梅雨の前に
その日は、一日中晴れていた。梅雨の前の静けさ、ならぬ騒がしさ。遊び回る子どもたちの声、人々の発する音たちはこの場を彩っている。
「……」
私は憂鬱だった。これから来る彼のことを考えると、胃がキリキリしてくる。
お茶会、と称して皆で集まるのはいい。私も、それには喜びを感じていた。安堵もあった。
しかし、それは女子の身内ノリでの話だ。男性が来るとなると、そうはいかない。
彼──高田創は粗野だ。紅茶を混ぜる時にスプーンの音をさせるし、マカロンだって味わっているのかよくわからない一口で食べてしまう。それが私には許せなかった。
一番許せないのは、彼が私に好意を抱いているらしいことだった。私は、友達のままでいたい。創とは同じ高校出身だが、当時はこんなに粗野ではなかった。何が彼を変えたのか、答えに辿り着いているからこそ複雑な気持ちになる。
恋は盲目、とはよく言ったものだ。彼を変えてしまったのは私。それも、嫌な方向に。
周りの女子は気を遣ってか、私と創を二人きりにさせようと今回のデートを企んだのだろう。でも、そのせいで憂鬱なのでは悲しくなってくる。誰も悪くないのだ、いや、私が悪いのか。そんなことを考えているとがっしりとした男性がやって来て私の隣に座った。
創じゃない、知らない人だ。
「ねえ君、今時間ある?」
「え、ええっと……」
私はとにかく、ナンパというものが苦手だ。品格も調和も礼儀もない。けど、いつも強く出られない。それも、品格を損なうように感じてしまって。
席を立とうにも、創のことがある。待ち合わせ場所はここだ。パニックになりそうな時、頭上から声が降ってきた。
「おい、愛里子に手出してんじゃねーよ」
「創くん……」
「お前、痛い目見たいのか?」
低音で威圧する創のことを、少し見直した。今の彼は、調和を取り戻そうとしている。
何も言わず男が去っていくと、そこに創は座った。
「悪い、遅くなった」
「いえ……」
「じゃ、始めるか。お茶会ってやつをよ」
頷き、紅茶をそっと注ぐ。梅雨前の快晴、いい日になった。




