1-8
「土産ハどうした。あの人間でモ良かったのだぞ。」
改めてみるとおっきいなー。腕なんか僕の腰ぐらい太い。あ、足かな? 爪の鋭さはこの前みたとおりだし。
背中の山羊から涎垂れてる。アレには触りたくないな。臭いとかキツそう。
「我は我慢が出来ル性分ではない。これほど待たされ、しかも手土産なしトは。グルル。」
剥き出した牙も切れ味抜群。怒気でちょっと周囲が暑くなった気がする。
「我が呼んだ客人デはあるが、仕方ナい。灸を据えてやろウ。」
せんてひっしょー。
先ずは横っ面をぶん殴る。そして、怯んだ所に続けてキックを…。
ふぐはッ。
激痛。すごく痛い!
先制攻撃したはずなのに、ライオンの顔が目の前にあったはずなのに、今僕は地面とにらめっこしてる。
なんで!? いつ!?
見上げるとアイツは振り上げた足をゆっくり下ろすとこだった。
くそっ。僕も殴られた!
右の拳をぐっぱーぐっぱーしてみる。殴った感触はあったんだ。でも同じ感じは足にはない。
蹴る前に殴られちゃった。
ちくしょ。
しかも、アイツは全然痛そうじゃない。すっごく怒ってるけど。
最初に二発は確実に入れるつもりだったの、うわ!!
ガチン。
「おとなしくしていロ。余計腹が減ル。」
咄嗟にかがんでなんとかよけたけど、耳の毛がちょっと千切られた。
あぶな、あぶな!
考える暇もなく爪が、牙が、蛇が。
そしてドゴンッ!
ぐふっ。
左脇にボディブロー。
ちくしょー、痛いよ!
でも、今度は不意の一発じゃなかった。だから一応防御もできたし、空中で受身も取れた。
殴り飛ばされたお陰で距離もできた。
のんびりしてると飛び掛ってくる。体がおっきい分、射程が長い。反対にびたっとくっ付けばそんなに痛いのは来ない。でも、蛇が来るから。
ふうぅぅ。
落ち着け。ちゃんと見ればだいじょぶ。殴るとか打つとか、そういうのは僕の体重が軽いせいもあっておっきなダメージはないみたい。舞い落ちる木の葉を叩くイメージかな。でも、スラッシュ系は全力回避。触ったときには木端微塵っぽいかな。
いくぞ全力。
尻尾を二つに増やして、ゆらゆらさせる。
ふへ。ふへへ。
突進!
一直線に距離を詰める。来た、爪!
二本目の尻尾を掠らせて、あごの下に滑り込む。
よし、ここ!
「アッパー!」
ガン、ガン、ガンッ!
痛ッ…。殴ってるのは僕なのに、コイツの骨硬い。
「グルァ!!」
背後からの攻撃を察して、腹下に更に潜る。なんて深い懐。
ゴスッ。ズド、ズドッ。
顎よりはやわらかい。
でも、硬い体毛が邪魔をして、衝撃が通っている気がしない。
「おらおらおらおらおらおらァ!!」
ドドドドドドドドド。
通らないなら通るまで殴る!
「mposi mj後spgj;k;sgs0いgsbsぽpjん;」
らららららららァ!
びシィ!
「ひぎッ! なんだ、体が、動かない!」
僕の周囲に紫色の円、そして怪しげな模様が浮かんで取り囲まれていました。
「く、くそッ!」
動かないッ。
のそりと獅子が立ち上がります。まるで山のように天を衝くようです。その左腕に同じような陣。更に空へと何十にも重なっています。魔法陣のミルフィーユです。
マズッ。
「ブンブンと煩イ奴め。だがこれで動けマい。」
ドグラシャ。
左半身で鈍い音がして。
ばきばきばきばき。
木を4本貫通しました。
陣によって加速、増幅されたナックルが放つ強烈なフック。
木の内側を通ったのは初めてだったので感動しちゃいました。
「ほ、…あ。なんかこういうの、イイ。」
思っていた以上のバトル。
ひひっと笑うも、左腕は上がりませんでした。だらんとして、そこだけ死んでるみたいでした。
折れちゃったみたいです。
「……。」
またゆっくり近づいてきます。ばけものめぇ。きしし。
「我は炎ノ化神イフリート。その眷顧隷属たル貴様が弓引くとは癪に障ル。身分の違いを分からせてヤろう。」「gah iuafmヵ歩jが得う派jlウpg化lk歩sがy0つあp」
ビビビビシビシビシッ。
ぐっ。ぐぬぬ。
無数の石つぶてが飛んでくる。さっきのとは違う方法の足止め。辛うじて目を開けると、イフリートが大きく息を吸い込んでいました。
轟ッ。
「ッ。ァ、……ッ。」
喉が灼けるッ!
目が、目の玉が蒸発するッ。
焦熱の地獄とはこれでしょうか?
