1-10 「天使」の魔法と「でぶ」の無双
ーーー天使視点ーーー
私、マイリルは義理とはいえ信頼していた義父に売られ、親しくしていた街の人々にも裏切られ、義父に犯されそうになったところを逃げた先で「勇者」に捕まりそうだった。
私の人生は一体なんだったのだろうか?
贅沢なんてしたことない。
友達と遊んだ記憶もない。
毎日毎日<勉強、花嫁修行、回復魔法>
私の人生は、教会の名誉を上げるためだけの一生だったのだろうか……?
そしてこれからは女の敵「勇者」タイキ=シオハタの性奴隷にされるのだろう……。
怖い、辛い、おぞましい、恐ろしい、汚い、酷い…………。
死ねば良いのに……。
義父も街の人達もこの男も全員死ねば良いんだ……。
殺す、潰す、捻る、呪う、圧す、滅す……。
しかし、私にそんな力はない。
私は全てを諦めた。
「What!! 」
でも、来てくれた。
私の王子様。
太々とした腕や足は凄く格好良い……。
真ん丸のお腹やお顔は凄く可愛い……。
私は緊張して声がでなかった。
そして、ついついその人の手を握ってしまった。
見れば見るほど魅力的な深みのある格好可愛いお顔……。
好き……。
凄く好き……。
話してるところも戦ってるところも好き……。
格好良い、可愛い、素敵、好き、愛してる……。
そんなことを考えていたら、彼に不意に腕を引かれ、そのまま抱き寄せられた……。
嬉しい、喜び、幸せ、時間よ止まれ……。
そこで私は気づいた。
今まで彼のことしか見ていなかったから、全く気がつかなかった。
それから間もなく、炎は彼を焼いた。
ーーーでぶ視点ーーー
「あっつーーーー!!! 」
俺は「勇者」の炎系魔法を背中にまともに食らい、ダメージ及び火傷を負った。
なんだあいつ、控え目に言って死ねば良いのに……。
今すぐあの「勇者」を潰したい。
しかし、MPは殆んど尽きていた上にHPも根こそぎ持ってかれた。
「あっ…………。」
「天使」ちゃんが目の前で大粒の涙を瞳に宿し、心配そうに見つめていた。すると、「天使」ちゃんは背中に手を回してきたため、先程まではこちらが抱き締めている形だったが、抱き合っている形になった。
正直、助けるためとはいえ抱き締めたことを咎められ、お巡りさんにご厄介になる可能性を視野にいれていたので、この行動心理が理解できない。
というか、「身代わり」のスキル持ってたことを完全に失念していた……。それがばれたら完全に抱き締めたくて抱き締めたと思われる……この娘の前で「身代わり」使うのは辞めよう……。
それにしても、可愛い女の子と抱き合うなんて人生で最初で最後だろうに、あまりの激痛に感触を楽しめないとは……。
背中が痛い、痛い、痛い……。
「完全回復! 」
「天使」ちゃんが、背中に回した手から回復魔法を放つとすぐさま火傷及びダメージが治ったばかりか、長年苦しめられていた軽い腰痛や膝痛まで治った。更に、MPまで全快していた。この娘、レベル1なのに凄い……。
「あっ……ありがとう……」
俺はきちんとお礼を述べたかったが、こんなに可愛い少女とまともに話すことなど出来る訳もなく、ちょっとどもってしまい、堪らなく恥ずかしかった。
「い……いえ……」
「天使」ちゃんは俺から少し離れると、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
こんなぼよったれた男に抱き寄せられ、治療のためとはいえ抱き締めあってしまったのだから、お怒りはごもっともだ。
これがイケメン相手であれば恥ずかしくて顔を真っ赤にしているのだろうが、生憎相手は私「でぶ」である。
あとで謝ろう……そして警察だけは勘弁してもらおう……。
さて、気を取り直して俺は「勇者」(太っている)に向き直った。HPもMPも全快したし、こっからはずっと俺のターンだ……。
「輝! 」
俺がスキルを唱えると「勇者」は目を瞑った。
スキル「輝」は現状では光るだけで目眩まし程度にしか使えそうにない。
本命はこちらである。
「猛毒」!
すると、「勇者」の周辺に紫色のドロドロした粘着質な液体が降り注いだ。
「ぐっ!!」
勇者は苦しそうに片膝を地面についた。
「解析鑑定」
名前:タイキ=シオハタ
年齢:20
階級:5
状態:猛毒、肥満、憤怒
職業:(太ってる)「勇者」
通称:炎の「でぶ勇者」
称号:転生してきた「でぶ勇者」
よし……。ちゃんと「猛毒」は決まっていたようだ。
「切断! 」
スキル「切断」は動物以外を切り裂く。とりあえず奴の衣服を切り刻んでおいた。鎧等であれば切り裂けなかったのだろうが、戦闘に適さない服を着ていたため、「勇者」はあっという間にパン一になった。
「雷鳴」
スキル「雷鳴」は指先から雷を放出する攻撃的なスキル。
「ぐふっ!! 」
勇者は、ついに腹から地面に伏した。
名前:タイキ=シオハタ
年齢:20
階級:5
状態:猛毒、肥満、憤怒、麻痺、戦闘不能
職業:(太ってる)「勇者」
通称:炎の「でぶ勇者」
称号:転生してきた「でぶ勇者」
どうやら、戦闘不能に追い込んだらしい。
最悪「でぶ」パンチを使わざる負えないかと思っていたが、弱い敵で助かった。
さて、散々「でぶ」だとか馬鹿にしてきた上に一度は大火傷させられた訳だし、首貰っとくか……。
俺がもう一発「雷鳴」を繰り出そうとしていると、「天使」ちゃんに左腕を引かれた。
俺が振り向いたその瞬間、突如両手で顔を捕まれ引き寄せられた。
「天使」ちゃんは目を瞑って顔を近づけてきた。
五十嵐君人改めキミト=イガラシ……ついにその時を迎えるのか……。
「でぶ」である俺がこんな儚げな可愛い少女とキスしてしまっても良いのだろうか?
親御さんに見つかったら銃殺刑ではないだろうか? 「でぶ」だもの。
俺は覚悟を決めて目を閉じようとしたが、「天使」ちゃんの顔を近づけてくるスピードと顔の角度を見て、ガード及び回避を諦めた。
「ドスっ!」
顔面に鋭い頭突きをもらい、えげつなく鈍い音が響いた。
「かほーん……」
俺は地に伏せ、「天使」ちゃんの悲鳴が聞こえてくるのだった。




