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オープン・ワールド  作者: 梯子
ワールド1
8/22

1-7

イデアはその間ずっと目を覚まさず、額に汗をにじませてう~んう~んと唸っていました。セレナは1日で目を覚ましましたが、それでも満足に動くことはできなくて、家の中をウロウロして痛みにイライラしていました。

 薬草や食料はマリが採ってくる係りです。その間二人を看病しています。といってもおでこの濡れ布巾を換えたり、水を飲ませたりすることしかできません。でも僕は薬草の場所を知らないのです、またアイツが襲ってくることも考えましたが、多分それは僕を狙ってのことで、僕がどこにいようとも関係ない、なら4人一緒がいいというセレナとイデアの思いを尊重しました。

 うなされているイデア、痛みに歯を食いしばるセレナ、アイツは二人を見たらまた飛び掛ってくると思います。美味だと言っていました。セレナの左腕が血に、肉になっているんです。

 とにかく、今度こそ僕はうまく動かなくちゃ。

 タイミングを見て、マリに言って、アイツのところに行かなくちゃ。

「薬草と、サカナ捕ってきた。お、セレナ。起きて大丈夫か?」

 こくり。

「そうか。サカナ食うか? セレナも汗すごいな。ヨーコ、セレナも拭いてやれよ。」

 ふるふる。

「あ、そうか。ヨーコがするのはダメなんだったな。じゃあ、ヨーコはサカナ焼いてきてくれよ。」

「うん、わかった。イデア、さっき起きたよ。水飲んだらまた寝ちゃった。」

 サカナを枝に突き刺し、尻尾で炙ると完成です。

 僕とマリは生で食べることも多いです、僕はまだ焼けた肉を食べる気持ちにはなりません。

 それよりも僕はアイツのことを考えるとそわそわして眠れません。

 


 四回目の夜、イデアはうなされることなくすやすやと眠っています。

 大分落ち着いてきたんだと思います、もう少しで起きることができるかもです。

 そろそろです。

「セレナ。イデア。僕ちょっと…。」

「ダメ。「ダメだ!」」

「ここにいたらまた…。」

「ヨーコ一人で戦わないで。」

「そうだ。一人で行ったって。」

「イデアがもう少し良くなったら、みんなで考えましょう。そんなに焦らないで。みんなで考えればなんとかなるわ。」

 そうじゃない。そうじゃないんだ。

「ヨーコ? 不満なの? でも、あなた一人で行ってもどうにかできる相手だとはおもわないわ。」

「そうだよ。せめてオレも一緒に。でも二人で行ったらセレナとイデアがあぶなくなっちゃうだろ。」

 わかってる。でも、今行きたい。どうしてか、今行きたいんだ。

「お願い。僕を行かせてください。」

「ヨーコ。」「ヨーコ。」

 二人と睨みあいます。僕は絶対行きたい。

「お願い…。イデアとセレナをこんな目に遭わせたあいつをぶん殴ってやらなきゃ。」


「わかったわ。ヨーコ。行って来なさい。」

「セレナ! なに言ってんだ!」

「但し、一つ条件がある。お願いといってもいいかもしれない。」

「おい、セレナ。」

「黙って。…ヨーコ、あなた今何かしなくちゃいけない、こう考えなくちゃいけないっていう考え方してるでしょ。例えば、イデアと私があのキメラに傷つけられ殺されそうになったのに、僕はなんで何もできなかったんだろう。二人のことを大切に思っているならあいつと戦いに行くべきだ、とか。」

 言葉もでません。本当にイデアは僕の心をお見通し…。

「今のは心を読んでいないわ。読む必要もない。さっきあなたは私たちのために、みたいな言い方をしたわね。それ嘘でしょ?」

 慌てて僕は言い返しました。

「そんな…、嘘じゃない。嘘なんかじゃないよ!!」

「目覚めてからずっとあなたを見てたけど、ずっと何か考えてたわね。私たちのことかしら。それともこれからどうすればってことかしら。それは、考えるというより思い詰めているという感じに私には見えたわ。思いを煮詰めていたというべきかしら。そうして自分の行動を正当化しようと、道理にかなっていると示したかったのよね。そうして本当の理由をカモフラージュしようとした。」

