特別と本来の能力
……え?
「え、エルム様?」
黒装束の何かはエルムの首に突き刺された何かを抜く
ゴッ…
そして、そいつは突き刺していた何かを用済みとばかりに捨てた
「お前…エルムに何をしたッ!!」
「………」
ユルノの怒声にそいつは何も答えない
しかし、私にとってそれは二の次であった
竜人である私だからこそわかる
聴こえていないといけないそれが聴こえない
エルムの──
──呼吸が……心音が……
聴こえない
それを理解した瞬間
私の頭は真っ白になった
「……ぁ……あああああ!!
どけぇ!!!そこをどけぇえええええ!!」
「セルナ!!?」
自制が効かなくなった身体は前に立っていたユルノを突き飛ばしそいつに向かって回し蹴りを放つ
それに対してそいつは短刀を抜きその脚を切り飛ばさんとばかりに振り下ろした
いまの私に刃物なんて効かない!
そう、堅殼はまだ発動中である
ギィッ!!
刹那に交差する刃と脚
金属音がほんの一瞬響いた
しかし、次の瞬間爆音が一帯に轟く
エルムの部屋は吹き飛びモクモクとホコリやらが舞い周囲が見えなくなるがセルナは翼を仰ぎそれらを全て吹き飛ばす
「エルムさ……ま……?」
そしてエルムに駆け寄ろうと──
だが、そこには誰も……いない
「えっ?どうして……エルム様!?」
「あのやろう…エルムを連れ去りやがった!!」
「連れ去った!?」
「連れ去った!じゃねぇよ!!
あんたが勝手に飛び出して逃げる隙を作ったからだろうが!!
あの野郎はあんたの蹴りを利用してエルムを連れていった!
わざとだったんだよ!!あの短刀は!」
「そこまで見ていたのなら何故助けなかったのですか!!」
「てめぇのミスを俺に擦り付けてんじゃねぇよ!!
たとえ見えていてもこっから助けんのは無理だ!!」
「………言い争っている場合ではないとフィアは思うんですがね」
「「ッ!!?」」
彼女は目の前に立っていた
いるのが当たり前かのように
気付いたらそこに立っていた。
先程の黒装束の何かのように……
「……お前……誰だ…?
どこから現れやがった?」
「フィアはさっきここに来ただけですよ?
ユルノ様?」
「フィ──」
「『喋るな』」
「え?」
「『フィアの前で口を開くな』」
「おい?お前は何を言っている」
「はい?あ、そうでした
初めましてユルノ様
フィアの名前はフィアロールといいます」
「あ、ああ……
いや、ちげぇ、お前は何者だ?」
「細かい事は後で説明致します
ですがこれだけ…
フィアはマスター…エルムの幸せのためにこの身を捧げています
マスターの悲しむ未来を許しはしない」
「……なるほど、そういうことか」
「分かって頂けましたか
それでしたらフィアはもう行かせていただきます
芽音様がもうあの人たちの元にいるでしょうから」
「お前は……奴がなにか知ってるのか?──いやあの人たち…だと?」
「それでは、失礼しま──」
「おい、俺も連れていけ」
「…わかりました」
「……フィア、私も連れていきなさい」
「『黙れ、貴女はここでなにもせずに待ってればいい
何も出来ない貴方がマスターを救うなんて烏滸がましいと知れ
自己犠牲で満足する貴方がマスターの側にいるな
今の貴女はマスターを不幸にする』」
「ッ!!なら!フィア!貴女なら助けられるとでもいうのですか!?
あんなエルム様を!あんなに苦しそうなエルム様を!?」
「……無理です」
先程までセルナに向けていた威圧感がその否定の言葉とともに霧散する。
「出来ないのなら貴女こそ黙ってなさい!
今エルム様を救えるのは私1人なんです!」
「…セルナさん
貴女はなぜ、その方法でマスターが救えると思ったのですか?」
「……何が言いたいのですか」
「何が言いたいかはもうおわかりですよね?
なんでフィアたちが貴女に雑魚、無力、何も出来ない等と言ったか」
「──わかりたくもない!
どうせくだらない嫉妬でしょう!私に出来て自分にはできない!
