守護者リランダ
第九話 守護者リランダ
リランダが去った後も、一行はしばらくの間、その場に立ち尽くしていた。ナツキが先に口を開き、その場の緊張を和らげる。
「な、なんだ? 今の…いきなり現れて、なんかすごい美人だし、森の精霊だかなんだか言ってたし…」
ナツキの言葉に、クロエが小さく頷いた。
「…とても不思議な方でしたね。一瞬で、まるで空気が変わったみたいでした」
エリカはまだヴィーナの服の袖を握りしめたまま、おずおずと顔を上げる。
「あの…リランダさん、怖くなかった…」
ヴィーナは、そんな仲間たちの様子を見て、安心したように微笑んだ。
「うん、怖くなかったよ。とっても優しい声だった…」
レナは、一行の中で唯一、冷静さを保っていた。彼女は周囲を警戒しながら、皆に宿へ戻るよう促した。
「今は話している場合じゃない。とにかく宿に戻って、今後のことを話しましょう」
宿に戻った一行は、部屋のテーブルを囲んだ。レナは水筒から水をコップに注ぎながら、口を開く。
「先ほどの女性、リランダ様は、フォルネリウスでは特別な存在だ。彼女は『霧の大樹』の守護者であり、この街の司祭も務めている。何よりも、彼女の言う『森の精霊の声』というのは、決して比喩ではない」
レナの説明に、ナツキが首を傾げた。
「おいおい、精霊の声なんて、そんなメルヘンみたいな話、本当にあんのか?」
レナは、真剣な表情でナツキを見つめた。
「…あるんだ。この街の歴史と深く関わっている。昔、**『黒い雷雨』**と呼ばれる魔族の大侵攻があった。私たちの故郷であるイシュタリアが、まだ商業連邦として確立する前の話だ」
「ああ、歴史の授業で習ったな」
ナツキが頷くと、レナは話を続けた。
「その侵攻はたった一年で終わったが、魔族の呪いが大陸中に広がり、各地で人族解放戦線が結成された。それが、80年にも及ぶ長い戦いの始まりだった。リランダ様は、その戦いの英雄として、このフォルネリウスの民を導いた方だ。彼女の精霊の力は、魔族の瘴気を浄化し、多くの民を救ったとされている」
レナの重い口調に、皆は息をのんだ。ヴィーナは、リランダの穏やかな表情の裏に、そんな壮絶な過去があることを知って驚いた。
「なるほどな…それで、ヴィーナに何か用があったってわけか?」
ナツキが尋ねると、レナは静かに頷いた。
「そうだ。彼女は、ヴィーナの聖魔法の力に興味を持っている。…おそらく、その純粋で温かい光が、彼女の『森の精霊』の認識に何らかの影響を与えたんだろう」
クロエは、テーブルに広げた街の地図を指さしながら、口を開く。
「明日、リランダ様が大樹の根元にある広場に来るようにと…依頼は、その後に向かう森の奥地ですね。予定を変更する必要はありません。ただ…」
クロエの言葉に、ナツキが身を乗り出した。
「ただ、何だよ?」
「ただ、依頼の前に、彼女の元へ行くべきです。彼女の言葉を無視すれば、この街で円滑な活動はできない。…それに、ヴィーナさんの魔法の力について、何か知ることができるかもしれません」
レナはクロエの言葉に同意した。
「ああ。私もそう思う。ヴィーナ、どうだ?」
ヴィーナは、レナとクロエ、そしてナツキとエリカの顔を一人ひとり見つめた。皆、彼女の意思を尊重してくれるような、温かい眼差しで彼女を見ていた。
「うん…私、行ってみる。リランダさんのこと、もっと知りたいし…私の魔法のこと、もしかしたら何か分かるかもしれないから」
ヴィーナの決意に、皆が頷いた。
こうして、フォルネリアでの新たな一日が、そしてヴィーナの秘められた力に迫る冒険が始まるのだった。




