妖怪たちの、人助け
あらすじ
東京の街外れ、十字路を左に折れた先に『ネコネコアパート』は静かに佇んでいる。
管理人室では、猫見という名の管理人、ご隠居と呼ばれる怪老人、妖しい女、家廊
が暮らしている。ちょっと不思議で、でも気のいい三人を巻き込んで
起こる住人たちの悩み事!
少しの悩みも、果ては殺人事件まで三人が解決!
「ゲホッ、オグウェウェええ」式水優希は、路上で嘔吐した。
3日間警察から逃れようとし、人目を避けたために出た拒絶反応だ。
何より、道端で捨てられていた新聞の記事の影響が大きかった。
慕っていた兄貴、佐屋元が自分の名を出したからだ。
信じていたのに…と優希は恨みがましい気持ちだった。
「くっ、畜生、ここまで来たなら逃げ切ってやる…」
ボロボロになった体で必死に息巻いてみるものの、
虚しくなるだけだった。
優希も所詮世を拗ねただけのこと。本人に自覚は無くとも、
実はそこまで覚悟があるわけではないのだ。
しかも「人を殺す」そのことが優希の精神に多大なショックを与えた。
罪悪感と「自分の追い求めるワルイ自分」の間で板挟みになり、
優希は気を失いそうだった。
こんな時、佐屋元の兄貴がいれば…
そう思ってしまう自分が一層悔しかった。
意識が少し朦朧とした状態で電灯の下を通り、
優希は暗闇へと足を踏み入れた。
その時、それを待ち構えていたかのように影の内から声が響いた。
「まだ宵の口の燈影に佇む一人の少年。不可思議だな」
優希には意味がわからなかった。
誰のものかは分からない。ただ、並とは違う者であることは確かだった。
その声は妙に快活であり、声は年老いたもの特有の抑揚が含まれていた。
「君は、式水優希くんね?」ぞくりと背中に悪寒が走った。
今度は女の声だったからだ。
しかも甘ったるい、囁くような声で話しかけてくる。
クスクス、ハハハと大量の笑い声が響き始める。
今度こそ優希は逃げ出した。
声は、少なくとも30人分の声量であり、そんな人数が
全員気配を消して暗がりに身を潜められるとは思わなかったからだ。
「逃げても無駄だよ」「クク、何処に逃げるのかなぁ」
「「「「何処にも逃げ場なんて無いのに」」」」
目の前に、ゆらゆらと揺れる影が佇んでいた。
優希はそれを避け、右の大通りへと曲がった
…はずだった。
気がつくと自宅の玄関内だった。
泣きながら母さんが出てくる。
大きな、猫のような眼をした猫見という大家も後ろに控えている。
気がつくと、優希は泣いていた。
なぜ泣いたかはわからない。
泣くのは恥だと嫌っていたからだ。
しかし、涙は溢れて溢れて止まらなかった。
そして気がつくと、猫見は消えていた。
眼を覆う涙が完全に晴れた時、優希はなんだか気持ちがすっきりしていた。
まるで暗い気持ち全てをあの大家が持ち去ったかのように。
作者:ありがとうございます!