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孤独に冷えたシンデレラ  作者: 雨瀬 詩雨
3/3

第三章¦近づく距離

翌朝。

私は不思議な夢で目を覚ました。


夢の中の学校には、誰もいなかった。

静まり返った教室に、私だけ。

……こんなこと、ある?

呆然と立ち尽くしていると、一人の男子生徒が教室に入ってきた。

『……あれ? 一人なの?』

声をかけてきたのは、昨日転校してきたばかりの朔玖君だった。

『……っ、え!?』

(さ、朔玖(さく)君……!?)

あまりの衝撃と、心臓が跳ね上がるような展開に、私は言葉を失いおどおどしてしまう。……そこで、目が覚めた。

(なーんだ、夢か……。そっか。そうだよね、あんなドラマみたいな展開、あるわけないもんね……)

現実に引き戻された私は、分かりやすく肩を落として布団から這い出した。

リビングに向かうと、お母さんの姿がどこにもない。

不思議に思い、LINEを送ってみる。

『どこにいるの?』

すると、送った瞬間に既読がつき、すぐに返信が来た。

『ごめんね! 急遽おばあちゃんに付き添って病院に行かなきゃいけなくなって。朝ごはん、適当に済ませてね』

スマホの画面を見つめ、私は思わず「はぁ……」と深いため息をついた。

朝から手の込んだものは作れず、目玉焼きと納豆、それに白米だけで簡単に済ませる。

それから身支度を終えると、私は誰もいないリビングに向かって「行ってきます」と小さく呟いた。

玄関を出て腕時計に目をやると、時間がかなりギリギリであることに気づき、私は慌てて自転車に跨り、全速力でペダルを漕いだ。


なんとか予鈴の五分前に席に着く。

「おはようございます。今日は五時間目に席替えをするので楽しみにしててくださいね」

先生が淡々とした口調でそれだけ告げると、朝のホームルームはあっけなく終わった。

私のクラスのホームルームは、他のクラスに比べて明らかに終わるのが早い。

特に連絡がなければ「おはようございます」という挨拶だけで終わることだってある。

そのせいで、一時間目が始まるまでの休み時間がひどく長く感じられる。

私は、この苦痛な三十分間の休み時間をどう過ごすべきか考えた末、ひたすら本に没頭することに決めた。

(席替え……か)

一瞬、気になる朔玖君の隣になれないかという淡い期待がよぎったが、そんな奇跡起こるはずもないので再び物語の世界へと没頭した。


そして迎えた運命の五時間目。

周りはどこの席になりたいかで盛り上がっている。


「ねえねえ、絶対隣になりたくない人って居る?」


私の後ろの席の女子が、左隣の席の女子にこそこそと話しかけていた。

「んー、西崎さんの隣にはなりたくないなあ……」

「分かるわぁ、なんかあの人暗いし、取っ付きにくいっていうか?関わりたくないよね〜」


(……いや聞こえてますけど)

チラチラと向けられる視線を背中で感じながら、私は聞こえていない振りを貫いた。


各々話していると、先生が教室に入ってきた。


「はーい、皆席についてねー。今から席替えします。その決め方なんですけど、くじを作ってきたので、くじ引きで決めたいと思います」


先生がはきはきと、生徒たちに説明する。


「まじー?」

「くじ引きかあ」

「運だめしだねー」


それぞれの反応が飛び交う中、私は妙な緊張感を胸に潜めていた。

(どうか、誰とも関わらない窓際の1番後ろの1人席になりますように…)

心の中で、神様にお祈りした。

そう、さっきの会話が聞こえてしまったせいもあるが、元々クラスの人たちには嫌われていたので、誰とも関わらない席がいいとずっと思い続けていたのだ。


運命のくじ引き──。


「わー、19番だ。えー、真ん中の1番前?最悪ー!」


一番最初に、くじを引いた男子生徒が黒板の前で騒いでいる。


「はーい、くじを引いたら早く元の席に戻ってね〜。次の人ー」


着々ととくじ引きが進んでいき、とうとう私の番が来た。


(どうか、誰とも関わらない席になりますように……)


心の中で何度もそう願いながら、くじを引く。


(36番……)


終わった…。と思いながら自分の席に戻る。


37人のクラスの全員がくじ引きを終え、先生が続ける。


「はーい、ということで今引いたくじの番号のとこに移動してってー。黒板に番号書いてるからそれ見て。あ、他の人と番号交換するとか卑怯なことはやめてねー」

先生が皆にそう促すと、皆「はーい」と言って席移動を始めた。


どんよりとした気分で机を運ぶ。

(36番は……窓際の後ろから二番目……)

隣は誰だろう。恐る恐る新しい席に机を置くと、不意に視線がぶつかった。

「え?」

びっくりして、思わず声を零す。

「ん?」

聞こえてしまったのか、隣の席に腰を下ろし、純粋な瞳で不思議そうにこちらを見ている一人の男子生徒。

(さ、さ、さ、朔玖(さく)君?!?!)

