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イデアが半ズボンを作ってくれました。
ちなみにヨーコと色違いのお揃いです…。ヨーコのは赤、ボクのは黒。
「ボク」にももう大分慣れてきたな…。
あれから、作っては壊し、作っては壊され、作ってはダメを出され。トライ&エラーを何度も、何度も何度も、何度も何度も何度も繰り返し。
出来上がったころにはオモテの時間で3ヶ月くらいは経っていたんじゃないだろうか。
トライ&エラーを繰り返していたのはボクだけではなく。イデアも同じように試行錯誤していた。
「だって、布があっても糸も針もなくちゃ何も作れないじゃん!」
糸はくもの糸を、針はヤマアラシの針を加工して作っていて。彼女の場合、エラーが即死に繋がることだったので、常にヨーコかマリが同行していた。そういう意味ではボクよりもタフな仕事をしていたようだ。
くもの糸といっても、ヤマアラシの針といっても、性質がオモテのものとは大きく異なっていて、勿論サイズも。
くもの糸はこちらのものは何本もの糸が撚り合わさったロープに近く、木から外すと粘着性は失われる。外したものを一本一本解して、更にそれをチーズのように裂いて、それを千歯こきのような道具を使ってけばをとる。そうしたものがこの半ズボンには使われている。
これらの調査はもちろん、このとき使った道具もイデアが自分で考え、観察し、答えを導き出したのだ。
すごい。
「はやくヨーコちゃんとジジ君に半ズボン履かせたいんだもん。」
という情熱の下、凄まじい技術革新がおこった。繊維を開発したのだ。
半ズボンを履かざるをえない。
「でもね~、大変だったんだよ~。火を使うとくっ付いてるときはすぐに燃えちゃうし、ヨーコちゃんに言っても夢中になるとすぐ燃やしちゃうし。」
最近はヨーコは火を吐く技術を習得し(厳密にはそうではないようだけど)、それを気に入ってしまい。
楽しさ至上主義なのだ、止めることもできないし。
「アタシが囮になっておびき寄せて、巣のないところでやっつけてもらうようにしないと。でもね~、一回ぐるぐる巻きにされて。ぱっくりいかれるところだったよ~。」
と、笑う。
笑えません。さすが一度死にかけた女。
この3ヶ月でやってきたことは、織機の開発だけじゃない。
例えば、織機を製作するに当たって切り出した木を見て、ヨーコが「自分の部屋が欲しい」なんていうもんだから、住宅の設計なんかしてみたり。
例えば、セレナが記録用のインクがほしいというものだから、周辺の自生する植物からインクの精製を試みたり。
例えば、マリが鉄鉱石の塊を持ち込んできてこれを壊せるくらいの武器が欲しいというものだから、じゃあ逆にこれから成分を取り出して鉄を打ったらいいんじゃねと鉄の練成をはじめてみたり。
それぞれは織機と関わりない様に見えるが、住宅の設計は機織小屋を作るために必要だし、インクは持ってきたものが尽きかけて図面を引けなくなりそうだったし、鉄は釘を作るのに役立ったしで。しかもそれぞれさらに発展性があるものだった。一番発展性がないのは織機かもしれない。
その分一つ一つの進度やスピードは遅くなるけど、いい気分転換になったし。ボクはひとつのことに注力するより色んなことを同時進行するほうが向いているらしい。だから完成は全部がほぼ同時に終わった。
簡易な住宅、青色インク、鉄(厳密には多分違う)の開発をした。
ボクもすごいと思う。自分のことながら。
ただ、この「すごい」はオモテから持ち込んだ価値観で、このことについて余韻に浸る時間はない。リミットはないけれど、それ以上に課題が、やりたいことがどんどん見つかった。僕だけじゃない、みんなも。




