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地縛霊の正体

引越しの準備も大方終わり、俺はベッドに思いっきりダイブした。

俺、高坂晴人はつい数週間前までは高校生で、明日からは新大学一年生だ。大学入学を機に地元を離れた土地で一人暮らしを始めることにした。親の支援もあり、そこそこのマンションの部屋を借りられている。俺が引っ越したこの部屋は他の部屋に比べて、随分と家賃が安かったのもその理由だ。どうも、この部屋は霊がでるとの噂があるらしく、買い手が見つからなさそうなところを俺の母親が見つけたのだった。母親も俺も大して霊など気にしなかったので即決でここに決めたのだ。


「案外、いい部屋だよな〜 ここ なぁ?龍之介」


そうやって俺が飼っている猫である龍之介に話しかけても龍之介は「にゃ〜」と答えるだけであったのだ。

実際、この部屋はとても綺麗で、窓から見える景色などはなかなかのものだ。


「今日は疲れたし、もう寝るか」


部屋の明かりを消し、明日からの新生活に期待を膨らませながら俺はベッドに入った。


(あー、なかなか寝れないな…)


どうも寝れなくて、冷蔵庫にある水を取りに行こうとした時、


カタカタッ


寝室の扉が少しずつ開いていった。


(俺、ちゃんと閉めたはずなんだけどな…)


そう思いながらも扉に手を伸ばすと、


カチャ


(な!?)


扉がひとりでに開いたのだ。思わず後ろに倒れ込んでしまった。


(なんでだよ、まさか、本当に霊なんているじゃねぇだろうな)


恐る恐る扉の方を見ると、俺は2度目の衝撃を受けたのだった。

そこには白いワンピースを着た綺麗な女の人が立っていたのだ。黒髪ロングで目は綺麗な二重、すらっと伸びた足だけでもそのスタイルの良さがよくわかる。


(だ、誰なんだよこの人!?)


そんなことを考えながら口をパクパクさせていると、


「あら、あなたが新しい住人さん?」


そう、その女の人が聞いてきた。状況が把握できず、戸惑っている俺を見ると少し微笑みながら、ゆっくり僕に近づいて手を伸ばして


「私はこの部屋の前の住人の五月玲奈、今はこの部屋で地縛霊をやっています。」


そう自己紹介された。意味がわからん。なんで幽霊がいるの?思いっきり足あるのに幽霊なの?ていうかなんでこんなあっさり自己紹介なんかされてんの?


「あれ?私のこと見えてる…よね?」


100歩譲ってこの人が地縛霊だとして、なんでこんな人間みたいな会話を持ちかけてくるんだ?


「おーい、無視されるのは流石に辛いよ〜」


そこで俺の思考は止まり、咄嗟に後ろに退がる。


「ちょっと!無視した上に逃げるなんて酷くない!?」


「いや!普通こんな夜中に自分家の寝室に人入ってきたら警戒するでしょ!」


そういうと彼女は納得したような表情を見せた。いや、普通そこはわかるだろ。


「そ、それでなんなの!あなたは!さっき地縛霊とかなんとかって…」


「そうそう!私はこの部屋で地縛霊をやっているの、そしてあなたが私が霊になって初めて一緒に住む人だから挨拶をと思って!」


その後、この人の話を聞くと、どうやら事情はこうらしい。この人、五月玲奈さんは元は人間だったらしく、2年前に死んだ22歳の新社会人だったらしい。どうも入社式の前日このマンションの前の道路で交通事故にあい、そのままこの部屋の地縛霊になったらしい。普通地縛霊になるならその道路だろ、そういうツッコミは入れないことにしておく。


「わかってもらえたかな?ということなので今日からよろしくね!」


「あの、えっと、はい」


「あのさ、早速だけど名前、聞いてもいいかな?」


「あ、はい、高坂晴人、18歳の大学一年生です」


「18かー、若いね〜、今は毎日ワクワクしてる時期でしょ〜?」


「ええ、まぁそりゃあ」


今はどちらかといえば怖くてドキドキしているのだが。


「大学はいつから始まるの?」


「明日です」


「明日なの!!じゃあもう今日は早く寝なきゃだね!」


そう言って玲奈さんは部屋を出ようとして、扉を開けるともう一度振り返って


「そういえば、晴人君は朝はごはん派?」


「え?あぁ、はい、基本はごはんです」


「そっか、わかった、じゃあおやすみなさい」


そう言って部屋を出ていった。

何のための質問なんだ?あれは。ただ驚きやらなんやらで疲れた今はもう寝てしまいたい。どこかの偉人の明日の事は明日になったら考えるという言葉を信じて今日はもう寝よう。そう思っていると今度はすぐに俺は眠りに落ちた。


携帯のアラームがなり、俺は眠い目をこすりながらなんとかベッドから出た。洗面台までたどり着くと、顔を洗い、髪を整え、出かける服装に着替える。昨日のことなど夢なんじゃないかというぐらい普通の朝だ。そうして朝は食パンで済まそうかと考えていると、なにやらリビングからご飯の良い匂いがしてきた。もしやと思い、リビングの扉を開くと


「あ、おはよう 晴人君 ご飯もう少しで全部できるからできたものから食べといて〜」


間違いない、あれは夢なんかじゃなく、現実で今目の前で楽しそうに料理をしているのは地縛霊の玲奈さんだ。


「あの、一体何をなさってるんですか…?」


「え?ああ、地縛霊としてこれからお世話になるんだし、家のことくらいはしないとなって」


「いや、いいですよ、そんなことしなくても、ていうかもうこの部屋に住む気満々なんすね!?」


「いいよ、いいよ 霊なんてやること基本ないしさ 地縛霊なんだからこの部屋に嫌でもいちゃうんだよ!」


なるほど、言われてみればそうかもしれない。まぁ俺は料理が得意ではないし、ここは甘えておくのもいいかもしれない。

そう思い、俺は机に並べられてある朝食をとることにした。


「な!?」


「ん?どうしたの?」


「あ、いや、その料理すげぇ上手いんですね。特にこの卵焼きとかめっちゃ好きです」


そういうと玲奈さんは少し顔を赤らめながら


「そ、そっか!それは良かったよ!卵焼きは結構自信あるんだ〜」

と言った。

その表情に俺までもつい緊張してしまったが、携帯の時計が出発時刻間近なのを見て急いで朝食を食べ終えた。そして、リュックを持つと急いで玄関に向かった。


「あ!晴人君!お昼は作ろっか??」


「いえ!お気遣いなく!」


そう言って俺は大学に向かった。初めは怖かったが、今の俺は年上の美人な人に送り出してもらえて少し気分が上がっていた。こうして、俺の大学生活が始まった。

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