行進(3) 博文
もはや独ソ戦ですよね。
「やめろぉ!!」 「くたばれ!!」
あちらこちらで罵声と拳が飛び交っている。デモ参加者に比べて、数は圧倒的に少ないものの、警官隊はかろうじて優勢を保っていた。しかし、それが5分後、10分後に保てているかどうかは全く保証出来なかった。
「やばくねぇかこれ、、このままじゃ死人が出る。」
「…… 今すぐ逃げるぞ。」
博文は秀樹に言った。
しかしその時すでに、秀樹は数多くの暴徒の合間を縫って、大通りの端から逃げようとしていた。
だが、大規模すぎる列のせいで、秀樹は博文の前で川に流されるように人混みの中に溺れていった。そして秀樹はそのまま博文の視界から外れて行った。
「自分が秀樹を誘ったからこんな事になったんだ。」
博文は自責の念に酷く駆られた。しかし、今は秀樹を連れ戻してこの場から立ち去るのが最優先だと心を切り替え、すぐに秀樹を見失った人混みの中へと飛び込んで行った。
10分後
デモ··いや、暴動は警官隊の応援部隊が到着したことで、鎮圧されかかっていた。人混みも徐々に薄くなってきたことで、憔悴した博文は秀樹を探すため、通りの端まで出てきた。
「ここからなら…」
しかし、どんなに探しても、もう既に数少ない列の中にも、そして逃げたならいるであろう安全な場所にも秀樹はいない。
「もしかして…」
とんでもないことをしてしまった、とんでもない所に自分の昔からの友達を連れてきてしまった、、
博文はうつむき、言葉にならないほどに自分を責めた。
「俺は、、この団体がなんかかっこいいからだけでチラシをもらって、、、なんにも調べずに1人じゃ心細いからと政治に興味がある秀樹を勝手に誘って、、、」
「自分のせいだ」
結局、言葉にならない程の考えを歩んだ後にこぼれ落ちたのは、一つの安直な答えだった。
その時、誰かの足音が近付いてくると、博文の後ろで止まった。
「なんで泣いてんの?」
博文は、はっとした気持ちで後ろを振り向いた。
そこにいたのは、これまで見た事もないような清々しい表情をしながらも、手や顔に痣を作っていた秀樹だった。
「最高だったな。誘ってくれてありがとう。」
博文は理解が追いつかなかった。
サブタイトルにもあるように、これは博文の視点です。
次回はみんな大好き秀樹くんの視点です。