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妖怪管理人、猫見の可笑しな日々  作者: 煙草屋パイプ
アパート住民は悩ましい
7/11

千手観音像の化身

あらすじ

東京の街外れ、十字路を左に折れた先に『ネコネコアパート』は静かに佇んでいる。

管理人室では、猫見という名の管理人、ご隠居と呼ばれる怪老人、妖しい女、家廊

が暮らしている。ちょっと不思議で、でも気のいい三人を巻き込んで

起こる住人たちの悩み事!

少しの悩みも、果ては殺人事件まで三人が解決!

「猫見さあーん、大変だよおー」と情けない声が

昼頃の『ネコネコアパート』に響いた。

その声は響いて響いて、食卓でチャーハンとワカメの味噌汁の

昼食をとっていた三人にも聞こえた。

ドタバタと騒がしい音が管理人室へと近づいてくる。

窓がコンコンとノックされ、猫見が窓を開ける。

「どうしました、浜辺さん。お子さんに何か起こったんですか?」

と不思議そうに猫見が訪ねる。

「沙響って名前をつけたんだけど、保育所からいなくなったんだよー」

大事件であるはずなのに、本人の口調のせいで全く緊張感がない。

「それは…困りましたね。」

「209の式水さんが、猫見さんが息子の悩みを

解決してくれたって勧めてくれたんだよお」

「ああ、なるほど。分かりました、できるだけ辺りを探って見ます」

「ありがとーございますう。僕もこれから探しますよお」

重大な悩みを抱えた住人は、騒々しい音を立てて去っていった。

「やれ、猫見、お前さんも大変だの」と隠れていたご隠居が姿をあらわす。

「人馴れしたんじゃなかったんですか?」「209のおなごにだけじゃ」

やれやれと苦笑まじりに家廊が首を振る。

「あたしは元々人間が好きじゃないけどね」

「ん?そう言えば家廊、今日はちゃんとした服装をしてますね」

確かに家廊は、長袖に灰色のカーディガン、ベレー帽を被っていた。

「昨日、猫見から言われたからそうしたのよ」

ご隠居がチャーハンをスプーンでゆっくりと掬いながら、

「ここは悩み相談所のようになっとるのう」

と言った。

「ご隠居、食べながら話さない」家廊がご隠居を注意した。

「…ちょっと散歩がわりに探してきますね」

ドアを閉めるとき、ご隠居がひらひらと手を振るのが見えた。

「海座頭 書店」を右に折れ、郵便ポストを曲がったところの

保育所に203の浜辺さんの娘は通っていると聞いた。

しかし浜辺さんが娘の沙響を迎えに行くと、跡形もなく消えていたそうだ。

「ほんの三分前まではいたのに…」と当の保育士も困惑。

みんな揃って首を傾げることになった。

試しに保育園に通っているという子供に話を聞くと、

「沙響ちゃんはね、ちょっと前までいたんだよ?

だけどね、あっ!って言ってどっか行っちゃった」

「保育園の中にある、寺の中に入って行ったよ」

という証言が出た。

寺と保育園が同じ敷地内にあるというので、寺に行って見た。

聞いてみると住職は居らず、園長が毎週掃除をしているらしい。

中には百五十年前からあるという古い仏像が祀ってある

…と園長が言っていた。

「誘拐?家出?迷子?…誘拐かもしれない」

交番に行ってみるものの全く情報はなく、

猫見はトボトボと部屋に引き上げた。

「それは間違いなく家出じゃろう!

親が働きに出て構ってくれないものだから、拗ねたのだ」

とご隠居が断言し、

「誘拐よ、誘拐!それ以外無いわ」と家廊が叫ぶ。

「ミャア…なにか気になるんだよなあ」

猫見はまた寺に向かうことにした。

ギイっと軋みながら開いた木製の扉を後ろ手に閉じ、

猫見は広い中を見渡した。

「ただの誘拐犯かな?それとも…私らと同類かも」

呟きながら広い中を再度見回す。

「ミャア?あれは何かな」

千手観音像の後ろから、保育園の帽子が覗いていたのだ。

「沙響ちゃん?いるかなあ」千手観音像の後ろに回ると、

楽しそうに笑う沙響ちゃんの姿と、優しそうな顔をした

少年が遊んでいた。

沙響ちゃんの目の前には、寿司、ケーキ、ステーキと

豪華な料理が並んでいる。

少年と楽しそうに話しながら、沙響ちゃんは料理をつまんでいる。

その時、少年が猫見に気づいた。

「な、誰だ貴様は」「貴様とは、何ミャア、貴様とは!」

「ぬ、貴様は我と同類か?ならば良い…」

「良いじゃない、親が心配してるミャア!」

「なんと、もう二日も経ったとな!ほんの数時間だと思っておったのに」

「っていうか…どうして沙響ちゃんを寺に呼んだの?」

「それはその、恥を忍んでいうが、…寂しかったのだ」

「ミャア?」「保育園の園長は境内だけしか掃除してくれなくての…

ここ数十年だれも来ておらん。だから、寂しかったのだ」

「なるほど、私ら時を越える者の宿命ですね」

「そうなのだ」「だからと言って子供を攫っていいという理由にはなりません」

素直に項垂れる千手観音像の化身に、猫見は優しく話しかけた。

「今度、同じ九十九神を紹介しますから元気出してください」

「本当か!なんの品の九十九じゃ?」

「蛙の木彫置物です」「ほうほう、それは楽しみじゃ」

話はここで終わり、猫見は沙響ちゃんを連れて再び木の扉を閉めた。

そして管理人室まで戻り、203の浜辺さんを呼び出す。

「沙響!どこに行ってたんだお前は!」と心底嬉しそうに

浜辺さんは駆け寄った。

「あのね、小学生くらいのお兄ちゃんにご馳走してもらったよ!」

「嘘をつかない。きっとどこかで遊んで…ん?」

浜辺さんの顔が段々と青ざめていく。

「沙響…口から料理の匂いが…。猫見さん、一体どうやって」

その問いには答えず、猫見はニコリと微笑んだ。

再度頭を下げた浜辺さんは、嬉しそうに娘と出て行った。

その様子を、暗闇で光る三対の目が楽しそうに見つめていた。


千手観音像の化身:我の出番は今回で終わりかもしれん…

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