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必要な人  作者: トミーL
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8月12日

素人の拙い作品を読みに来てくださってありがとうございます。

初投稿です。どうか生暖かい目で見てやって下さい…。



 カタカタと音がする。


「お前さ、忙しいからって俺のことほったらかしにしてただろ?」


 ガタガタと周りが揺れる。


「どうせ社会人になったら別れるんだし。大学最後の夏休み、お互いフリーで楽しもうぜ。」


 ゴトン、と足元が落ちた。







 ――ガッツン!!


「っっづぅ!?」


 衝撃に飛び起きた。

 痛む側頭部を抑えながら慌てて周りを見る。


 (そっか、そうだった。)


 自分はバスに乗っていて、居眠りをしたせいで窓に頭をしこたま打ち付けたのだと気付いた。

 田舎のバス通りは、補修工事が不十分で道が悪い。きっと大きくへこんだ場所を通ったのだろう。

 安堵とも怒りともつかない感情を溜息と共に吐き出し、座席の背に深く凭れる。まだ鈍痛を訴える側頭部を左手でなでて宥めつつ、さっき見た夢を思い出す。


 (…というか思い出したらすごい腹立ってきた。“じゃあな、灯里(あかり)。三年間楽しかったよ”じゃないよ! 三年も付き合ったのにあっさりしすぎでしょ!)


 夢で言われたことは実際に彼氏――元彼に言われたことそのままだった。

 確かに就職活動にかまけてろくに連絡も取っていなかったが、それは三年の付き合いの間に築いた絆があると思っていたからだ。しかも就職したら別れる気だったのだと知って、あまりのショックに言われた直後は呆然としてしまった。


 (まあ、あんな風に言われたら百年の恋も冷めるわな。失恋した感じはしないから、そこだけは感謝してもいいかもね。)


 しかし、就職活動が上手くいかず企業から【不採用(いらない)】と言われ続けて落ち込んでいた時に、恋人にまで「別れよう(いらない)」と言われて、灯里は何もする気が起きない程に沈んでいた。


 そんな折に母から電話があった。


『おばあちゃんの家に手伝いに行ってきてくれる?』


 母は毎年夏に、家庭菜園と言うには大きすぎる規模の畑を持っている祖母の家へ収穫の手伝いに行っていた。それを今年は灯里に行けと言う。


「えー、無理だよ。あたしが就活で忙しいの知ってるでしょ。」


 灯里は祖母が少し苦手だ。最後に会ったのは何年も前だが、彼女は背がピンと伸びた気難しげな老人だった。

 祖母からは愛情を感じたが、昔から彼女の雰囲気に気圧されて灯里は萎縮してしまうのだ。


『お盆の間は大丈夫でしょう?お父さんが骨折したのよ。おばあちゃんにはもう灯里が行くって言ってあるから。それじゃあよろしくね!』

「ちょっ、待っ…!」


 慌てて呼び止めた時にはもう通話は切れていた。

 盛大な溜息を吐いて投げ出したスマートフォンに、しばらくして詳細がメールで届いた。

 勝手に8月12日~17日の六日間を祖母の家で過ごす事になっていた。




 斯くして、全く気が進まないながら祖母の家に向かい、道中で疲れて眠ってしまって嫌な夢を見たあげく盛大に頭をぶつけて仏頂面をする羽目になっている。

 それもこれも全部――。


 (お父さんのせいだ!!そうだ!骨折なんてするから!!)


 ふんっと荒い鼻息を吐いたところで車内アナウンスが目的地を告げた――。





  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「いらっしゃい、灯里。」


「おばあちゃん、久しぶり。お邪魔します…。」


 緊張で少し上ずった声で挨拶した。何故か背筋まで伸ばしてしまう。

 夕方に着いた祖母の家である平屋の日本家屋を見て、少しだけ懐かしい気持ちになった。


「間取りは覚えている?奥の部屋に荷物を置いていらっしゃい。」


「あ、う、うん。」


 返事をするだけなのに慌ててしまう。


「荷物を置いたら茶の間に来なさい。お隣に美味しいういろうを頂いたから。」


「わ、分かった…」


 灯里の返事を聞くつもりもないのか、祖母は言い置いてすぐに踵を返して廊下の向こうへ歩いて行ってしまった。

 その後ろ姿に溜息が漏れそうになるのをぐっと堪える。





「はぁー…」


 宛がわれた部屋にドサリと荷物を下ろすと、口から長々と息がこぼれた。


 祖母は変わっていなかった。大学に入ってから会っていなかったので多少は老けた感じがするが、その厳格な雰囲気は何も変わっていなかった。


 (まさか成人してもまだおばあちゃんが苦手だなんて…)


 成長していない自分に自嘲する。

 大きく伸びをしてから一気に腕をだらん、とさせて肩の力を抜き、祖母の待つ茶の間に向かった。





おばあちゃんは怖い人ではありません。

分かりにくいけど久しぶりに孫に会えてルンルンです。ルンルン過ぎてちょっと空回ってます。

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