戦後の結果
風が静かだった。
焼けた石壁が白く光を返し、
焦げた匂いの中に、ようやく朝の空気が混じっていた。
瓦礫の上に設けられた簡易の机。
ヴィーナはその前で、疲れた兵たちと向かい合っていた。
頬にはまだ煤が残り、ローブの裾も焼け焦げている。
「……改めて、ご協力ありがとうございました。
皆さんがいなければ、この砦はもう残っていません。」
彼女の声は柔らかく、しかし凛としていた。
クラウスが手元の書簡を整えながら頷く。
「現在、砦内の生存者は五十七名。
うち十五名は重傷、癒しの光で安定しています。」
「負傷者の搬送は午後には完了します。」
ゼノが補足する。
「問題は、この砦をどう扱うか、ですね。」
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レナが地図を広げた。
「構造的に修復は可能。でも……汚染区域が広すぎる。」
「浄化したとはいえ、残滓がどこまで消えてるか不明です。」
エリカが小声で付け加える。
「魔力反応、まだ薄く残ってます。」
ヴィーナは少し考え、
焚き火の火を見つめながら呟いた。
「……このまま放棄するしかないのかな。」
「放棄すれば黒牙に再利用される。」
ゼノの声が低く響く。
「かといって守りを置く余裕もない。」
重い沈黙。
その静寂を――爆音が破った。
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ドガァァァァァン!!
外から何かが吹き飛ぶ音。
全員が一斉に顔を上げた。
「……また何か!?」
扉の向こうから、アルトミュラーが現れた。
髪はボサボサ、鎧は半分焦げている。
手には巨大なゴブリンの頭をぶら下げていた。
「残敵掃討、完了ッ!」
「……あんた、どれだけ暴れてたのよ。」
レナがため息をつく。
「森の奥に三十体ほど残っていた! 全部片づけた!」
「単騎で?」
「当然だ!」
「……筋肉、まだ残ってたのね。」
「俺の筋肉は不滅だ!」
「なら、次は瓦礫の撤去ね。」
「えっ!?」
「働け、竜壁。」
「休ませてくれぇぇぇぇぇっ!」
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ミルが笑いながらヴィーナに囁く。
「レナさん、鬼……」
「うん……でも頼りになるよね……」
「ぴより姫、もう“慣れ”てきたね。」
アルトミュラーは涙目で瓦礫を持ち上げながら叫ぶ。
「俺は騎士だぁぁ! 土木作業員じゃないぃぃ!」
「黙って動く!」
「はいぃぃぃぃ!」
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クラウスが静かにまとめる。
「……砦は一時的に放棄、物資を回収後、封鎖します。
この地を再び使うのは早いでしょうな。」
ヴィーナが頷いた。
「わかりました。
じゃあ、ここを“境界の警告地”として記録します。
女神の加護が届くまで……誰も近づけないように。」
「了解。碑文の準備を進めます。」
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風が吹き抜ける。
焼け跡の上に、朝日が差し込んだ。
光がヴィーナの金の髪を照らし、
その背に羽のような輝きが広がる。
「……少しずつ、きれいにしていこう。
ここが、また笑える場所になるように。」
彼女の言葉に、皆が微笑んだ。
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その背後で、ガラガラガッシャーン!!
「おわぁぁぁっ!?」
「アルトミュラー!?」
「壁が倒れたぁぁぁ!」
レナが頭を抱えた。
「もう、だから言ったでしょ! 無理しないでって!」
「だって……筋肉が勝手に……!」
「筋肉のせいにするなぁぁ!」
ぴより姫は手を合わせ、
「えへへ……仲良しですねぇ……」
と呑気に微笑んだ。
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焦げた砦に、また笑い声が響いた。
それはまだ不安定で、どこかぎこちなかったけれど、
確かに“生きている音”だった。




