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必要な人  作者: トミーL
8/8

8月17日

遅くなって申し訳ありません。エピローグです。

遅筆な上になかなか筆が進まず苦労しました。

では、あと少しだけ灯里にお付き合いください。


 ――…ピッピィーピョルルル



 (もう朝かぁ…。)


 灯里(あかり)はのそりと寝返りを打った。

 昨夜はほとんど眠れなかった。往生際悪く、目を固く瞑って朝の光を遮る。


 昨日帰宅後、祖母に事情を話して恐らくもう大丈夫だと説明した。それを聞いた祖母はしばらく黙った後、一昨日裏野ドリームランドのことを教えてくれた時には触れなかった話をしてくれた。


 あの少女が言っていた“みよちゃん”とは、灯里の母の美代子のことだった。彼女は母と灯里を間違えていたのだ。

 二人はあまり似ていない母娘だったが、確かに“変わってしまった”と言っていた。

 そして、彼女の名前は“優子”というのだそうだ。“田辺さん()のゆうちゃん”と。

 彼女はある時裏野ドリームランドで消えてしまったのだ、と。


 祖母からその話を聞かされてから、寝ても覚めてもそのことが頭から離れない。

 身近な人が消えていたのだと知って、灯里は衝撃を受けた。しかしそれ以上に、心霊現象に怯えるばかりで人が消えた事実に関しては、自分が他人事のように思っていたことに気付いてショックだった。


 (他人事で当たり前なのかもしれないけど、あたしって酷い奴だなって思っちゃう。何よりお母さんとおばあちゃんの傍で起きてたって、分かってたのに…。)


 もう一度寝返りを打ってみる。だがやはり眠れそうになくて諦めて起床した。

 のろのろと身支度をして、台所へ向かった。


 台所へ入ると、朝食はすでに出来上がっていた。

 祖母は灯里の分に今まさにラップをかけようとしていた所だったようだ。それを見て、今朝は灯里を起こす気が無かったのだと知る。


「おはよう、おばあちゃん。」

「灯里。おはよう。…顔色が悪いようだけど。まだ寝ててもいいのよ。」


 祖母はいつも通りの表情だったが、心配してくれているのだろう。


「ううん、いい。…寝れないから。」

「そう…。」


 祖母はそれ以上何も言わなかった。

 二人で居間に食器を運び、昨日より静かな朝食の時間を過ごした。



 昨日足裏の怪我を悪化させて帰ってきた上、明らかに寝不足な様子の灯里に畑仕事を手伝わせることを渋る祖母を説得するのは、非常に骨が折れた。

 灯里としては気が紛れるので是非体を動かしたかったのだが、それを直接伝えるのは憚られた。


 怪我を心配して祖母に包帯でぐるぐる巻きにされた足は、そのままではスニーカーに入らなかった。

 上がり(かまち)に座り込み、片方の靴紐を解いて上から順に弛めていく。


「やっぱり、自宅へ帰る時(帰り)に痛くなったら困るから灯里は家に居た方が――」

「大丈夫だって! ほら、靴も履けた。早く畑行こ!」


 祖母の言葉を遮り、子供っぽくぴょん、と立ち上がって見せる。


 (空元気だってバレてなきゃいいけど。)


 顔を見られたくなくて、祖母を先導するように畑へ向かった。





  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 何を言っても連日と同じように仕事をこなそうとする灯里を気遣ってか、祖母に今日は配達は無いと言われた。お陰でこの5日で一番暇な午前中を過ごした。

