竜壁、燃え尽きる
「竜壁、燃え尽きる」
夜が明けた。
空には淡い朝の光、そして焦げた空気の匂いが漂っていた。
瓦礫の中、ヴィーナは生存者に癒しの光を注いでいた。
「……大丈夫、もう動かないで。すぐ楽になりますから。」
傷を負った兵たちは、夢を見ているような顔でぴより姫を見上げていた。
その光は確かに、女神の祝福に似ていた。
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砦の外。
山のようなゴブリンの死骸の上で、
黒鋼の竜鎧が――動かない。
「……あの人……まさか……」
ヴィーナの顔が青ざめる。
「大丈夫。まだ燃え尽きてないわ。」
レナが歩き出し、鎧の足を蹴った。
ゴンッ。
「いてぇぇぇっ!?」
「生きてた。」
鎧の隙間から湯気とともに、アルトミュラーが顔を出す。
髪はボサボサ、顔は煤だらけ、目は死んでいる。
「……レナ殿、俺は今……壁になれたか……?」
「ええ、最高の壁だったわ。たぶん地形が変わったわよ。」
「そ、そうか……なら……成功だな……」
「でも五分って言ったのに三十分戦ってたわよ?」
「そ、そんなに……?」
「脳筋時計は信用ならないわね。」
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ゼノがやってきて、状況を見て一言。
「……よく死ななかったな。」
「筋肉が守ってくれた。」
「理屈が死んでるな。」
クラウスがため息をつきながら記録帳に書き留める。
「“囮、予定の六倍稼働。効果は絶大。損耗率一人。”」
「やめろ、俺を単位にするな!」
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ミルとクロエが笑いながら水を運んできた。
「隊長、これ飲んで!」
「助かる!」
がぶ飲み。
「……熱湯だった……ッ!?」
「だって冷めてなかったんだもん!」
「ぴより姫ぇぇぇぇ!」
「ご、ごめんなさいっ! あの、熱いお湯の方が体にいいって聞いたから!」
「それは入浴だぁ!」
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戦場に笑いが戻った。
負傷者の声、仲間の呼びかけ、焼けた大地を撫でる風。
レナが少し離れた場所で、アルトミュラーの肩にタオルを掛けた。
「お疲れさま。……よく頑張ったわね。」
「……お前にそう言われると、報われる気がする……」
「うん、報われていいわよ。今夜の夕飯、筋肉シチューにしてあげる。」
「俺の筋肉が!?」
「比喩よ。」
ヴィーナがくすっと笑いながら近づいた。
「ふふっ……アルトミュラーさん、ほんとに優しいですね。」
「ぴより姫、それは誤解だ! 俺は戦いが好きなだけだ!」
「うん。でも守るのも好きでしょ?」
「……っ……」
その瞬間、竜壁の騎士が言葉を失い、
耳まで真っ赤に染まった。
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クラウスが空を見上げ、静かに言う。
「……砦は確保、民は救出。作戦、完了ですな。」
ゼノが頷く。
「囮戦、成功か。」
レナは小さく笑った。
「ええ、筋肉のおかげでね。」
「褒めてるのか貶してるのか……」
「半々よ。」
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ぴより姫が風に髪を揺らしながら、そっとつぶやいた。
「……女神の泉の風が、また少し、きれいに吹いてる気がします。」
その言葉に、誰もが少しだけ笑った。
焦げた匂いの中に、確かに――希望の香りがあった。
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✨後日談:エデンにて
「さて、レナ殿。」
「何?」
「俺、次はちゃんと命令を受けてから来る。」
「そうしなさい。」
「でも、また呼んでくれ。」
「考えとくわ。」
「脈ありだな!」
「ない。」
「即答!?」
ぴより姫は笑いながら紅茶を差し出す。
「ふふっ……仲良しですね、二人とも。」
「仲良しじゃない!」×2
――エデンの丘に、またひとつ笑いが戻った。




