1-6 「でぶ」を置いて先に行け!
あー、死にてぇ……。
俺は憤慨と羞恥でいっぱいになっていたが、ひとまず、スマホを取り返すべく「女神」らしき人物に話しかけた。
「あのっ……『女神』様(仮)……俺のスマホを返してくれると……いやっ、そのっ……。なんでもないです……」
五十嵐君人……「でぶ」であり童貞でもある彼は「でぶ」であるがために三次元女性との接触機会は殆どなく(アイドルの握手会は除く)、クラスが同じだった女子とさえほぼ会話がない。義務教育過程の間でさえもだ。ピュアピュアチェリーボーイなのである。
しかし、この「女神」(仮)←こいつみたいな奴を「女神」とは認めたくない……見た目だけは大層美しい。
青に若干薄目のピンクが混ざった輝く髪、存在感を放つ推定Gカップ(ただの勘です、童貞だもの)の胸、身長は155cmくらいだろうか?可愛いとか綺麗ではない「美しい」とさえ表現できる整った顔立ち。間違いなく、黙っていれば「女神」だと紹介されても疑い無く信じるだろう。
すると「女神」は、ニヤニヤをさらに増長させ、君人を弄ぶ様に話し出した。
「クスクスクスクスクスクスククスクススクスクスクス、まじ童貞感丸出しやんですけど!クスクスクスクスクスクスクスクスクスクス、あはははは……」
俺は死にたさを通り越して怒りを覚えてきた。
「女神」にさえ、「でぶ」だ「童貞」だ「生きてる価値もない」だ「歩く公然猥褻物」だの言われたのだ(被害妄想込み)。
この「女神」殺す。
いや、なんならこいつを押し倒して卒業してやる。
見るからにやらしい体をしている上に、この性格の悪さでは、なんの罪悪感もわかない。
まぁ、ビビりな俺に出来るわけないのだが。
何より、合意なくそういうことをするのはいけないと思います!! まぁ、ムカつくからひっぱたくけど。
怒りに身を任せた俺が「女神」を睨み付けると「女神」の背後から、大きな鮫型モンスターがぱっくりと口を開けて近づいているのが見えた。
「いやいや!泉になんで鮫いんねん!! 」
「解析鑑定」を使用。
種族:ジョーンズン
驚異:8
性質:人間を100人以上食らったシャークンの進化後。群れを作らず単独行動を好む。基本海に生息しているが稀に更なる進化を求めて「女神」が住み着く泉に現れる。「女神」の力を取り込んだ場合、「魔王」に匹敵する力を持つ「リヴァイアサン」に進化するため、見つけ次第討伐すべき対象。
……。
WHY! 異世界の鮫さん!!
ハイオークより驚異度上やん!
そして! このままだと海の神に進化してまうやん!!
俺は、正直糞「女神」を助けないことも考えたが、流石に異世界生活初日で人が死ぬのを見るのは避けたかった。そして、見た目の醜さ同様、心まで醜くなってしまうことは避けたかった。リヴァイアサンとか絶対戦いたくねぇし……。それにあの「女神」は俺がボコると決めたのだ。勝手に死なれたら困る。
本音を言うと「カッコいい! 君人様!! 抱いて!!! 」というテンプレをやりたいだけではあるが、やってやる。
ハイオークさんには何故か親近感が湧いてしまい後れをとったが、あのジョーンズンにはなんの親近感も湧かない。
スキル「でぶエット」を初めて使用。
本来であれば殺傷力が高そうなスキルを使いたかったが、生憎今の俺に攻撃手段はない。
すると、ジョーンズンはすぐにブクブク太りこけた。これで、動きが大分鈍くなるだろう。
自身の体へと急速に訪れた激しい変化に怒りを覚えたのであろう……その咆哮により、奴の怒りは手に取るように理解できる。そして、事態に気づいた「女神」が悲鳴をあげていた。俺はまず、嫌々、仕方なくエセ「女神」を逃がすことにした。
「俺が注意を引き付けるから、その間に逃げるんだ! 俺を置いて先に行け!!」
…………「女神」は、とっくに逃げていた。
先程まで、目の前で悲鳴をあげていたはずなのだが……いや、逃げたことは良い。結果的に逃がすつもりだったし……。
良く見ると、とお~くの方に既に小さくしか見えない「女神」の姿があった。死ねば良いのに。
「あのエセ女神!俺のスマホ返してから逃げんかい!!」
ついつい「でぶエット」を発動してしまい、太った女神がずっこけていた。滑稽である。腐った玉ねぎに埋もれれば良いのに。
少し溜飲が下がったところで、俺の「女神」に対するツッコミを宣戦布告と捉えたジョーンズンは、急速的に太ったにも関わらず、それを全く意に介さず、恐ろしい跳躍力で飛び上がり、大口を開けて俺に向かって急落下してきた。
俺は慌てて回避すると、そこには、鮫型モンスターが立っていた。
「足あったんかい!!」
俺は思わずツッコんだ。




