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1-5 「でぶ」の黒歴史


俺は50m走ったところで倒れた。


そりゃそうだよ、「でぶ」だもの。


別に現状、身体能力とか上がってる訳じゃないもの。


そして勿論追い付かれた。しかし、諦める訳にはいかない。這いつくばり、草にまみれ、擦り傷だらけになりながらも醜く滑稽に逃げ惑った。


しかし、このハイオークさん、一つ気になることがある。何故か攻撃を一切してこないんだ。追いかけてくるだけで…………ん? もう一度「解析鑑定」を……。


種族:ハイオーク

驚異:7

性質:人間を100人以上食らったオークの進化後。群れに属していないオークを見つけたら自分の群れに加えようとする。群れが大きくなる前に見つけ次第排除すべき対象。


…………なるほど!わかったぞ!! 要するに俺を群れに属していないオークだと思っているのだな!!!


なんて傑作なジョークなんだ! イギリス人顔負けだぜ!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……。


「って!誰がオークやねん!! 」


俺はついノリと勢いでハイオークさんにツッコミという名の「でぶ」パンチを食らわせたが、勿論全く効かなかった。


そしてオークさんは、鬼の形相でこちらを見てらっしゃる。


うん! 今度こそ死んだね!!






ーーーーーーー


「全く……酷い目にあった……」


俺はハイオークさんにぼっこぼこにされたものの、ぶん投げられて、逃げている内にいつの間にか近くにあった泉にジャポンされた。


きっと、いくら人間を100人以上食べているハイオークさんでも、こんな醜く太った脂まみれの肉は食いたくないのだろう。


あるいは、最後の最後まで同族だと思われており、流石に共食いは避けたのだろうか?


俺は泉から這いつくばるように地上へあがると、一旦周りを見渡してみた。


そこには、太陽に照らされ、輝いた泉があった。


「あ~、びちょびちょ……」


俺は服を脱いで雑巾絞りすると、泉付近に生えていた手頃な木の枝に干した。次いでTシャツ、靴、靴下、ズボンと脱いで干した。


一瞬パンツも干そうかと思ったが、そこは流石に躊躇った。「でぶ」にも羞恥心はある。しかも、ただでさえ醜い「でぶ」が下半身丸出しになっていたら、お見苦しいではすまない。


それこそ一発通報、歩く公然猥褻物として世に晒されるのである。異世界でもその点は変わらない可能性が高いのである。


パンツ一丁の俺は、とある超重要なことに気がついた。


「やばっ!! 俺のスマホなくなってんじゃん!!! 」


俺のスマホの中には、沢山の黒歴史が詰まっている。自作の俺TUEEE小説(全2768話:未完成)、中2の時に隣の席だった漣さんへのラブレター(便箋25枚:ひよって渡せなかった)、漣さんへの熱い思いを込めた自作ポエム25作及び漣さんへの熱い思いを込めたラブソング全12曲……それらは決して人には見せられない俺の泥沼だった。


また、俺のスマホには、二次元、三次元問わずこれまでの嫁達やアイドルとの写真、思い出が詰まっていた。まだ消費しきれていない品の数々も残っており、手放したくはない一品だった。


それに、衣服や水筒等、故郷を感じることが出来る品はもう殆ど持っていないのである。


俺が憂鬱な気分で湖を眺めていると、突然、湖の中央が虹色に輝いた。その様はまるで、この世の虹という虹を詰め合わせて結晶化したようだった。


すると、輝きの更に中央から、透き通った美しい声が響き渡った。


「貴方が落としたのは、この金のスマホですか? それともこの銀のスマホですか? 」


「いやっ! 俺が落としたのは普通の……」


「それともこの黒歴史が詰まった他人には絶対見せられないスマホですか!? 」


「っっっっっ!!!!! 」


俺が驚きと羞恥に軽く悶えていると、虹色結晶の中から、それはそれは神々しく美しい「女神」様としか形容できない存在が…………殺意しか湧かないレベルで超ニヤニヤしながら現れた。


「その! 普通のが!! 俺のスマホ!!! 」


「貴方は、正直者ですね……そんな貴方にこの金と銀の…………もうっ! 無理!!! いや~ん、おっかしぃ~!!! クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス」


「どんだけ笑ってんだよ! そんな可笑しいなら腹抱えて笑えよ! クスクスクスクスうるせーよ!! 」


「その美しい金色の髪の毛は、まるで太陽に照らされた満面の小麦畑の様に美しく、そのつぶらで愛らしい瞳は、油断すると吸い込まれそうで、まるで深淵を覗いている様な……」


「っっっっっ!!!!!

もうっ!勘弁してくれ……」


そのポエムは漣さんへ伝えられない思いを綴った黒歴史である。


あー、死にてぇ……。


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