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あらすじ必読な突発短編

僕のルームメイト

作者:

『私の幼馴染』、『私の父兄』の続編。二作品の登場人物は出ません。

 僕の家は、平安時代まで遡れるいわゆる旧家だ。

 現在は服飾企業として世界進出も果たしている。

 御曹司、という立場にある以上、色々としがらみがある。

 11歳の時のお見合いなんか最たるものだったけど、僕としてはあれは嬉しい出来事だったから別に良い。

 相手の子に一目惚れして、後に分かったけど一目惚れもされて、両親も気に入って、僕以上に猫かわいがりをしている。

 いわゆる、リア充な立場になった。その子の家族が最低最悪な奴らだったけど。

 出来が悪いって、自分の子供または妹を虐待するとかふざけてるよね。

 その子は、けして出来が悪いわけじゃなかった。

 比較するのが天才と名高いその子の兄だったから、出来が悪く思えただけで実際はかなり優秀。

 僕の家の仕事の事も専門用語とかすぐに覚えたし、通っていた私立小学校では学年トップの成績だった。

 そういうことを見もしないで、少ない失敗を取り上げて罵倒する彼らが僕は嫌いだった。

 その子の兄なんか、特に最低だった。

 人の事を見下して、自分こそが正しくて一番だと思っている傲慢で我儘な勘違い野郎。

 その陰に隠され、罵倒されて来たその子は少々ひねくれてはいたけどまっすぐで努力家だった。

 両親も、よくぞあの家でここまで真っ当に育った、と驚いていたし。


 社会勉強も兼ねて、父も通った東京の中高一貫校に入学することが決まり、その子に告白して利害関係による婚約者ではなく恋人同士になれた。

 それが嬉しくて浮かれていたら、東京に暮らす5歳上の従兄に散々からかわれた。報復しておいたけど。

 その子は地元の女子中学に進学することになったから、遠距離は確定してしまった。

 まぁ、それは良いとして。

 週1で送られてくる写真と、毎日してるメールと電話で我慢できるから。というか、するから。


 高等部に入る数ヶ月前、その子が実家から絶縁されて僕の実家に入ったことが分かった。

 …母さんが狂喜乱舞する様が目に浮かぶ。父さんも舞い上がってるね、きっと。

 だから、高校は僕の所に来ると言ってくれて嬉しかった。

 後1年もすれば、一緒に通えるんだと思えばテンションも上がるよ。

 長期の休みしか会えないし、一応跡取りだからやることはいくらでもあるし。

 これで事あるごとに甘やかしてあげられる! と思ってたら、先生から面倒な事を頼まれてしまった。


 理事長の友人のお孫さんが入学されるとかで、その同室者になることを任された。

 全寮制で二人一部屋だから、それは別に良い。

 ただ、回りくどい言い方をして頼まれた、というか命令されたのはそんな生易しいものじゃなかった。

 お孫さん、金崎 亘は入学に際して監視役を設けることを条件付けされるほどの問題児だった。

 暴れたり喧嘩をしたりとか不良というわけではない。

 髪を染めてないし、ピアスもしてない。見た目だけなら、完全な優等生だ。

 ただ、中学時代、たった一回引き起こしたある件が金崎を要注意人物にしてしまった。

 まぁ、金崎が完全に悪いんだけど。

 僕の婚約者の兄と一緒になって、友人と言ってもいい立場の女の子を無実の罪で糾弾し、追い詰めたとか。

 婚約者の家もそれで色々と面倒なことになったらしい。その結果が絶縁だから、女の子には悪いけどいいきっかけだったかなとは思う。

 そういう経緯があって、金崎には監視役をつけることになったらしい。

 子供の失敗、というにはあまりにも重い内容だし、やった事は犯罪として立件されてもおかしくないことをしている。

 仕方ない、とは確かに想う。

 でも、それがなぜ僕なのだろうか。

 中等部の時、生徒会長だったからか。1年の時、風紀委員に属していたからか。

 …全てな気がして来たよ。

 先生が張り付いているのは問題があるのは分かってるし、外部生の面倒を内部生代表が見ているんだと言えばまぁ納得はできるよね。

 ただ、単独行動をなるべくさせないようにしなくてはいけないからとした言動で、友人には憐れまれ、クラスメイト及び他の生徒からは怪しまれたのは精神衛生的にきつかったけどね。


