ。
何をするかと言えば、ドラゴンを狩るじゃろ?
それを王子とその護衛が手早く解体するじゃろ?
で、その解体したドラゴンを、大八車に乗せて運ぶのが役割だ。
ギルブリット王子、御年18歳。王子なのにドラゴンの解体がとても上手。
この国の後継なので、俺たちは大八車を引いてはいるが護衛もしているのだ。
でも王子の学友兼護衛が強すぎる。もうあいつだけでいいんじゃね?って感じだ。
そして今日もドラゴン狩りに駆り出される『大八隊』だった。
「殿下、矢を!!」
「うむ!」
阿吽の呼吸で、王子とその護衛のふたりはシルバードラゴンを追い詰める。
王子の放った矢は毒矢、柔らかい腹の部分に数本射抜く。
「毒が効いてきた!」
「俺が抑えます!殿下は首を!」
「分かった!・・・・はあっ!!」
護衛の少年が、ドラゴンの頭を盾で押さえつける隙に、王子が大剣で首を跳ねた。
ドラゴンは呻き声さえ出せずに沈黙した。この間5分。なんて速さで狩るんだ。ドラゴンだぞ?
「すごいねぇ、うちの王子とサトクラは」
大八隊は今からが忙しい。呆れ声を出すのは騎士団副団長のガイレルだが、体は物凄い勢いで大八車を飛ばして進んでいる。
この王子に護衛、解体がやたら早いのだ。みるみる間にドラゴンの皮を剥いでいく。
護衛なんか、平気で手をドラゴンの目に突っ込んで、くり抜いて持ってくるのには仰天する。
王子も腹を掻っ捌いて内臓を取り出している。『おお、こいつ、オーガ食ったんだな』とか、内臓から透けて見える咀嚼物をまじまじ見ているのには呆れてしまう。今は馥郁とした匂いの内蔵だが、後1時間もすると恐ろしく臭いアンモニア臭に変わるので、大急ぎで処理をする。穴を掘って、いらない内臓を埋めるのだ。そして埋めた土の上に目印の杭を挿し、2週間後に肥料として回収するのだ。この土がまたいい肥料となるのだ。俺たちは王子達が狩りをしている間に穴を掘っておいた。王子自らが穴に内臓を落としている。そして、護衛少年はドラゴンの皮を剥ぎ、食える肉と骨を外す。こいつ、
「解体なんか魚を捌くのと同じですよ」
とか言うんだ。王子もドラゴンの頭蓋をかち割り、脳髄を引き出して袋に入れる。
この変な護衛が教えるから・・・ドラゴン解体が上手な王子ってどうよ?
「シルバードラゴンの肉は、滋養が多いですから騎士団の皆さんで召し上がってください」
そして切り抜いた、牛でいうところのシャトーブリアンを持ち上げてニコッと笑うんだ・・
何この子、怖い。でも美味そう。
「これ、今なら生で食べられますよ」
「ふふ、そんなこともあろうかと」
王子が懐から塩を取り出した。
「さすが殿下!実は俺も」
護衛も懐からハーブと胡椒、大蒜オイルを取り出して、二人でニヤッと笑い合っている。
・・・王子、すっかり護衛に感化されている。いいのかそれで。
護衛が何か調理している間、俺たちは大八車をドラゴンの側に寄せて解体されたドラゴンを乗せていく。
「最近ドラゴンが多く現れるよな。何かの前触れかな」
ガイレルが神妙な顔をして、ドラゴンの尾を持ち上げると大八車に乗せた。
彼は俺の同期だが、最近副団長に格上げしたのに『大八車隊』に参加してくれる。ありがたい。
「すごいな、あいかわらず王子達のドラゴン狩りは」
今回は暇だったらしい。騎士団長まで付いてきていた。
この護衛も兼ねた『大八車隊』は、近衛騎士団の中でも精鋭が集まっているのだ。
確かにドラゴンやら魔物やら、例年になく多く出没している。
1年前、他国で大厄災が起こったそうだし、気を引き締めていかないとな。
とか話しているうちに、サトクラが作る料理が出来上がったようだ。
「うまそうだな」
「ちょっと体力回復してもらおうと。狩ってすぐじゃないと、食べられない珍味ですからね」
「しかし、器用だな、お前」
「俺の実家は料亭・・料理屋でしたからね」
あの何でも出来る護衛の少年、料理さえも出来るのか。
なんでそんななまくらナイフで、肉を薄ーく切れるんですかねぇ・・・
俺や団長、そして王子が地べたにあぐらで座り、サトクラが蝋引きの紙を皿代わりにして、薄切りのドラゴン肉にオイルとハーブ、胡椒に塩で和えて完成、『簡単カルパッチョ』を皆に配る。
「元気もりもりになりますよ、どうぞお召し上がりください」
美味い。美味すぎる。
爽やかな風の吹く原っぱで、肉を賞味・・・酒が欲しい、騎士団員全員が思ったのは言うまでもない。
・・・・・。
なんか・・
体が、熱い?
