表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイクス戦記  作者: ゆう
ゴブリンの襲来
96/99

アルカディアの朝

アルカディアの朝


 朝靄の中、アルカディアの城壁が光を帯びていく。

 夜の戦の名残を映したまま、

 街はいつになく静かだった。


 だがその静けさこそ、異常の証だった。


「……おかしいですね。

 昨夜のうちに撤退した? そんな動き、見てません」


 クロエは城門の上から遠眼鏡を覗き込み、眉をひそめた。

 夜明け前から彼女は捜索に出ていた。

 ――昨夜、レイクスとセバスの姿が消えたからだ。


「まさか……お散歩、なんてことは」

 自分で言って、頭を振る。

 いや、あり得る。

 あの二人なら、あり得てしまう。



「――クロエ!」

 城門下から衛兵の声。

「敵影なし! 黒牙氏族、跡形もない!」


「……え?」


 クロエが見下ろす視線の先、

 外の平原は黒く焼け焦げていた。

 昨夜まで続いていた鬨の声は、

 夢だったかのように消えている。


「まさか……またやりましたね、あの人たち」

 クロエは額を押さえて深く息を吐いた。



 やがて、丘の向こうに二つの影が現れた。

 外套の裾を揺らしながら、悠々と歩く。


 レイクスとセバス。

 その足取りは、まるで散歩帰り。


「……どこ行ってたんですかっ!」

 クロエは堪えきれずに叫んだ。

 駆け寄りながら、地面に転がる焼け跡を指さす。

「この一面! 全部! どう説明するつもりですか!」


「うるさい。朝から声が大きい」

 レイクスが欠伸交じりに言う。

「少し歩いてただけだ」


「歩いて“これ”はないでしょう!」


 セバスが紅茶の香り袋を取り出し、

 涼しい顔で言った。

「旦那様の散歩は、少々運動量が多いのです」


「少々!? これ、一万はいましたよ!?」


「うむ。良い運動だった」


「運動じゃありませんっ!」



 レイクスが肩をすくめる。

「じゃあ、“掃除”だ。埃は溜めない主義だ」


「掃除って言えば何でも許されると思ってません!?」


「許されてるだろ?」


「許してません!」


 クロエの怒り声が、

 朝の城壁に響いた。

 その様子を見ていた兵士たちは、

 思わず顔を見合わせ、

 ――“あの英雄が叱られてる”――と口を押さえた。



 セバスが控えめに口を挟む。

「クロエ様。とりあえず、報告書は旦那様ではなく私が書いておきます」


「お願いします、ほんとに……!」


「内容は『夜間に風向きの変化で敵陣が自壊』あたりでよろしいですか?」


「……もう、それでいいです」


「助かります」


 レイクスがぼそりと呟く。

「書類仕事は嫌いだ」


「それを最初に言わないでください!」



 朝日が完全に昇る頃、

 焦げた草原の向こうに鳥の群れが戻ってきた。

 アルカディアの街に再び息が吹き込まれる。


 クロエは腕を組み、ため息をついた。

「……結局、無事だから文句言えないのが腹立つんですよね」


「無事なら良い。結果がすべてだ」


「そういうところです!」


「褒め言葉だな」


「違います!」


 セバスの笑い声が静かに響いた。

「……平和な朝ですね、旦那様」


「ああ。退屈な朝が、一番贅沢だ」


 その背に朝日が差し込み、

 三人の影がゆっくりと街へ伸びていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