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オープン・ワールド  作者: 梯子
ワールド2
22/22

2-10

朝起きる。頭を掻く。

 伸びをして、立ち上がり、ドアを開け、近くの小川に行く。

 言ってはいなかったっけ? ボクの最近の日課。

 顔を洗う。2回か3回。

 水面が静かに、静かといっても流れているし、つまり波が立っていなくて、空が移る状態。

 覗きこんだボクが映る状態。

 銀髪。ところどころ白髪。

 目は藍色。暗く黒い藍色。

 その色はまるで…。


 

「ジジッ!」

がさがさ…。

「ジジ! しっかりしろ! ジジ!!」

「一人で向かってきて、私の角を折ってしまうとは、人間にしては大した者ですね。」

 カコッ、カコッ…。

「お前ッ! くそッ、ジジ! ジジが! ジジがぁ…。」

「イタチの娘。この人間が死んでしまうと悲しいのですか?」

「うるせえ! ちくしょお、まだ死ぬなよ! ジジ! いま、セレナ達呼んでくるからッ!」

「その必要はありません。」

「あ!? …お前、まさかッ!?」

「勘違いしないでください。殺しはしません。むしろ生かそうというのです。」

 ぶるるっ。

「角が折れたところから血が出ているでしょう? それを飲ませなさい。傷が癒えるはずです。」

「あ!? 本当なのか? 嘘じゃねぇだろうな?」

「あなたは単純ですね。いえ、理解が早いというべきでしょうか。ともかく飲ませなさい。私の傷が治ってしまいます。そうなってしまったら、…またわざわざ血を流すほど私はお人よしではありませんよ。」

「嘘だったらタダじゃおかねぇぞ! ほら、ジジ! コイツを飲め!」

「あなたに私をどうこうできるとは思いませんが。そして、死んでしまったとしてももともと放って置いたらそうなるのです。やってみる価値はあるでしょう?」

 ごく…、ごく…。



 という敬意を経て、ボクは銀髪、藍眼のアエリアの眷属にクラスチェンジした。

 とはいっても、記憶も全部はっきり覚えているし。容姿以外は今のところ特に変わったところもない。

「まだ慣れないなぁ、この髪…。」

「ジジきゅぅうん。今日も銀髪すてきだねぇ~ん。おねえさんに、もふもふさせてみ? もふもふ!」

「やめてよ! いっつもそれじゃん!」

「え~? いいだろ~、減るもんじゃなし!」

 もう一月以上経つ。

 あれから、イフリートもおとなしく、アエリアも姿を現さない。

「今日もそれ削るの~? たまには遊ぼうよ~?」

 アエリアから唯一自分の力で手に入れた。いわば戦利品の角。目的のブツ。

 この前まで、イデアも色々と洋服を作っていたのに…。

「銀髪になっちゃったら今までの服着れないじゃん!」

って言って、今はスランプらしい。アイデアが固まるまで遊ぶのだという。

いや、着れない事は全然ないと思うよ?

「でも、それ硬いんでしょ~? すごくきれいで、ガラスみたいに脆そうなのにね~?」

 そう。アエリアの角はすごく硬い。一ヶ月ずっと削ってもまだ終わっていない。

 しかし。

「今日完成するよ。」

「ほんと? じゃあさ、じゃあさ! 名前はなんにするの?」

 セレナといい、イデアといい…。そうしてこういう思考なのか。そりゃ日本刀とかなら銘があるものも多いけど、しかし木刀に「エクスカリバー」と言って振り回すものじゃないか。恥ずかしい!

 いや、考えてるけどね! 名前!

「え~、なんにする~? ユニコーンのつのだから~、ユニコフとか? どう?」

「ヒエリア! ヒエリアって言うの!」

 そう、彼女の名前はヒエリア。


 その夜、完成したヒエリアのお披露目となった。

 真っ暗、といっても無数の星が輝いているけど、でもやはり暗い夜の闇。

 その中でぼんやりと発行する、元ユニコーンの角。

 ボクは、その名を呼ぶ。

「ご挨拶して? ヒエリア。」

 ぼんやりとした光がすこし強くなって、その中から飛び出すもう一つの光。

 目を凝らしてみると、背中の羽を一生懸命に動かす金髪の少女。

 彼女が、彼女とこの角から作られたダガーが、ヒエリア。

「うそっ!? なにこの子!? ジジ君の隠し子?」

「バカ! 何言ってんの! ジジ君は人間じゃない! この子、羽生えて…。あれ、でもジジは今人間じゃないんだっけ??」

「うお! なんだコイツ! ちっちぇ~!」

「ジジ、この子どうしたの? 光ってる! すごい!」

 驚いたり、混乱したり、珍しがったり。

 無理もない。

「この子は、この剣の、精霊というか、守り神というか…。」

 光をこぼしながら、くるくるとボクの周りを回ってみせる。挨拶のつもりのようだ。

「ボクも驚いたんだけど、考えても良くわかんなかった。だから、これからヒエリアをよろしく。」

 また2度3度、くるくると回って見せた。

 ヨーコたちは、ヒエリアを指に止まらせてみたり、一緒に駆け回ったり。とにかくなかよくしてくれそうだ。

「今更だけど、でもやっぱり、帰ってきて本当に良かった。」

「そうだぞ~、さすがに銀髪はびっくりしたけどね~! かっこよくなった~。」

「でも、これからは、無理をしないで。あんなこともうしないで。」

「そうだよ~? ジジ君が死んじゃったら、みんな悲しいんだよ~? マリちゃんはすっごい泣いてたんだから~。」

「おい、イデア! 余計なこと言ってんじゃねえ!」

「あ、ごめ~ん。でも、ほんとのことじゃ~ん。」

「うっせえ! 殴るぞ!」

 とにもかくにも、ボクはまたここに帰ってくることができた。

 ちょっとした変化があったけど、些細なことだ。

 生きてるだけ、儲けものなのだ。

 

 ここにはボクのために泣いてくれる人も、ボクを笑ってくれる人もいる。

 オモテの人達は、まだボクを覚えているのだろうか。

 ボクはこの場所を、この人達を大切にしたいと思う。


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