神の子と経営者コレクター
前話にあった9年前というのを10年前に変更しそれにともない年齢を9才から8才に変更しました。
ご理解いただければ幸いです
「さあ、エルム=ギール様、お迎えに上がりました…ヒヒッ!」
そいつは卑しい笑みを浮かべながら黒フードを取った。
その顔は年を取っているようには見えない
それどころか当時のソワラスとさほど変わらないくらい若い
そいつは反応のない僕らを見てなにかを思い出したかのように手をポンッと叩くとフード付き黒装束のポケットからなにかを取り出す。
「はいどうぞ~うちで採れたもぎたて新鮮な葡萄を使った飴ちゃんです、とっても美味しいんですよ~ヒヒッ!」
「いいの!?ありがとー!!」
それをエルムはなんの疑いもなく手に取りそれを口にする
「ちょっ!ええ!!エルム様!?」
「ん~!!おいしぃー!!」
「そうでしょうそうでしょう!!私の自慢の逸品なのですよ!袋詰めして試しに店に並べてみたら大好評!
老若男女問わず試食を食べた人全員がお買い上げになり、そして買った人たちの口コミで広がって今では大人気の商品なんですよ!!ヒヒッ!!!」
「ろうにゃにゅなんにょー?」
「おっとすいません!つい熱が入ってしまいました!そちらのお嬢さんもいかがですか?ヒヒッ!」
飴差し出すその若者の顔とエルムの幸せそうな顔を見比べるセルナ
「大丈夫です!それよりあなたはいったいどなたでしょうか!!」
エルムはなんの警戒もせずにその飴を食べてしまったがそれはエルムだからである。
警戒心がないのは魅力のひとつであり欠点である、というか割合的には欠点の方に傾くであるだろうけど
で、本来の9才の子供となれば成長と共にそれなりの警戒心も育ち、面識のない人に突然なにかを貰うなんてことはしない。
セルナも例に漏れずそれに該当するのである。
「ああ!私としたことがっ!!自己紹介を忘れるなんて!!ヒィヤァ!!」
悪い人そうで良い人そうで真面目そうでバカそうで
本当によくわからない人である。
「ゴホン、それでは
私はノルト=マギレウ=ダラズノスと申します。
職業、マギレウ葡萄農園の経営者兼マギレウ野菜農園の経営者兼スーパーマギレウの経営者兼マギレウ包装工場の経営者兼マギレウ……」
「長いね」
「経営者ばっかり」
-5分後-
「……マギレウラーメン(醤油、味噌、塩、豚骨)の経営……」
「ラーメン……」
「美味しそう!!」
「エルム様!?」
そして続く……
-10分後-
「…マギ……経……」
「お腹すいた…」
「エルム様?なにか食べに行きましょうか?」
-15分後-
「……トイ…経営……」
-30分後-
「……マギレウ魔導具店(暖房系)の経営者……ってあれ?エルム様は?ヒヒヒッ!!?」
端から見ると経営者コレクターなノルト=マギレウ=ダラズノスは卑しい表情で驚くというとても器用なことをしてバタバタしていたのだった。
一方、レストランにご飯を食べにいったエルムとセルナは……
「どれにしましょうか?」
「うーん」
メニューを見て悩んでいた。
「これとかいいんじゃないですか?」
セルナが指差したのは新鮮な跳鶏の卵をつかったオムライス、830ルム
「それもいいけど……あ!これがいいかも!」
そして、エルムが指したのはグラウンドビーフ100%のハンバーガー
一個1000ルム
「むむっ!エルム様、ハンバーガーでは分け合えないじゃないですか!もう少し女の子に気を使えるような男の子にならないと!」
「えー、一緒に食べればいいのにー」