そういう!くだらない嫉妬!それを──」
「フィアたちには貴女が自分にしかできないと言った時点でわかってるんです
貴女がマスターから貰った能力『吸収』でマスターの暴走する能力を自身に吸収しようとしている事
そして、マスターですら暴走させてしまう能力を自身では耐えきれないとわかっていること
そして──
──それはそもそも能力を吸収出来ないということを」
突き付けられた事実はもう逃げることを許してくれない
わかっていた
私のエルム様から頂いた能力『吸収』
吸い取れるものは自身に収められるものに限る
人の才能、能力はその人が持つべきだから持ってして生まれたのだ。
他人が持つことは一つの例外を除き……出来ない
その例外に吸収は入れなかった。
それでも……
信じたくなかった、分かりたくなかった
私がエルム様の本当の特別になりたかった……
私がエルム様を……
私だけがエルム様を──
──救えるのだと胸を張って──
「……嫉妬していたのは私なんです
…皆…エルム様の特別な人達は私より強く、私より優れている
尽神の写身、フィア
技刀鬼ユルノ
波蕾の芽音
それに
魔術王アリス
無動剣ラル
不動剣ニル
全憶の女賢王ビスルト
死神ソワラス
これらの二つ名は貴女方の未来
昔、エルム様がこの世界に降り二年ほど経った頃にも
エルム様の能力の一つが暴走したんですよ」
「…暴走……?」
それはたった1回だけで収まりました。
しかし、暴走した能力
それは先程フィア、貴女に言った『刻針庭』
その暴走に巻き込まれ当時2歳の私も巻き込まれたそうです
巻き込まれたのは私と私の父、シャスルクとエルム様の義父ノートル様
そう、私達は一時的に未来に飛ばされたのです」
「未来だと!?」
「私も当時2歳程でしたので私の記憶にはありません
しかし、父とエルム様の義父はその未来で見たのです、聞いたのです
今のヘイズバーミリオンのような場所に尽神として君臨するエルム
そして、その妻として側に立つ貴方達を
それに妻としてエルム様の側に居た人達は貴女方とこれまで過去に出会って来た人たちでした。
でも……
そこに……私は居なかったんですよ
私は…セルナ=ディアリス=ドラグニティーは!
エルム様の特別ではなかったんです!!
特別になれなかったんです!!!」
「ッ!!」
「エルム様の特別になれないなら!せめて!エルム様のために!
エルム様を救うために!
エルム様の幸せのために!
今犠牲になるために!
私は産まれていたんです!!」
言い切ったその瞬間私の中の何かが……
いや、私の中のエルム様
『吸収』が脈動した。
どくんどくんと
心臓が二つあるかのような錯覚を覚えるそれは徐々に加速していく
…どくん……どくん……どくん…どくん…
感覚も短くなりとても身体が熱い
求めるように
どくんどくんどくんどくどくどどどどどどどどど──
そして、最後に光の様に強く瞬いた
ドクン───
「……やはり、私はそういう運命なんですね、エルム様」
私の中の『吸収』はもうない
そもそも『吸収』なんてものはなかったかのように
青虫が変態をして空に羽ばたけるように
『吸収』とは似て非なる本来の能力
『核奪』
「待っていてください、エルム様
今、私が貴方をお救い致します」
先程壊した窓があった方に駆ける
そして、そのまま飛んだ
半竜化ではない
完全に竜となって
「GAWWWWWW!!!」
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『聖竜女セルナ』
見た未来の尽神の最初の妻であり暴走させた能力を尽神から授けられた能力『核奪』を使い自らを犠牲に夫を守ったことにより聖女という二つ名が候補に挙げられるがとある1人が竜人だったことを入れてはと言ったことにより聖竜女と決まる
性格 基本的温厚
夫である尽神に対すると自分を抑えられなくなるほどの愛を持つ
容姿
尽神の妻は全員端麗だがその容姿と性格、尽神の絶大な信頼などから一番の人気を誇っていたほど
明緑の長髪でほとんどいつもシシン神社の伝統の巫女装束を纏う
家系
シシン神社の15代目当主
14代目であるシャスルクとマナリナとの一人娘
尽神であるエルムとは幼馴染みであり許嫁でもある
マドリバル事件
とある狂喜に取り付かれた一人の魔術研究者が引き起こした央都連続誘拐事件、そして、その実態は治癒魔術を応用した人体改造のための素材(子供)と当時まだ尽神とし知らない治癒魔術師の確保であり素材となるために誘拐された子供の中にはセルナも入っていた
経営者コレクターと呼ばれていたノルト=マギレウ=ダラズノスに騙され捕縛されたエルムはセルナを人質にとられ、更に焼けた金属棒を当てられるなどをされ感情を抑えきれず治癒、回復魔術が暴走
1人の子供が治癒魔術の被害にあった瞬間に感情が一時的には戻るが時すでに遅くその子供は全身を超活性化され怪物となったその子供は超活性化された反動で血肉を求め大半の子供とノルトを喰らった
残った子供たちはほとんどが壊れ耐えきれたエルムは壊れる寸前だったセルナの記憶を消した。というのが尽神のエルムの話である