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オープン・ワールド  作者: 梯子
ワールド1
10/22

1-9

「おかえり。」

「おー、帰って来たのか。なんだお前、ボロボロじゃないか。」

「ところどころ焦げてるわね。」

 床いっぱいに広げられた、布、布、鍋、布。

「今整理してたの。出しておかないと、かびてしまうから。」

「そうだぞ、さっきだしたらなー、なんかツーんとしてなー、近くの川で洗濯して。外にもいっぱい干してあったろ。」

 けらけら。

「ヨーコちゃん。」

 僕を呼ぶ声がします。

「イデア! 大丈夫なの? もう痛くないの?」

「まだ、ちょっと痛いかな。ジンジンする。でももうだいじょうぶ。…血を止めてくれたんでしょ、ありがとヨーコちゃん。」

 あ、

 イ…。

じわっ。

「まぁた。泣かないで~、大丈夫だから。」

「ヨーコ、泣きすぎ。男はそんなに泣かないで。」

「アハハッ。確かにいっつも泣いてんな~。」

「いいんだよね~。ヨーコちゃんは素直ないい子だよ~。よしよし。」

「ヨーコは感情表現がまっすぐすぎるのよ。マリもだけど。」

 ぐしぐし。

「ジンジンしてごめんなさい…。」

「ン、なに? あぁ、火傷のことか。…ヨーコちゃん、見てみる?」

「破廉恥禁止。」

「大丈夫だよ。そういうのじゃない。見られて恥ずかしいもの、もうついてないじゃん。」

 しゅるしゅると包帯をはずして。

 抉られて、傷口がすこし盛り上がった爪痕と。

 赤茶色く変色した火傷のあと。

「ほら、もう血出てないでしょ? ヨーコちゃんいなかったら私死んじゃってたよ~。」

 頭を撫でてくれる優しい手。

 なんか、すっごく懐かしい。

 嬉しい。

 ホッとする。

 よかった、イデア。生きててほんとよかった。ぐすっ。

「ていうかヨーコちゃんも、上半身裸だね。」

「ヨーコ、胸毛あったんだな。」

「フサフサしてる~。茶色くて、ほあ~、さわさわしてるよ~。」

「イデア! えぐれてない方がはみ出そうになってる! 早くしまいなさい。」

「は~い。」

「ヨーコは、どうしようか。着るものないな。寒くない?」

「うん、大丈夫。」

「ここんとこ、焦げてるぞ。」

「そういえば、ヨーコちゃんはどうだったの~?」

「あ、うん。あの…。」

「さらっと聞いたわね。しかも着替えしながら。」

「あれ? きいちゃいけなかった?」

「でも気になるよな! どうだったどうだった?」

 全員コッチ見てる。


「えへへ…。負けちゃった…。」

「負けたかー。そっかそっかー。アイツ強そうだったもんな。」

「体格差はすごくあるしね。それ以外もなんかありそうだけど。」

「ヨーコちゃんは特に怪我してないみたいだね。よかったよ~。」

 それだけであっさり終わっちゃいました。

 もっと、叱られるとか、なんかあると思ってました。

 拍子抜けでした。

「おいでヨーコちゃん。」

 ふわっ。

 頭を抱いてくれた、僕の間近には深い傷跡。

 あっ、また泣きそう。

「…ハー。」

 ん?

「すーはー、すぅぅはぁぁ。」

「すーはーすーはーすーはーすーはー。」

 ひぃっ。

 ガバッ。

 そうだイデアこういうことするんだった!