灼熱で灼アツです。
周りの空気ごと焼き尽くされて、声を上げることも出来ません。
「ズハッ、ズハァ! カハッ。」
「其のまま膝を折っテ、頭を地にこすり付け、許しを請エ。その左腕だけで許してやロう。」
なんて低くて、重い声なんだ。腹の底から響いてくるみたいだ。
実力の違いを分からされる。
でも……。
楽しいよ。
くは、カハッ。カハハッ!
楽しいよ、イデア。
こんな得体の知れない、生き物の範囲を超えた相手とがちんこで戦って。
怖いけど、すごく怖いけど。
でも、ブワッと来るんだ。鳥肌立ちっぱなしなんだ。
恐怖と混ざってわけわかんなくなっちゃってる。
ケン、なんとかゾクって言ったっけ。意味はわからいけど、多分手下とかってことだよね。冗談は姿形だけにしてよ。
カカカッ。
「その顔、目障りダ。今すぐ畏れニかえて見せよう。」
「l;s w lsmaasutropkgmmkpsjl;skg;js:。、;pそkがl・・・」
黙れ。
「ごッ。がごご。うごごッ。」
お前だろうさっきから僕を縛ってくれたのは。
お礼にその喉焼いてやる。僕の二本目の尻尾をくれてやる。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」「ギィヤァア嗚呼!!」
頭は三つあっても、感覚はみんな繋がってるのか。
3倍騒がしいな。でも、これで多分山羊の言葉は封じた。あの円も出せないはず。
「オ前…、何をしタ!」
ひらひらと尻尾を振った。二本目の尻尾は山羊の口の中。
「塵にしてくれル!!」
轟ッ!
そんな大技二回も食らうもんか。
チリッ。
あれ? 完全によけたはずだけど、少し尻尾をかすめたかな。
まぁいっか、それくらい気にしない。
サイドステップで揺さぶりをかけて、今度は尻尾の蛇を…。
でも、なんか尻尾に違和感が。
お尻を見てみた。
「おお。一本増えてる…。」
「余所見とは、舐めた真似ヲ。」
ぶんと豪腕が、なぜかぜんぜん違う場所を空振りした。
さっきのステップで最初に左に跳んだところ?
なんで、あ、もしかして目を潰した?
「貴様いつの間ニ…。」
しっかり両方の目で睨んでくる。変だな、揺さぶってみたけどそんなに長いことだませるほどじゃないし。
確かめてみるか。
今度は右、腹の下をくぐって反対側のわき腹を…。
ゴンッ。ぶん。
同時に拳をふるっても、僕のはヒットしたのにイフリートのまた空振りしてる。
「陽炎カ。小賢しイ!!」
拳を振る一瞬前、振り返った僕は、僕の姿を見た。
でも、ゆらゆらと揺らめいてはっきりしない僕の姿。水面に写したような感じ。
ぶるぶるッ!
僕にもこんな技が。カゲロウ…。
…。
……。
カコイイ!!
何これすごい。
こうやってサイドステップするだけで、僕の分身がどんどん増えてく。
それに惑わされてどれが本物か分かってないみたいだ。
ゴン。ゴゴンッ。ゴゴゴゴゴンンッ!!
意識の外から殴れば確かに骨まで届く打撃の感覚がある。
こんなのにやけずにいられない!
よし、貰うよ。
バックステップ、で急速前進。
尻尾の蛇を。
ガブッ。ぶちん。
「ゴアアッ!」
今度の悲鳴は×1。山羊はのど潰してるし、蛇は僕が今食べてるし。
蛇もおいしい。むぐむぐ。
「愚弄しおったナ。許さン。許サんぞヲヲヲヲヲ!!」
な、なな、なんだ。
突然燃え始めた。
全身が炎に包まれて、いや炎そのものみたいだ。
ズガァッ。
「許さん許さん許さん!」
ズガッ、ドゴッ、ズガッ。
見えない。さっきまでの見えていたはずの攻撃が見えない。
ズドドドドドッ。
右に動けば右から、左に動けば左から、どこに逃げても打撃が浴びせられる。
くそっ、しかも全然アイツの姿が見えない。
「いい加減に…!」
「かふっ。」
鳩尾からかちあげられる。
バシッ。
「かはっ。」
簡単に叩いてくれるなー。あ、やばい。またあの、紫の、ミルフィーユ…。
さっきよりも層が多いや。やばいなー。どうにか。
よっこ、いしょ。ゴロリ。
ズドンめきめきめき。
うわ、地面が裂けちゃってる。食らってたら冗談じゃなく死んでたなー。
よっと。
せめて。
最後に一矢。
サイドステップして…。
尻尾を振って…。
横っ面に一発。
ぶうん……。
はは…。
ははは…。
なんだ、使えるの僕だけじゃないんだ…。
かげろう…。
デカイ口あけて…。
こっちじゃん、本当の大技…。
はは。強かったなー…。
………。
『我はイフリート。炎ノ化神。身分を弁えぬ汝に炎の裁きを与えル。』
遠くなっていく意識で、ぼんやりと聞いた最後の声です。




