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妖怪管理人、猫見の可笑しな日々  作者: 煙草屋パイプ
アパート住民は悩ましい
11/11

最後の妖怪捕物

あらすじ

東京の街外れ、十字路を左に折れた先に『ネコネコアパート』は静かに佇んでいる。

管理人室では、猫見という名の管理人、ご隠居と呼ばれる怪老人、妖しい女、家廊

が暮らしている。ちょっと不思議で、でも気のいい三人を巻き込んで

起こる住人たちの悩み事!

少しの悩みも、果ては殺人事件まで三人が解決!

草木も眠る丑三つ時、『ネコネコアパート』の住民たちの平和を

乱す大事件が起こった。

「火事だっ、火事だああ!」という住民の悲痛な叫びで、

管理人室で寝ていた三人は飛び起きた。

貴重品や衣服、食料を入れた手提げ金庫と、

持てるだけの家財道具一切合切を抱え外に出ると、

マンションの最上階から小火が出ていた。

ファンファン、ファンファンとサイレンが鳴り続けている。

猫見たちにそれは、不吉な弔いの鐘に聞こえた。

既に住民全員は避難しており、警察と消防隊も到着していた。

警察によると、最近この周辺に出没している連続放火魔の仕業だそうだ。

幸い、小火は数分で消し止められた。

さらに良かったのが、火が出たのは空き家になっている部屋で

燃えるような物体が無かったことだ。

被害もほとんどなく、あるといえば焼けた壁の修理費だけだった。

タクシー運転手の半兵衛、預言者の悟りも心配してやって来てくれた。

「大丈夫でございますか、猫見さん。

あっしらはちょいと遠くから見てたんですがねえ」

「俺の予言で速くアパートに着けたんです」

二人に礼を言い、これから息災にしていると約束した。

住民たちも小火だと分かると、文句を言いながら部屋に戻っていった。

「全く、誰なんじゃその阿呆で頓馬な連続放火魔は!」

と、猫見の作った心地よい香りを放つおでんを

掬いながらご隠居が怒鳴った。

「全くよ、なにも丑三つ時に放火しなくたって良いじゃない!」

と家廊も文句を言っている。

猫見たちの不始末なら住民から苦情が来て全員が退去してしまうところだが、

連続放火魔のせいだと警察が証明してくれたおかげで事なきを得た。

家賃を払いに来た誰もが連続放火魔に対しての恨み言を並べ、

猫見に対して慰めの言葉をかけていく。

「全く、放火なんてしてなにが面白いのかしら。

ついこの前に泥棒に入られたっていうのに」

猿神が盗みに入った家の主人、境目さんも文句を言っている。

「ミャア、なんて事でしょうかね…まさかこのアパートから火が出るなんて」

「猫見さんも災難ね」微笑みながら境目さんは去っていった。

「猫見っさーん、災難でしたーね」眉を下げながら

窓に顔を出したのは、沙響ちゃんを抱えた浜辺さんだった。

「いえいえ、こちらこそ。皆さんにご迷惑をかけてしまって」

「ほら、 日刊 座敷童子 新聞にも載ってるわ」

カラスに一文銭を渡した家廊が大声で言う。

家廊から新聞を抜き取った猫見は、飲んでいた緑茶を吹き出しかけた。

「「「半兵衛と悟りが逮捕!?」」」

「ん、新聞にはこう載ってるわ。

まず、半兵衛と悟りが帰る時、それを近所の老人が見ていた。

そして現場から逃げる放火魔の車と勘違いし、通報。

老人はナンバーもしっかり記憶していたため、二人は居場所を特定された」

慌てて最寄りの交番に行き、署長に事情を話すと

取調室の窓を見せてくれた。

そこでは、ヘラヘラと胡散臭く笑う二人の姿があった。

「いやいや、巡査さんよ。あっしらはあそこの管理人と知り合いなんです」

「そうそう、俺らは猫見さんと非常に仲が良くて」

「そうは言ってもな…信用できん」

「じゃ、言いますよ巡査さん」

「まず、あっしは小さなタクシー会社を経営しています。

で、大事な顧客がいるとします。

その人は話し相手にもなってくれて、料金はちゃんと払うどころか

多めにくれたりもして、週に二回は乗ってくれます。

しかもアパートのご隠居に饅頭を届けるほど仲が良いです。

そんな優しい御仁の家に火を放ちますか?」

ムムムと巡査が唸った。

「しかも仮に俺らが放火魔だとしましょう。