 灯里は暇な時間を利用してどうすべきか考え、決めていた。

 どうしてもそれが頭から離れなくて悶々としてしまうのなら、自己満足で良いからと行動することにしたのだ。


 午後一番で自宅へ帰る予定を変更し、祖母に外出の旨を伝える。渋る祖母に自転車で向かうからと説明して、無理やり納得して貰った。



 足を気遣って体重をかけ過ぎないようにペダルを漕ぐ。

 風が汗ばんだ額や首筋を撫でて、髪を後ろに靡かせる。今日初めて少しだけ明るい気持ちになった。


 寄り道をしてから田辺商店へハンドルを向けた。いつもと同じ場所に自転車を停める。

 ガラス戸に手を掛け、今までで一番丁寧に開けた。


「こんにちはー。」

「こんにちは。アカリちゃん?」


 見えないレジの方から良啓(よしひろ)の声が聞こえる。

 目的の人物が予想通り居たことに安堵して、丁寧にガラス戸を閉めてからそちらに向かった。


「良かった、居て。声であたしって分かったの?」

「うん、昨日のこと気になってたから…。僕に何か用事があるの?」


 良啓は椅子からゆっくりと立ち上がって出迎えてくれた。


「うん…。あの、ね。…昨日の話、聞いた…?」

「…聞いたよ。」

「それで、ね。自己満かもしれないけど、お花を供えようと思ったの。ここに来る前に花屋さんに行って、仏花で花束作って貰ってきたんだよ。お盆過ぎだから花があんまり無くて小さな花束になっちゃったけど…。」


 次の言葉を発するのには僅かに勇気が要って、俯いてしまう。


「それで、あの…。ヨシくんの分もあるから、一緒に供えに行かない…?」


 沈黙が辛い。

 灯里と違って良啓には優子との血縁関係がある。彼がこの提案を聞いてどう思うのか、灯里には想像がつかなかった。


「……そうか、供えに…。…うん、僕も行く――いや、一緒に行かせて欲しい。」





  ◇ ◇ ◇ ◇ ◆





 山道に入る前に自転車を停めて、良啓と二人で山に入る。

 道すがらぽつぽつと昨日出会った優子について話した。


「あの優子、さん?はおじさんのご兄妹…?」


「うん。父の妹で、僕の叔母にあたるって。…そう言われても今まで存在を知らなかったし、見たのも子供の姿だから実感は湧かないけど。」


 良啓は肩を竦めて見せた。動きが若干ぎこちないのは、支える様に灯里の手を持っているせいだろう。


「僕が見た彼女の服装や髪型を説明したら、消えた日と同じだ、って。」


 優子が消えたのは小学校4年生の夏。

 灯里の母、美代子と裏野ドリームランドへ遊びに行った時だったそうだ。

 いくら聞いても遊園地について何も教えてくれなかった母の気持ちが、今なら少し解る気がした。


「それと、僕って昔の父と顔がそっくりらしいんだ。だから僕を自分の兄だと思ったんだろうね。」


「…勘違いしてなかったら、引いてくれなかったかな?」


「…どうだろうね。」


 会話が途切れた。

 静かな山の中は、二人分の足音と風で葉が擦れる音しかしなかった。



 やがて、少し開けた場所に出た。電車が置かれていた場所だ。

 今はその空間の中心には何も無い。

 しかし、不思議と車両があった場所にはあまり下草も落ち葉も無かった。


 二人で一つずつ、そこへ花束を供えた。手を合わせてしばし黙祷する。

 黙祷を終え、良啓と目を合わせると、無言のまま今度は遊園地へと向かった。



 フェンスの穴を潜って遊園地内に入ると、いくらも進めずに背の高い雑草に阻まれた。

 穴の周りは数日前に灯里が雑草を抜いて踏み固めたそのままだったが、それ以外の場所は様子が変わってしまっていた。

 少し先に見える観覧車は全体が鉄錆色になっていて、ゴンドラは一つしか付いていない。そして円形の骨組み全体が遊園地の中心方向に傾いている。

 灯里が嬉々として撮影した時のカラフルでお洒落な姿はそこには無かった。


 これ以上内部へ進むのは諦めて、また二人分の花束を地面に供えて黙祷した。





  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 自転車のサドルに跨ってアスファルトを蹴る。隣を歩く良啓の歩くペースに合わせてゆっくりと帰りの道を進む。

