九十九の知恵と鋭敏さ
あらすじ
東京の街外れ、十字路を左に折れた先に『ネコネコアパート』は静かに佇んでいる。
管理人室では、猫見という名の管理人、ご隠居と呼ばれる怪老人、妖しい女、家廊
が暮らしている。ちょっと不思議で、でも気のいい三人を巻き込んで
起こる住人たちの悩み事!
少しの悩みも、果ては殺人事件まで三人が解決!
早朝、カア、カアと鳴きながらカラスがベランダに着地した。
首から袋が下げてあり、「料金袋」と刺繍されている。
カラスの袋に一銭いれ、家廊が新聞を広げた。
「猫見、「日刊 座敷童子 新聞」に警察官惨殺の話が載ってるわよ」
猫見は家廊から半ばひったくるようにして新聞を手繰り寄せた。
「どれどれ、本誌記者の情報によると、犯人は未だ特定できておらず、
ドスからは指紋が検出されなかった」
「何度も言うが、江戸はこんなに物騒じゃなかったぞ」
ご隠居が食卓に姿を現した。
相変わらず気配がなく、いつ来たかも全く分からない。
「火付け強盗はあったが、殺しはあまりなかった」
「そうね、あの頃が1番平和だったかも」
「ところで警官殺しの犯人は見つかったのか?」
「うーん、やっぱ犯人は分からないみたいだね」
「散歩がてら鬼神 公園に行ってきますよ」
私は管理人室のドアを開けた。
管理人室から徒歩3分、「木霊駅」の道を左に折れ、
十字路をまっすぐ行ったところに鬼神公園はある。
トコトコと人通りのない道を歩いている時、
前から男がやって来た。
その男に衝突され、昨日と同じように私はよろけた。
ん?今の男って行方不明の、209 式水優希くん?
「ちょっと優希くん!お母さんが…」
私が振り返った時にはもういなかった。
優希くん、手に血がついてた?
もしかして…と浮かんだ不吉な答えを私は振り払った。
いやいや、優希くんがそんなことをするはずがない。
と思いながらも優希くんの後を慌てて追う。
優希くんは鬼神公園に入った。
ふと気づいたように水道に近づき、手をおもむろに洗い始めた。
優希くんの手を流れる水は、真っ赤に染まっていた。
不吉な予感は的中した。
優希くんが殺人犯だ。
中々例を見ないほどのあっさりさで事件は解決に向かっていた。
ただ幸いなことに、鬼神公園には全くもって人がおらず、
いるのは茂みに隠れた私と優希くんだけだった。
そして優希くんは穴を掘り始め、血の付いたドスを
穴に投げ入れた。
そこまで目撃した私は大急ぎで管理人に入り、ご隠居と家廊に事情を話した。
「なんと、209の息子が殺人犯!?」
「シッ、声が大きいですよご隠居!」
パッと口を覆ったご隠居は、ゆっくりと首を振った。
「待って、日刊 座敷童子 新聞の夕刊に詳しい情報が載ってるわよ!」
また家廊から新聞を手繰り寄せ、猫見は記事を読んだ。
「万引きで捕まった 佐屋元 智春という男が、殺人現場にいたことが判明。
警察からの厳しい尋問を受け、佐屋元は遂に「式水優希」という男の名を出した」
「それって…いつお母さんに知らせるの?」家廊が不安そうな声で囁く。
「そんなことはわかりきってるねえ」と声が聞こえ、
家廊がビクリと総身を震わせた。
「僕だ、猫見、九十九だよ」
「ああ、なんだ九十九か。驚かせないでよ」
私はホッと息をついた。
時たま来客を知らせてくれる蛙の木彫置物は、
九十九年の時を経て器物に魂が宿った九十九神だ。
大層古い品であり、様々な詩人、芸術家が九十九に心を奪われたという。
九十九は毒舌家だが、時たま覗く知恵や鋭敏さには眼を見張るものがある。
「優希くん自ら家に帰らせればいいのさ」
ポンとご隠居が手を打った。
「なるほど、優希自ら帰宅すれば、よく戻って来たという話になる」
「当たり前のように思えるけど、そこは盲点だったわ、九十九」
九十九はニヤリと笑い、口を閉じた。
「昔の仲間を集めてくるわ」家廊がそう言った瞬間、部屋からは人が消えた。
作者:お読みくださりありがとうございます!