 まぁ、そんな日々も今日で終わりだよ。

 うん、強制終了するよ。

 理事長もその友人も、いくら何でも続けろとは言わないよね。


「…ぼく、異性愛者何で君に興味ないんで。近づかないでくれない? 気持ち悪い」


 根っからの問題児だな、こいつ。



※※※



 廊下で金崎が言い放った途端、周囲の一部(おそらく外部生)がついに言ったかって雰囲気になったのに腹立たしい。

 あと、友人達よ。

 笑いをこらえているのは見えてるからな。あとで覚えておけ。


「君は、随分と甘やかされて育ったんだね」


 入学式前日、先生から頼まれた時から思ってたよ。

 本当に、こいつは甘やかされて常識と倫理を持たずに育った赤ん坊以下の存在だ。


 不愉快そうだけど、僕の方がよっぽど不愉快だ。


「僕が君に好きで張り付いているとでも? そんなに暇人じゃないんだ。なんせ、これでも生徒会役員だからね。来年には副会長就任が決まってるし」


 だから、生徒会に所属している先輩や同輩達は僕の事情を知っている。

 会う度にいたわってくれる癒し系会長といざという時の為にとおど…ゴホン、口論に勝てる方法を伝授してくれた副会長、本当にありがとうございました。

 美味しい紅茶を入れてくれる書記と無言だけど頭を撫でて仕事をいくつか代わってくれる会計、寮に帰るのが苦痛になるぐらいに癒されました。

 肩を叩いてバカ話に引きずり込んでくれる運動部代表と勉強を見るという形で雑談という名の愚痴を聞いてくれる文化部代表、尊敬してます。


 先輩達に感謝と敬意を捧げつつ、目の前の問題児に対してにっこりと笑みを浮かべる。


「金崎 亘。外部入学生。1月15日生まれ。A型。158㎝。44㎏。祖父は某国立大学文学教授・金崎 浩一郎。父は某文学賞受賞者・金崎 淳一。母は専業主婦。一人っ子で、祖父母と両親の五人家族。元々地元の名士的存在であった為に、周囲との壁を感じつつ中学に入るまではちゃんとした友人はおらず、人付き合いが下手に。結果、嫌味っぽい言葉遣いで敬遠されるようになり、中学では同じように特別扱いされる人間達としか友好をえられず、狭い人間関係で増長、周囲を見下すようになったものの、友人である生徒会会長のカリスマ性の助けを借りた形で肯定されていくことでさらに増長し、諌めてくれていた友人のはずの女生徒への集団いじめに参加、結果、女生徒を生徒会のみならず学校からも追放する形になった」


 知っている事を全部言ってやったら、顔色を真っ青にして震え始めた。

 知らないと思っていたのだろうか。

 学校側には情報は全部いっているんだから、知らないわけがない。

 それに思い至りさえすれば、自由な行動を許されることなんてない。


 そんな、当たり前な事にすら気付かないなんてどれだけバカなんだろう。


「去年、ニュースになったよね。人気中学生モデルの親が虐待容疑で逮捕され、執行猶予なしの実刑判決を食らったの。そのモデルの彼女だよね? 君がいじめ…」


「うるさいっ!」


「…そこで怒鳴るってことは、事実って言ってるようなものだよ。ねぇ、金崎。君は、中学を出たら、全部終わりだとでも思ってるの? そんなわけないでしょ?」


 罰せられていないから、許されたなんて思ってるなら、バカバカしいにもほどがある。

 今は、中学生でも実刑が下ることだってあるんだよ。


「君達が中学でしたのは立派な犯罪だった。一人の人間の人格を否定し、人生を潰しかけた。君を含めた生徒会の面々にはそれだけの力があった。それを十分に理解できるだけの幼少期があったはずだ。にもかかわらず、君達は自身ではなく親の力をふるって一人の人間を追いつめて潰しかけた。それが、簡単に許されるとでも思っているの?」