 二人は遊園地を出てからここまで一言も話していなかった。

 灯里はちらりと良啓の顔を盗み見る。彼は何か考え事をしているようだ。


「――ヨシくん、スマホ出して。」


 おもむろに良啓に話しかけた。

 良啓は虚を突かれたように一瞬返答に詰まっていた。


「―――え? 何、どうしたの?」


 戸惑いながらも素直にスマホを取り出してくれた。

 灯里も自分のスマホを手に持ち、画面を呼び出す。


「はい、連絡先交換。」


 強引に進めると、良啓はまだよく分かっていないながらも慌てて応じていた。

 普段の灯里ならこんな風には話を進めない。だが、祖母に指摘された灯里は変わると決めたのだ。

 その第一歩としては下手なやり方かもしれないが、無理やりにでもこの後の要求を通したかった。


「ん、ありがと。」

「こちらこそ。」


「そういえば、あたしは今日これから東京に帰るんだけど、ヨシくんはいつ帰るの?」

「僕は明日帰るよ。」

「そっか、じゃあ明日自宅(いえ)に着いたら連絡ちょーだいね。あたしも今日自宅(いえ)着いたら連絡するから。」

「…え?」


 何やらスマホを弄っていた指先が止まり、こちらを見た良啓の顔が驚きのまま固まった。思考が追い付いていないようだ。


「それとせっかく東京同士なんだからさ、向こうでも会おうよ。ね?いいでしょ?」


 彼が理解するより早く、畳みかける。


「え、え? 灯里ちゃん…?」

「ね、約束だからね!あー、あたしバスの時間があるから、先に行くね!じゃあ、また東京でね!」


 早口で言い切ってペダルに体重をかけた。一気に加速して、立ち止まってしまった良啓を置き去りにする。

 火照った顔に当たる風が気持ち良い。


「えええ??」


 後ろから聞こえた困惑しきった声にくすり、と笑いが込み上げた。





  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 しきりに引き留めようとする祖母に苦笑しながら玄関で別れの挨拶をする。

 昔から愛情は感じていたが、こんなに可愛がられているとは全く気付いていなかった。


「あたしももうちょっと居たいけど、就活があるからね。冬休みになったらまた来るから。」


 (ああ、こんなこと、前までは口が裂けても言えなかったなぁ。)


 たったあれだけの言葉で祖母に対する心情がここまで変わるとは思ってもみなかった。

 祖母に手を振り、行きよりも大分重たくなった荷物を持ってバス停へ向かった。




『あっかり~もう駅着いた? ちゃんとリフレッシュは出来た~?』


 バス停で待っていると、ニヤニヤ笑った顔が目に浮かびそうな声色の母から電話があった。

 今回の派遣は、どうやら母と祖母がグルになって、落ち込んでいた灯里に気分転換させようという事だったらしい。


 (どーりで仕事が少ないわけだ。)


 灯里が祖母を苦手としていたことに気付いていない母に呆れる。

 しかしお陰で元気になったことは確かなので、ひっそりと心の中で感謝した。


 (いい機会だから、話しとこう。)


「あのね、お母さん。あたし、優子さんに会ったよ――。」


 電車で遭遇した優子の話をする。母は静かに聞いていた。

 最後に彼女の言っていたことを伝えると、口を開いた母の声は涙を含んでいた。


『――そう、そうなのね。ゆうちゃんは今でも優しいのね。…教えてくれてありがとう、灯里。』


 バスがやってきて、通話を切った。後は母の問題だろう。

 乗り込みながら優子のことを考える。


 (一緒に連れて逝こうとしてたのは間違いだけど、その理由は優しさだったんだもんね。生きてた時は名前通り優しい子だったんだろうなぁ。)


 車窓に流れる長閑な風景を見送る。この風景ともしばらくお別れだ。



 何気なく髪を耳にかけて、ふと目に入った左手の甲をまじまじと見た。

 今朝まではくっきり指の形が残っていた痣が、今はもうほとんど消えかけていた。

 自己満足でなかったことが嬉しくて、口角が上がる。

 温かい気持ちでバスの車内に視線を移し、ゆっくりと瞼を下ろした―――。











 ――ガッツン☆


「っあいた!?」

                                          了

これにて完結です。

ここまでお付き合い下さった貴方に感謝を。こんな拙作を最後までお読み下さりありがとうございました。

色々説明不足だったり、冗長だったり、ばらまいといた要素回収できなかったり。

位置関係とか絶対分かりにくかったですよね!?ち、地図でも付けた方がいいのかな…

とんだ駄作ですが、〆切りに追われて書いたのは初めてだったのに無事完結出来て嬉しいです。(間に合わんかったがな!)

では、またお会いする機会があれば…            2017/08/05

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