「……はっ!エルム様が食べた後にその部分を食べればエルム様とハンバーガーを味わえて一石二鳥!!」
「まあ、セリィが言うんなら……」
「いいえっ何でもありませんよ!私の言葉なんて無視してください!!というかそもそもエルム様が気を使える男の子に何てならなくていいのです!!」
「えっと……つまり?」
「ハンバーガーでいいと思います!というかぜひハンバーガーをっ!!」
「う、うん、わかった……ところで何で僕は気を使える男の子になっちゃいけないの?いいんじゃないの?」
「だって、エルム様が気を使える男の子になっちゃったら大好きなエルム様が他の子にも狙われちゃうかもしれないじゃないですか!!」
「……大好き……」
「ああっ!テレてるエルム様ぁ!かわいいですっ!!」
「わぷっ!ちょっとやめてぇ~」
レストランで8才が繰り広げるラブコメに他の客もホッコリするのだった。
そんな中恨めしく「……俺にもあんな時代があればこんなことにはならなかったんでは……」という声が聞こえたのは店主だけだったようで店主は苦笑いしながら「元気を出せよ」とコーヒーを差し出す光景があったとかなかったとか。
その後セルナがエルムを胸に抱えたままオムライスとハンバーガーを注文しそれを待っている間もセルナがエルムをテレさせてるのを回りの人たちは微笑ましく見守り、注文したオムライスとハンバーガーが来るとセルナがスプーンでオムライスをすくってエルムにあーんをさせてエルムがテレてそれを隠すようにハンバーガーにかぶりついたがそのハンバーガーをエルムの手からすかさず奪いエルムか口を付けた部分にかぶりついたが時にはエルムは顔を真っ赤にしてフリーズしていたのだった。
そして、なんやかんやあり(主にセルナがエルムに仕掛けるなど)オムライスとハンバーガーを食べ終わると、バニラアイスとチョコアイスを店長がサービスしてくれて、それをエルムがセルナに先に選ばせて残ったやつを食べるからと紳士的行動をとり、それに嬉し泣きをしたセルナはエルムに抱きつき超至近距離のあーんをさせてテレたエルムに「やっぱりこっちのエルム様もかわいい~~!!」と抱きつく力を強くしているのを見て微笑ましく見守る客たちだったが一人だけ一人だけちょっとホッコリしつつも「あー!!羨ましぃ!!」と8才に嫉妬する男がいたのだった
アイスも食べ終わり店を出ようとレジに向かう
「おじさん!お会計お願いします!」
「お?ああ、お代は……」
いいよ、と繋げる予定だった言葉はある一人の男の登場によって遮られる。
「やっと見つけましたぁ!!エルム=ギール様!!ヒヒィッ!!」
そう、先程迎えに来たと言っていた経営者コレクターこと、ノルト=マギレウ=ダラズラスだった。
「あっ!さっきの飴の人!」
「エルム様!逃げましょう!この人変な人です!」
セルナがそういうと店の客が一斉に立ち上がった。
まるで軍隊の如しである
さっきまで愚痴を溢していた男ですら鬼の形相
「ヒヒィッ!!?」
「おい、お前子供(しかも領主の息子)になにしようとしてんだ?おい(何かあったら俺らがどんな目に遭うかわかんねぇんだよ)」
「い、いや!わ、私はただ…」
「ただぁあ!?(変なことだったら容赦なくぶっ殺す!)」
「ここの領主が今王城にいらっしゃっているので迎えに行って欲しいと頼まれただけなのです!ヒヒッ!!」
「……その証拠は」
「な、無くしてしまいました」
「……帰れ」
「……」
「……」
圧倒的な沈黙である
「というかお前誰だよ」
「よくぞ聞いてくれました!!ヒヒィッ!!!
私の名前はノルト=マギレウ=ダラズラス!!
