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しゃっくりのはじまり

春の訪れを感じる2月半ば。今年はいつもより暖かかい冬だったとか、気象予報士がいっていた。

一足早い春を謳歌するカップルたちを横目に見ながら、わたしは帰り道を急ぐ。

新作パッケージとはいえ、平凡極まりないVRMMОをこうまで愛するのには、ちょっとした理由があった。


現実のわたしは、どうしようもない欠点を抱えているからだ。


「しゃっくりが続く」この欠点は、幼いころからわたしを悩ませ続けた。

ふとしたことで始まる「しゃっくり」という小さな悪魔は、わたしをからかいの対象に変えた。

少し急いで食べれば、しゃっくりになる。少し多めに飲み込めば、しゃっくりになる。

なんの前触れもなく、しゃっくりになる。


さらにこいつのやっかいなところは治し方がわからない、ということだ。


息を止めても息を吸っても水を飲んでも、ツボを押してもなおならない。


幼いころからこれに悩まされたわたしは、些細な拍子で始まるこいつ(しゃっくり)に対し、「我慢」すなわち持久戦以外に対処法など無いことくらい、すぐに理解した。


シリアスブレイカーたるこいつを根本から断ち切ることなど不可能。

本人は地味に苦しいが、周囲から見るといささか以上に滑稽で、愛らしくもあるらしい。


わたしは時にからかわれ、いじられ、だがこのちいさな悪魔(しゃっくり)のおかげで愛されてきたことも認めねばなるまい。


しかし、フルダイブ型VRMMОの登場によって状況が変わる。

なんと、ダイブ中はしゃっくりが収まるのだ!(まあ当たり前だ)

わたしは、ハマった。そりゃもうハマった。めちゃくちゃハマった。

いつしかわたしは「しゃっくりを治すため」にゲームをやっているのではなく

ゲーム自体を楽しんでいた。


そんなこんなで今や、歴戦(?)の廃ゲーマーである。


わたしは己が内に秘めた悪魔(しゃっくり)を抑えつけながら、大手家電量販店の大袋からパッケージを無造作に取り出した。わたしはまるで指揮者のように両の手先を振るった。


流れるような手つきでわたしはマニュアル等を分別し、「無駄な物の処理」を左手で完了させ、同時に右手は優雅にもインストールを終えていた。

あとは横になってこの何度見てもスタイリッシュとは言い難い珍妙な機械を頭に被るだけである。


マニュアルも読んでいない。そういえば、ゲームのタイトルすら見ていない。

攻略情報?そんなもん当然見ていない。


この時のわたしは我が身を侵す(要するに)混沌の魔物(しゃくり)をどうにかしたくてたまらなかった。


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