で、放火した後わざわざ被害者の家に菓子を届けますかね?」

「…俺もホントはあんたらが犯人じゃないとは思ってる。

ただ、一応署長の命令でだな…」

「分かったら良いんですよ、分かりゃ。

ところで、お詫びのつもりで俺らと喋っちゃくれませんかね」

巡査は苦笑しながらも頷いた。

が、巡査の後ろにいた速記係が音を上げた。

「高原さん、もう駄目です!この方々の喋る量が多すぎて」

困り果てた巡査は、ようやっと二人を解放した。

「おやま、猫見さんにご隠居、家廊さん」

「心配してくださったんですか、ありがとうございます」

仲良く話しながら外へと向かった時、

「すいません、署長。詳しい話をお聞かせ願いますか?」

と家廊が署長に話しかけた。

「えー、今分かっているのは、火が空部屋から出たことと

ガスコンロが火元だったということです」

頭を下げた悟りの、眼がカッと光を放った。

「おや、妙ですね。警察の調査部でも火元がなにかは

分からなかったそうですよ。なぜ署長はガスコンロと分かったのでしょう」

焦って答えたため、うっかり口を滑らせた署長はビクリと肩を震わせた。

悟りはゆっくりと顔を上げ、署長の腕を掴んで路地裏に連れ込んだ。

「あんたですか、連続放火魔は」半兵衛が静かに言った。

辺りは逢魔が時に差し掛かり、周辺は真っ暗だった。

「君たち何を言っているんだ?それ以上言うと公務執行妨害で逮捕する」

その言葉には答えず、家廊が唐突に質問した。

「署長、あんた妖怪って知ってるかい?」

そう言った家廊の顔は、影に包まれて一層不気味に見えた。

質問に答えた署長は、急に敬語を捨てて低い声で喋り始めた。

「妖怪…?ああ、街の老人どもがよく言っている伝説か。

ハッ、知らないね。今は電気にみんな負けちまってるんだろう。

この世に道理で通らぬことなんて無い」

「本当に、そう思うのか?」凛と響く不思議な声で悟りが言った。

「署長よ、良いことを教えてやろう」

ご隠居が囁いた。

ここで猫見が、スウッと大きな眼を細くして言った。

「この世には道理で通らぬ道を歩く者も居るんですよ」

ボッと空に火が灯った。

それらは自由に動き回り、かと思うと署長の鼻先に近づいた。

署長の眼には、はっきりと空に灯る妖火の中に

人の顔が浮かんで居るのが見えただろう。

口から声にならない細い呻き声が漏れ、署長は道端に座り込んだ。

「ふふっ、俺らもたまには楽しいことがしたいもんだな」

楽しそうに悟りが言った。

「おい、君っ!助けてくれ…」必死の思いで絞り出した署長の声は、

響いて来た様々な楽器の音に消される。

「おうや、それは無理です。なんせあっしも同じですから」

半兵衛の顔は、大狸に変わっていた。

悟りの顔も、黒い霧のような物質に変わっている。

また、ひゅっと署長の喉から声が絞り出される。

さっきまで遠くで響いていた音楽が、近くに寄ってくる。

やがて空に灯った妖火が一つ、二つと増え、

暗い路地をほんのり明るくした。

妖火に照らされて浮かび上がった者共の中には、

己の足で動き回る品々の姿、ひらひらと舞う一反木綿。

豆腐を抱え、異様に大きな頭をした小僧。

真っ赤な体躯をして金棒を持った見上げる程の鬼。

そしていつぞやの猿神、乏浜も居た。

今、現世で伝承とされた者々が現れていた。

「いや、まさかそんなはずはな…伝説のはず…」

また、署長が声を出す。

署長の側に、人ならざる者たちが集まってくる。

「ええ?道理で説明してみなさいよ、これを」

家廊の唇の端が、嘲笑うように引きあがる。

署長の恐怖に震える眼に最後に焼きついたのは、冷たく笑う妖怪らの姿だった。

そして気絶して泡を吹いている署長を見降ろし、

愉しげに笑いながら妖怪らは去っていった。

ドンドン、ポ〜、ヒャララと音の余韻を残して。

月を眺めていたやがてご隠居も家廊も、静々と去っていく。

最後まで残っていた猫見は、天に光る満月を見上げ、ポツリと呟いた。

「楽しいですね、人間との暮らしは」












作者:皆様、お読みいただきありがとうございまーす!

この後は書き溜めのために2、3ヶ月おやすみ致します

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