 本当なら、こんな公開処刑みたいなことはすべきじゃないんだろう。

 僕だって、十分に影響力と発言力があるんだ。

 けれど、こいつは一度、徹底的に叩かないとどうにもならない。

 それは、こいつの保護者たちにも言える事だ。


「法の罰を受けなかったから? だから、許される? バカじゃないの。君が、君達が法によって罰せられなかったのは、被害者が温情をかけたからだよ。本当なら訴えられて、前科持ちだよ? 彼女に心から感謝して最低でもまともな人間になろうと努力するのが普通じゃないのかな? だというのに、君は普通だね。どこまでも、中学時代と変わらないんだね。―――ふざけないでくれないかい?」


 視界にいる友人達が口元を抑えて後ずさり始めたんだけど、どういう事だろう?

 あとでじっくりと話を聞こう。


「先生方は君のそういうところを危惧されたんだよ。そして、僕に監視役を依頼したんだ。先生方が張り付いていては、君の学生生活そのものを壊してしまうからね。ねぇ、君。僕は監視役だったんだ。意味、分かるかな?」


 しばしの沈黙の後、外部生の視線ががらりと変わったのがわかる。

 …みんな、流されやすいね。もうちょっとしっかりしてほしい。

 今度の全校集会、先生方に注意してもらえるようにしよう。


「君の家族は、君を含めてだれも彼女に謝ろうとしなかった。電話でもメールでも人伝えでもいくらでもできたのに。誠意を伝える方法も、償う方法もそれこそ無限にあったのに。君を知り合いの学校に放り込み、監視役を置いて安心して全て終わったような顔をして変わる努力もせず、そのままで生きる。……ふざけるのもいい加減にしなよ、もう高校生なんだ。世の善悪も謝り方ももう十分に理解できているはずだ」


 こいつの中での常識を、聞いてみたい気もするけど怒りしかわかない気がする。


「その上、押し付けられて嫌々していた監視行動を、勘違いして同性愛者と思い込んで人前で罵倒するとか…。君は人への気遣いが無いね。まぁ、あったらあんなことはしてないだろうけど」


 そもそも、僕が婚約者を溺愛しているのは内部生なら誰でも知ってるしね。


「何より腹立たしいのは、君が何も聞いてこなかったことだ」


「聞いて…?」


「内部生の子達は、聞きに来たよ。どうして、君に張り付いているのか、婚約者の事は、嫌々にしか見えないのに、とか色々ね。見るだけじゃダメなんだよ。聞かなきゃいけないんだ。知ろうと努力することが必要なんだ。見てもらうだけじゃダメなんだよ。聞いてもらおうとしなきゃいけないんだ。知ってもらおうと努力しなきゃいけないんだ。僕の立場では自分から発信できない。だから、聞いてきてくれた子達には全部話したよ。広めないように釘を刺して、ね。…この学校には、それなりの家の子達が集まってるんだよ。だから、徹底して教えられるんだ。人の声に耳を貸し、人の動きに視線を合わせ、人の想いに向き合え、と。中等部の頃だから、外部生の子達は知らなくても仕方ないけど」


 蒼白になって崩れ落ちたけど、同情はしない。

 反省する機会はあったのにね。

 それに、さっきの言葉は、中学の時に言われた言葉によく似ているよね。

 思い知ればいい。

 自分がどれほど甘ったれでバカなのか。


「君の耳と目は、何の役にも立たないガラクタだね」


 本当に、そう思うよ。

 心から、ね。



※※※



「お前さんの教育の結果、だ。とっとと引き取って帰れ」


「…無情だな。何十年来の友人に」


「友人? はっ。ふざけたことを抜かすな。お前がわしにしたことを忘れたわけじゃあるまいに」


「………」


「お前さんの孫は、そっくりだよ。自分が悪いと知っても、プライドが邪魔をして謝罪できない。朱堂の孫にも悪いことをした」


「…公開処刑なんぞするとは、さすがは性悪朱堂の孫だな」


「お前さんには言われたくは無かろう。それに、朱堂の孫は、機会を与え続け、何ヶ月も待った。自分から働きかけることはなかったが、周囲が朱堂の孫に話しかけていることも知っていたはずだ。それなのに動かなかった。非はお前さんの孫にある」


