新しき名の誓い
新しき名の誓い
エルディナ王城・謁見の間。
白い石壁に水晶の光が反射し、女神の紋章が静かに揺れる。
ヴィーナは深呼吸をひとつ。
――今日は、“ヴァルトニアの娘”としてではなく、“一つの家の主”として立つ日。
扉が開く。
赤い絨毯の先、玉座に座す女王セレーナは、光を湛えた瞳で彼女を見つめていた。
「――ヴィーナ=ヴァルトニア男爵、よく参りました」
「はっ。エデンの丘より参上いたしました」
静かに膝をつき、礼を取る。
セレーナは玉座から一段降り、柔らかく微笑んだ。
「国境での戦い、確かに報告を受けています。
アルディナ南部の砦における救援行動、民の避難誘導、そして汚染の浄化。
あなたの働きは、同盟国を救う誠実の証でした。
エルディナの名を外に示した功として、ここに感謝を伝えます」
「もったいなきお言葉にございます。
私たちはただ、女神の教えに従い、助けを求める声に応じただけです」
ヴィーナの声は震えず、まっすぐだった。
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セレーナは頷き、言葉を継ぐ。
「あなたにはすでに男爵位が授けられている。
しかし、“家の名”はいまだ定まっていませんね。
この場にて、新たな名を掲げなさい。
その名が、あなたの未来を形づくるでしょう」
広間に緊張が走る。
貴族たちが一斉に息を呑む。
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ヴィーナは目を閉じた。
エデンの丘の風、仲間の笑顔、森に生きる兎たちの笑い声――。
それが、今の自分を形作っているすべてだった。
ゆっくりと顔を上げる。
「陛下。
我が家の名を――《エデン》といたします」
ざわめきが広間に走った。
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「理由を聞かせてください」
女王の声は静かだった。
「荒れ果てた砦に、人が戻りました。
失われた地を再び“生の場所”に変える――
その再生と希望の象徴として、“エデン”と名付けました」
セレーナの瞳が細められ、穏やかな笑みが浮かぶ。
「再生の名……よい響きです」
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書記官が進み出て、封印書を捧げ持つ。
セレーナは印璽を押し、宣言した。
「この日をもって、ヴィーナ=エデン。
あなたを“エデン家 初代当主”とする。
家紋と旗印を定めなさい」
「家紋は――白兎と、髪飾りを重ねた紋にいたします。
兎は希望、髪飾りは絆の象徴。
人が共に生きる場所の証です」
「よい意匠です」
セレーナは満足げに微笑んだ。
「――ヴァルトニアの娘らしく、静かで強い心を感じます」
「ありがとうございます、陛下」
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「忘れずに。
人を守るのは力ではなく、信じる意志です。
その志を、どうか絶やさぬように」
「――はい。誓います」
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女王セレーナは再び玉座へ戻り、
手を軽く掲げた。
「エデン家に、女神の加護あらんことを」
「もったいなき御恩、深く感謝いたします」
ヴィーナは深く礼を取り、
静かに歩を下がった。
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廊下の先で、レナが待っていた。
「……決まった?」
「うん。今日から“エデン家”だよ」
「おめでとう。ヴィーナ」
ミルがぴょんと跳ねる。
「うさたんの旗、正式にできたんだね!」
「名前は可愛いけど、戦うときは怖いんだからね!」
「知ってる!レナの盾が飛んでくるもん!」
笑い声が王城の回廊に広がる。
その中心で、ヴィーナは空を見上げた。
「――エデンは、守るための名じゃない。
生きるための、始まりの名なんだ」
風が頬を撫で、
遠い丘の匂いがした。




