クロエの記録『少しだけ、追いつきたい』
クロエの記録『少しだけ、追いつきたい』
あの日から一週間。
アルカディアは静かだ。
でも私の身体は静かどころじゃない。
筋肉痛。全身が、です。
――原因?
もちろん、“あの二人”ですよ。
「お前、動きが甘い」
「力任せでは芸がないな」
はいはい、わかってますレイクス様、セバスさん。
でも、そもそもあなた方の基準で語られても困ります。
それでも、負けたくないから、必死で食らいついた。
あの“散歩”を見た夜から、私は決めたんだ。
いつか、自分の力であの背中に並ぶって。
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最初の訓練は、剣。
レイクス様が教えてくれたのは“剣を振るう理由”。
「速さより、心を合わせろ」
「剣は相手を断つためじゃない。守りたいものを形にするためだ」
その言葉の意味、やっと少しだけわかった気がする。
剣を“抜く”前に、私はいつも“怯えて”た。
でも今は違う。
剣を抜いた瞬間、心が静かになる。
焦りも怖さも、全部消える。
その代わりに、“守りたい”っていう熱だけが残る。
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二日目は、セバスさんの訓練。
……これは、地獄でした。
「足音が重い」「呼吸が合っていない」「戦場では一歩が命取りです」
あの優しい笑顔の裏で、完全に鬼です。
でも、風と土の流れを読む訓練は本当にすごかった。
地面の下を走る魔力の感覚――“地脈”ってやつ。
今なら、踏み込んだ瞬間に地の流れが見える気がする。
「感じることは考えることより速い」
その言葉、好きだな。
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そして今日。
初めて、レイクス様と模擬戦をした。
結果? 惨敗。……まあ当然。
でも、あの人が少しだけ笑ってくれた。
「今の一太刀――悪くなかった」
それだけで、胸の奥が熱くなった。
セバスさんも隣で小さく頷いてた。
たぶん、ほんの少しは“戦える”ようになったんだと思う。
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今、夜風にあたっている。
身体は痛いけど、心はすごく穏やか。
だって、わかったから。
あの人たちが見ている“景色”の、ほんの一端を。
いつか追いつきたい。
――守る側として、笑って隣に立てるように。
その時まで、私は走り続ける。