「僕は! …本当に二人が大事なんだ。」

「多分ね。それは嬉しいことだわ。私があなたに課した使命を果たそうとしてくれている。それが縛り付けてしまったのかもね。ただ、抱いた気持ちはそれだけじゃなかったんじゃない?」

 セレナが右手で僕の頭をくしゃっとします。

「ヨーコはどうして私たちが大事なの?」

「僕は、セレナと、セレナたちと…。みんなでいるのが楽しい。楽しいのが僕は好き。だから大事…。」

「そうね。そうなんだと思う。それでどうしてあのキメラのところに行くの?」

「それは、僕がまた二人を守れなかったから、それでそのままにしてたらまたアイツが来るかもで、そうなったら今度は死んじゃうかもしれなくて…。」

「本当はワクワクしたでしょ?」

 ぎくり。

「それは、それは……。」

「今度はこう動いて、こう来たらこうして。あなたがブツブツ言ってるの聞いてた。シャドーボクシング? って聞いてもヨーコにはわからないのか。あんな感じのこともしてた。笑ってしまうほど滑稽ですごく真剣だった。オモチャを見つけたみたいだった。」

 ふふっとセレナが笑います。

「でも、僕は二人を守れなかったから、大事に思ってるから。」

「そういうのはいらないわ。」

「え…。」

「大事に思ってくれてるのは本当に嬉しい。でも、その反面ワクワクしてるヨーコを私は不謹慎だとは思わない。」

「不謹、しん……。」

「今は寝てるけど、イデアも同じよ。」

「……。」

「オモテの世界では、確かに大事な人が殺されそうになったら悲しむべきだし、それがなおざりになってしまったら非難されるわ。原因を作ったものに夢中になってしまうなんて、言語道断。でも、この世界にはそういうルールはないでしょ? そういうしがらみはないはず。もっと自由でいいはずでしょ?」

「……ぐすっ。」

「おそらくあなたの人生最初の壁に、私たちがこんな形で関わってしまって、本当に後悔してる。使命で縛ってしまったことも。」

「そんなこと、ぐずっ、ないッ。」

「ヨーコ、楽しむことに全力を注ぎなさい、だってあなたは楽しくないといやなんでしょう?」

「う、ひっく…うん。」

「ワクワクしてゾクゾクして、色々考えたんでしょう? 試してきて。多分、私たちにとってあなたが楽しいのが一番楽しい。私たちがあなたに楽しんで欲しいと願っているんだから、あなたは楽しんでいい。自由でいい。」

「ふ、ふん。ふぁい!!」

 鼻水すすって、涙を擦りました。

「それが私の、私たちのお願い。」

 ずびびっ。ぐしぐし。

「よし、いいこ。じゃあ、いってきなさい。遅くならないように。イデアの目が覚めるときまでに帰ってくること。」

 

 お見通しだったみたいです。いつものことなんですが、でもやっぱりセレナはすごいな。

イデアもがんばってるし、マリだってすごく優しい。

 ごめんね。言われたとおりです。本当にワクワクしてます。だってすごく楽しみなんです。

 怖い気持ちもいっぱいあります。でも、そんなことはどうでもよくなっちゃって、あんな強そうな怪物と戦える、そう思ったらやっぱり気持ちの泡立ちを抑えられません。多分、オモテの世界にはいないんじゃないかな、そう直感しています。いやだからどうってことじゃなくて、うん、はやく戦ってみたい! 

 全速力でアイツの元に向かっています。多分、もうすぐ見つけると思います。背筋のゾクゾクが、もうすごいのです。ビリビリも頬が裂けそうなほど感じています。あっちも僕のことに気付いていると思います。

 さあ、行くぞ。

 楽しい時間の幕開き。


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