新しく隣の席になったのは、なんと、いつかの転校生。雫音が密かに気になっている朔玖君だった。

「え、あ、いや!なんでもないです」

必死に平静を装って会釈すると、彼は「よろしくね」と優しく微笑んでくれた。

(か、かっこいい……)

今まで隣になった人には露骨に嫌な顔をされてきたのに。彼の笑顔はまるで天使のように眩しかった。

彼の笑顔に浸っていると、急に先生に呼び出された。

「西崎さん、ちょっと職員室に来てくれる?」

『なんだろう…』と緊張した面持ちで先生に着いていく。

特になんの会話もなく職員室に着くと、ドアの前で先生が突然振り返り、こう言った。

「西崎さん」

「はい…」

「あなた、今度の文化祭で実行委員をやってくれないかしら」

「はい……えっ、はいぃ!??」

思わず声が裏返る。

「いやいやいや、無理です無理です!!大体、なんで私なんですか!?」

目立つことは絶対にやりたくないし、極力目立ちたくないので、必死に拒否する。

「お願いだよお、他にやる生徒が居なくて……今、先生が声掛けたのが、西崎さんでちょうど100人目だったの……」


「100人目って……」


「それで先生決めたの。100人目に声をかけた人に強制的にやってもらおうって」


「はあ??!いやいやいや、そんなの傲慢すぎます!!大体なんで私が、その100人目に選ばれなきゃいけないんですか!!!わざとですか!いじめですか!!」


「まあまあ、西崎さん落ち着いて。これはね、わざとじゃないの、くじ引きで決めた運命なの」


「こんな運命、あんまりですよ……」


「じゃあ、そういうことだから。ねっ!お願いね〜」


「いや、先生ちょっと………」


先生は私の肩をポンと叩くと、返事も待たずにデスクへ戻っていってしまった。

(はぁ………)

断りきれず、私は重い足取りで階段を上っていく。

「なんで私が……私より適任な人なんて他にいくらでもいるのに……」

ぶつぶつと愚痴をこぼしながら角を曲がった、その瞬間。

「うわっ!」

「いてっ」

誰かと正面衝突し、おでこに軽い衝撃が走った。

「あわわ、ごめん雫音さん! 大丈夫? 怪我ない?」

「大丈夫です、私こそごめんなさい……」

散らばったプリントを丁寧に拾い集め、顔を上げると――そこには朔玖君がいた。

(えっ?!朔玖君?!?!?!)

ぶつかった本人が朔玖君と知った瞬間、私の心は酷く跳び跳ねた。

「ごめん、朔玖君。私のせいで紙が……」

「ううん、全然いいんだよ。むしろ雫音さんに怪我なくて良かった」

(……優しい)

その優しい笑顔に胸が熱くなる。

「わっ、やばい、雫音さん!時間が!」

「え?」と思い腕時計を見る。

「やばっ、あと五分しかないじゃん!!

「とりあえず、僕はこれを職員室に届けてくるから雫音さんは先に教室に戻って!」

「え、でも、私がぶつかったんだし手伝うよ!」

「いいから! 僕一人で大丈夫。ね?」

「わ、わかった……」

そう押し切られ、私は一人、教室へと走った。

なんとか間に合ったものの、朔玖君は五分遅れて教室に入ってきた。

「………」

もう既に授業は始まっていて、静まり返っている。

彼は真っ先に先生の近くへ行き、「すみません、遅れてしまいました」と小声で話している。

すると、「報告してくれてありがとう、今自習中だから、青木君も早く席に座りなさい」と。

一方、私は朔玖君が怒られてないかなと心配していた。

と同時に、今更ながら、1つの疑問が浮かんだ。


(………さっき、朔玖君。私のこと下の名前で呼んだ……?)

教えた記憶はないのに、なぜだろう。


彼が隣に戻ってきたタイミングで、私はノートの端を切ってメッセージを書いた。

『大丈夫? 怒られなかった?』

こっそり渡すと、彼は小さく微笑んで返信をくれた。

『大丈夫だよ。先生、優しかった』

やり取りできることが嬉しくて、私は思い切って疑問に思ったことを書き込んだ。

『よかった。……それと、なんで私の名前知ってるの?』

変に思われないかドキドキしながら渡すと、すぐに答えが返ってきた。

『名札に書いてあるでしょ☺︎︎︎︎』と最後にニコちゃんマーク。

(え、可愛い……)

私は照れくささを隠しながら「あっ、そっか」と笑った顔を書いて渡した。

小さな秘密を共有しているような幸せな気持ちで、胸がいっぱいになった。

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