「………」


「分が悪くなるとだんまりになる。昔からの癖だな。もう話すことが無いのなら帰れ。不本意だが知己であることを考慮して受け入れてやったが、その時に約束したはずだ。監視役がダメだと判断し、それをわしが適切と断じれば、引き取って帰り関わらない、と。それを履行してもらおうか」


「…だが」


「転校なり留学なりなんなりさせろ。ただし、向こうの学校には孫の素行調査資料を添付しておけ。そうでないと、また同じことをするぞ」


「貴様…」


「現に、同じことをしてはいないものの、全く成長がみられなかっただろうが。朱堂の孫も、同じことを繰り返す、と断言していた。あれは良く見ている」


「子供の言い分を真に受けて、未来を潰そうとするか!」


「未来を潰そうとしたくせに反省も謝罪もしない者に、情けをかけるほどお人好しではない。これが最後だ。とっとと引き取って帰れ。でなくては、退学勧告をさせてもらう」


「っ!」


「自主退学か転校の方がまだ体裁は良いだろう。自分の名誉の為にも孫の今後の為にも、な」


「………」






「お前さんがわしの妹を孕ませておきながらどこの馬の骨とも分からん女を選んだことをのみこんで、お前さんの孫の未来の為に場を提供してやったんだ。もう十分だろう」







「お祖父様も、優しいよね」


「…そういう君は、常に傍観者だったね。一応、君の従兄妹だろうに」


「お祖母様を捨てた最低男の最低な孫に関わるなんて、それなんて黒歴史」


「…関わった僕の黒歴史に同情はしてくれないのかな?」


「心の底から同情してあげる。だけど、今後も絶対に関わらない。犯罪者以前に、人として受付ないの」


「心の底から同意するよ」


「ありがとう。……そういえば、来年はあんたの婚約者が入学してくるんだよね。楽しみだなぁ」


「…できれば、関わってほしくないと思う僕は間違ってないよな?」


「安心してよ。その子が良い子ならわたしは優しくするよ」


「冷たくしたら、その時点で敵認定だから」






『笑顔でこえぇよ、お前ら』







語り手:朱堂(すどう) 玲司(れいじ)

    名門旧家朱堂家嫡男、前作の語り手・厳木 芹香の婚約者。

    中高一貫校の進学校で、次期生徒会副会長内定済みの優等生。

    ただし腹黒。婚約者を溺愛しており、内部生の中では有名。

    自分の有能さを十分に理解している。


※最後の理事長と金崎の祖父の会話について

 ・理事長の妹と金崎の祖父は婚約者だったが、高校生くらいの時に金崎の祖父が別の女性と恋に落ちた。

 ・どうせ結婚するから、と性欲発散に手を出していたが避妊は一応していた(あくまでも一応)。

 ・妊娠している事を必死に訴えても、自分の子供かわからない、とのたまった金崎の祖父を、彼の両親も擁護した。

 ・結論、理事長側は被害者で、金崎家は根っからのクズ。


※最後の、玲司と会話していた女子生徒について

 ・理事長の孫娘。金崎祖父の孫でもあるので、金崎の従兄妹になる。

 ・理事長の妹が産んだ金崎祖父の子供(娘)が、理事長の息子(次男)と結婚し、生まれたのが彼女。


『』 ← これの会話文は、文中、口元を抑えて後ずさっていた友人達。


……長々と失礼いたしました。




(…文中の生徒会役員達は、BLネタで作ったキャラだったりします)


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