というか・・・
力が湧いてくる?
これがドラゴン肉の滋養なのか?
「熱い」
「なんか、滾る」
「これは・・体が動かしたいかなー」
全員、立ち上がった。
みんな顔が・・・殺気立っていた。なんか、変だぞ?
「ドラゴン肉、ヤバイ」
滋養なんてもんじゃない、これは・・・ドーピングだ。
体力というか・・・あれ?
下半身が、な?
ムラムラっと・・
「え。『アラームさん』、それ、え?ええ!!まずい!!」
突然サトクラが叫んだ。っつーか、こいつ時々誰かと喋っているんだよ。お前の周り、誰もいないのに。
まさか幽霊と話が出来るのか?こいつならあり得る。
「いや、美味かったぞ」
騎士団長が尻をモゾモゾさせながら言う。何で尻がモゾモゾ・・俺もだ・・・というかみんなだ。
サトクラ、顔が真っ青だぞ?
「違います!!シルバードラゴンの今食べた部位は、じじいも立たせるほど、絶倫させる精力剤と同じ効果があるんです!皆さん・・今、あそこはどんな具合です?」
「ええええ・・・えええ〜〜〜?」
俺たちは全員情けない声を上げた。
給仕していたサトクラはまだ食べていないが、殿下は一切れ食べた。まだ摂取が少ない。
だが俺たち騎士は、もうぺろっと完食だ。みんな大食らいだからな。
あ。
なんか、きたきた・・やばい。
「とにかく、体力も一緒にアップしています!宿営地に急いで戻ってください!解毒剤用意して待ってますから!」
サトクラは『ソーサー』に王子と乗って、先に帰っていった。王子も妙な仕草をしている・・うん。
あいつの不思議武器は空も飛べるんだよ。本当、何でもありだな。
そっして俺たちは今までにない速さで大八車を押し、いやかっ飛ばした。
みんな『うおおおおおおお!!!』と怒号を吠え、信じられない速さで運びましたとも!
そして宿営地に戻ると、サトクラが解毒剤を用意していたが、団長とガイレル、そして嫁や恋人がいる奴らは飲まずに帰っていった。それはもう、大急ぎで。
これは今夜、いや今からお楽しみですかねぇ・・いいな。俺、彼女と別れちゃってるし。
というか!!解毒剤貰ったの、俺だけかよ!!ぎゃあああ・・・くやしい〜〜!!
「・・・・・・」
あ。サトクラ、俺だけが解毒剤貰っているから・・・察しちゃいましたか。俺が彼女と別れたの。なにその『しんみり顔』は。ううっ、賢しい子なんて!!
とにかく鎮めよう、落ち着かないとまずい。俺の部屋に急ぐ、ってこんな時に大体邪魔が入る。
最近頓に親しくしている奴、隣の部屋のあいつがちょうど部屋から出て来たタイミングで出会した。
「お。どうした?顔色悪いな」
うわ。何でこんな時に同期が、動悸だ、同気で・・・
そして1年後。
団長、副団長、既婚者、恋人持ちみんな、同じ時期に生まれた子供がいる。効きすぎ、頑張りすぎ。
俺はというと・・・道を踏み外したのか、いやまあ、察してくれ、まあ分からないならいい、うん。
最近自分の名前が好きになってきた俺だった。
彼に名前を呼ばれると、うっとりしてしまうのだ。
まあそういう事だ。
はた迷惑だったのか、これで良かったのか・・恐るべしドラゴン肉。
タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。
4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。
ほぼ毎日短編を1つ書いてますが、そろそろ忙しくなるかな。随時加筆修正もします。