簡単に言うとマギレウカンパニーの全店舗の経営兼責任者です!ヒヒッ!!」
「……えっ?」
「はいどうぞ、名刺です。ヒヒッ」
名刺という現実味を帯びたものを渡された客は…
「えっ?」
固まっていた。
「セリィー僕眠くなってきた」
「ええっ!私を今ここに取り残すのですか!?だめで……?」
そこでセルナは考える
この状態でエルム様は必要ないのではないだろうか?と
何故ならエルム様は自由だからである
差し出されたものを食べるし食べたら眠くなる
それにエルム様の寝顔も可愛いというオプション付き
セルナは決断した
「いえ、何でもありません、お休みなさいエルム様」
「?……ふわぁあ……おやすみぃ……うみゅ……」
そしてメリアの腕の中ですぅすぅと寝息をたて始めるエルム
「……可愛いっ!!!!」
を見て萌えるセルナ
その光景を見ていた客は硬直状態からようやく戻ってくるのであった。
「…は、はは!そ、そうだよないくらあの圧倒的な商才をもって革命を起こしたアノル=マギレウ=ダラズラスの息子だとしてもアイツの方が有名だよな!!ギール家の跡取りであり得ないくらい圧倒的魔力を持ち3歳に教えていないギール家、血統の回復、治癒魔術をすべて使え、属性、非属性魔術をも見ただけで覚え、さらには消えたはずの魔術、滅亡魔術を使えるという、天才を通り越した正に神の子と歌われたエルム=レイル=ギールだもんな!!」
当時のエルムは、『まだ』神の子と呼ばれていた。
このあと魔術だけでなく触れた全ての武器を完璧に使いこなすという
あり得ないことをやってのけたときには神の子から神災、神の厄災と呼ばれ一部以外の世界中のエルムを知っている者からの反応は羨望から恐怖へと変わっていくのは今回とは違う悲劇の一幕だ
しかし当時はまだ神の子である。
「まあ、あんたなら安心だろう、というかなんかしようとしたらあんた自身も終わると思うぞ、身体的にも地位的にも」
「知ってますよ!私と言えど極刑直行ですよ!!ヒヒッ!!」
「それがわかってるんなら俺らはなんも言わねえよ、俺らはな?」
俺らを強調する元駄弁り男は親指でセルナとエルムを差す
「あはぁ~!エルム様~かわいい……」
「あいつを説得しろよ?ゆっとっけど無理矢理とかったら俺たちも容赦しねぇからな?」
「だからしませんってばっ!!ヒヒヒッ!!」
「……すぅ……すぅ……」
「…うはぁ~~!!」
「あのー?セルナ様?」
「今忙しいので後にしてください」
「ブファッ!!ハ、アハハ!」
ノルトによって幸せなときを邪魔されたセルナはとても不機嫌そうな顔をして即後回しにする
それを見た駄弁り男たちは8才の子供に相手にされない大人という珍しい光景に吹き出していた
「でしたら、向こうにつくまで二人っきりの馬車とかご用意しますよ?ヒヒッ?」
「二人っきり!?行く!行くわ!!」
「ヒッ?……ヒィー……良かった…」
そこは8才、誘惑に弱いお年頃
「なら早速いきましょうか!ヒヒッ!」
いつのまにか店の前に用意されていたのはとても高級そうな馬車
そして、その回りには黒のフード付きロングコートを目深にかぶっている人たちが立っている。
「エルム様っとふったりきりー!!」
が、セルナは気がつかない。
それよりもエルムと二人っきりで一緒に出掛けられることに喜んでいた。
「セルナ様?準備できてますよー!ヒヒー!」
「えっ?あ!はい!!」
こんな状況でもすやすやと眠るエルムを軽々とおんぶをするセルナ
「私がお送りしましょうか?ヒヒッ?」
「ダメです!一緒にはいきますけどエルム様には触らせません!」
「は、はあ」
よくわからないとばかりに首をかしげるノルトの横をすり抜けてレジに向かうと一枚のコインを置いた。
それは緑がかった透明な一枚のコイン
魔貨
魔石から作られたコイン
魔石は属性によって色が違くそして、魔術としてのランクが高ければ高いほど純度が上がる。
そして、純度が高ければ価値も上がる
この緑色の魔貨
通称 緑魔貨
この緑魔貨はとても澄んでいて光を遮っているものがなさそうなくらい。
完全に最上級の魔術の魔石から作られている。
初級の魔貨でも小さめの家が買えるくらいなのに、最上級ともなったら、そりゃあもう……ねぇ
具体的には王都の一等地に豪邸がたてられるくらいである
「皆さま!先程は心配してくださってありがとうございました!これは私……いや、エルム様からのお気持ちです!存分に楽しんで下さい!」
「……緑魔貨?…………おいおいおい!!?そんな高価なもんを何でポケットから取り出してんの!!?」
元駄弁り男の疑問を完全にスルーしたセルナは店に頭を軽く下げた
「それではっ!行きますよ!ノルトさん!」
「ハヒィ!!」
もはやノルトは手下のように扱われていた
馬車に乗りこみノルトが御者をしてそのまま出発
正に華麗な一連の流れである
その後店内が大騒ぎになったのは至極当然のことであった。




