クロエの日記「この人たちは反則です」
クロエの日記「この人たちは反則です」
朝。
アルカディアの街は、久しぶりに静かだった。
でも――静かすぎる。
おかしい。昨日まであんなに喧しかったのに。
それで、夜明け前から城壁に上がってみた。
霧の向こうに見えたのは、黒い焦げ跡。
そこら中、焼け野原。
……敵の姿、ゼロ。
「まさかとは思うけど……」
はい、まさかでした。
レイクス様とセバスさん。
見事に“散歩”して、“掃除”して、“帰還”されました。
もうね、反則ですよ。
⸻
だって普通、
一万ですよ、一万!
黒牙氏族の本隊を“歩いて”片付ける人間がどこにいますか。
でもご本人たちは朝帰りで、
「風が気持ちよかった」とか言ってるんです。
セバスさんは紅茶の香り袋を出して、
「朝の香りは戦場の空気を清めますね」って。
レイクス様はあくびしながら、
「埃は溜めない主義だ」って。
――ええ、溜まるのは私のストレスです。
⸻
それでも、やっぱり思う。
あの人たちがいるだけで、
街の空気が変わる。
兵士たちは“奇跡だ”って騒いでるけど、
違うんです。
本当は、奇跡を起こした本人たちが一番“普通”にしてるんです。
だから、安心する。
あの背中を見てると、
どんな夜でも、必ず朝が来る気がする。
⸻
……でもやっぱり怒ります。
「掃除」って言葉、一生忘れませんからね!
次に出歩くときは、
絶対ついていきます。
もう心配で寝られません!
――あ、でも紅茶の香りは好きです。
セバスさんの入れてくれたやつ、すごく落ち着くんですよね。
ああ、もう。
この人たちは本当に、反則です。