「あ~ん、もうちょっと。もうちょっとだけ…。」

 イフリートのときよりも強い危機感を覚えています。

 

「それで?」

「?」

「結果は分かった。楽しかった?」

 イデアとマリもにやにやしてる。

「いいな~、ヨーコちゃん。アタシにもそういう耳とかあったら戦ってみたいのに…。」

「耳だけついてても意味ない。」

「そうだけどさ~、あ、マリちゃんは? マリちゃんもいけちゃうんじゃない?」

「どうだろ? オレはヨーコに負けてるからな。」

「準備をちゃんとしていかないとね。で、どうだった?」

 どうだったかと言われると。

「楽しかったんでしょ? 男の子だもんね~。僕より強い奴に会いに行かないとね~。」

「今度の時の為にも準備しなくちゃな。今度はオレも行ってみたいし。」

「…! うん! あのね、アイツはイフリートって言って…。」

 楽しかったです。

 改めて振り返ってみても、やっぱり楽しかった。

 途中から、いやもしかすると最初から、敵討ちとかそういうの考えていなかった気する。

 最初から最後まで。

 偶然カゲロウが出来たし、それを簡単に超えられて、でもやっぱり文字通り燃えたし。

 カゲロウを実際にやって見せたり、でもうちの中でやるなってセレナに怒られたり、それを二人に笑われたり、僕も笑ったり。

 でも、勝ちたいなぁ。

 いつかちゃんと勝ちたい。


「ちゃんと補正も見つかったし、ひとまず今回の旅は終わりかな。」

 セレナが言い出しました。

「え、補正? そんな、ぜんぜん見つけてないよ! 僕負けて帰ってきちゃったし…。」

「勝ち負けはどうでもいいの。負けてばっかりの主人公はたくさんいるもの。」

「そう? あ~、確かにそうか。」

「そうなのか? じゃあヨーコの補正ってなんなんだ? あ、負けることか。」

「ひどいよ!」

 マリは僕に負けたくせに。

「泣くこと? ほんとヨーコちゃん一番泣いてるよね~。にやにや。」

「も、もう泣かないもん!」

「今も泣きそうだよ~。ほらおいで~。イイコイイコしてあげよう。」

「うぅ…。イデアのバカ! カタチチ!」

「カッ、チチッ!?」

「話進めていい? さっきのヨーコの話聞いててやっぱそれしかないって思った。話を聞く分には、私とイデアが受けたものより相当激しい攻撃を食らってる。」

うんうん。

「でも毛がすこし焦げただけで、五体満足で帰ってきてる。ヨーコの主人公としての補正は『死なない』こと。」

「うん、え!?」

「あ~、そっか。そうなんだね~。」

「なるほどな。いっちゃあなんだけど、イデアとかセレナは何回か死んでるな。」

「そうだと思う。ヨーコの話が大げさだったとしても、やっぱり私たちは生きてないし、イフリートの腹の中だと思う。身体的な能力はヨーコのほうが私たちより優れてるけど、特別丈夫ってことはないみたいだし。何回か、…不本意ながら裸を見たり触ったりしてるけど、硬いとか逆にゴムみたいに柔らかいとか感じなかった。」

「でもヨーコちゃんも固くなる部分が…。」

「黙れ変態。」

「ひぅん。」

 セレナの腕を触ってみた。お腹と足も。それで、自分のと比べてみた。う~ん、ちょっと僕のが固い気がするけど、確かにそんなに大きな違いはないのかも。

「い、今のは仕方ない許すわ。でも次からセクハラは容赦しないから。」

「ヨーコちゃん、わたしのも、さわる?」

「いや、いいや。」

「なんで!?」

 くすくす、うほん。

「ということで、ヨーコの主人公補正が無事見つかりました。この度の目的は達成されました。ミッションコンプリート。」

 おー、パチパチ。

「あの、ありがと? ございます…。でもあの。」

「異論はないわね。じゃあ、マリとヨーコはなんか捕ってきて。ついでにヨーコを洗ってきて。」

「あ、じゃあアタシも。」

「イデアはまだ動けないでしょ? まだ安静にしてる。」

「え~!?」

「ほら、二人はさっさと行ってきて。ヨーコが着れるの何か探しておくから。」

「行くぞヨーコ。もたもたすんな。」

 これからマリとウサギ狩り。

 その後は、気が進まない水浴び。

 そして、ウサギを焼いて。


 こうして僕の始めての冒険は終わりました。


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