【召喚 ――ヴァルトニア本邸】
【召喚 ――ヴァルトニア本邸】
扉の向こうに、静かな空気が漂っていた。
広い執務室の奥、窓際に立つ人影――レイクス=ヴァルトニア。
クロエは一歩踏み出して、小さく頭を下げた。
「失礼します。お呼びと伺いました」
「来たか。座っていい」
淡々とした声。けれど刺すような冷たさはない。
クロエは遠慮がちに椅子に腰を下ろす。
向かい合うと、どうしても背筋が伸びた。
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「試験の時のこと、覚えてるか?」
レイクスが静かに切り出す。
「え? あ、はい。少しだけ……。見てくださってたんですか?」
「ああ。あの動き、なかなか悪くなかった」
「……っ!」
クロエの目がわずかに見開かれる。
「速さと判断は良い。ただ、無理をしていたな。
身体が追いつかないまま気合いで振り抜いてた。あれは危ない」
「……はい。自分でもわかってます。
でも、あの時は、引いたら負けだと思って……」
「引かないのは悪くない」
レイクスの口元が、わずかに緩む。
「ただ、勝ちたいなら、ちゃんと退くことも覚えろ」
「……はい」
⸻
「で、呼んだ理由なんだが」
彼は軽く指を組み、クロエを見た。
「君の双剣、もっと伸ばせると思ってる。
セバスと相談した。少しの間、俺が見よう」
「っ……!? お、俺、いえ、私がですか!?」
「ああ。誰か別の人がいるか?」
「い、いえ! そんな、まさか……!」
クロエの顔が一気に赤くなる。
セバスが隣でくすっと笑った。
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「そんなに構えるな」
レイクスは穏やかに言った。
「教えるって言っても、叩き込むわけじゃない。
ただ、見せたい場所がある」
「場所?」
「明日、少し出る。――リースバルトの墓だ」
「……お墓、ですか」
「ああ。俺の古い仲間が眠ってる。
その人間の話を聞けば、君にも見えるものがあると思う」
「……わかりました」
クロエは背筋を伸ばし、小さく頷く。
「いい返事だ」
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立ち上がるレイクスの動きに、
どこか優しい空気が混じった。
「準備はセバスに任せろ。朝は早いぞ」
「はい!」
セバスが恭しく頭を下げる。
「それでは、クロエ様。支度はこちらで整えます」
「え、様!? ちょ、ちょっとやめてくださいよ!」
「ふふ。では“生徒”と呼びましょうか」
そのやり取りに、レイクスが小さく笑った。
クロエはその一瞬を見て、
――ああ、この人も笑うんだ。
そう思って、少しだけ肩の力を抜いた。




