表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイクス戦記  作者: ゆう
ゴブリンの襲来
77/99

竜壁、囮として立つ

 竜壁、囮として立つ

 夜明け前。

 霧が森を覆い、湿った空気が息を重くする。


 地面には黒い灰。砦の方角からは、途切れぬ咆哮。

 黒牙氏族の群れが、夜を裂くように唸り続けていた。


「……本当に行くのね」

 レナの声に、アルトミュラーが頷く。

「当然だ! 囮といえば俺だろう!」


「自覚あるんだ……」


 鎧の隙間から湯気が立ち、竜鱗がかすかに光る。

 竜壁の騎士――その異名は伊達ではない。

 彼が踏み出せば、大地が鳴る。

 しかし今夜は、その足音さえも“囮”の鼓動だった。



「合図は?」

「俺が吠える。」

「……わかりやすいけど、うるさいわよ?」

「静かな囮などいない!」


「バカねぇ……でも、頼りにしてるわ。」


 一瞬、アルトミュラーの顔が真っ赤になる。

「な、なっ!? お、お前、今なんと……!」

「さあ行け、囮隊長!」

「ぐぬぬぬ……!」



 レナが振り返り、背後のヴィーナたちへ視線を送る。

「全員、配置につけ。陽が上がった瞬間に突入するわ。」


 ヴィーナが頷いた。

 ぴより姫の瞳に、勇気と少しの不安が混じる。

「アルトミュラーさん……絶対、無茶しないでくださいね?」

「安心しろ! 無茶は得意だ!」

「違います! しちゃダメの方です!」


 ゼノが頭を押さえた。

「姫、無駄です。筋肉は言葉より先に動きます。」


「筋肉に勝てない……」



――砦前・黒牙軍包囲陣


 夜が白み始める。

 ゴブリンたちの咆哮が、一斉に止んだ。

 その静寂を裂くように、

 “竜の咆哮”が轟いた。


「グオオオオオオオオオオ――ッ!!!」


 森が震えた。

 黒牙たちが一斉に振り向く。

 丘の上に、黒鋼の巨人――アルトミュラー。

 右腕に竜槍を構え、全身から蒸気を吹き上げている。


「来いよッ! この竜壁が、貴様らまとめて受け止めてやるッ!!」


 言葉通り、黒牙の群れが殺到した。

 狂笑と咆哮。地面が砕け、血飛沫が霧のように舞う。


 アルトミュラーの竜槍が閃く。

 一撃で十体を吹き飛ばす。

 牙が肩に食い込んでも、笑って受け止め、逆に叩き潰す。


「これぞ、囮の仕事だぁぁぁっ!!!」



 その混乱の中。


 北東の木陰から、うさたん団が静かに姿を現した。

 レナを先頭に、リオ、ミル、ナツキ、クロエ、エリカが続く。

 風が彼女たちの足元を包む。


「アルトミュラーが暴れてるうちに行くわよ!」

「了解!」


 ヴィーナが聖印を掲げ、祈りの光を放った。

 「女神よ、道を照らして……」

 光が霧を裂き、砦の影が見えた。



 そのころ。


 アルトミュラーは、盾のように竜槍を構え、ゴブリンの群れに埋もれていた。

 腕も脚も血まみれ、それでも笑っている。

「……ハッ、思ったより楽しいじゃねぇか……!」


 背後で誰かが叫んだ。

「援軍は!?」

「いらんッ!」


 レナの声が脳裏をかすめる。

 ――“あんた、壁になりなさい”。


 笑みを深め、彼は再び立ち上がった。

「ならば俺が、戦場そのものを壁にしてやる……!」



 砦の外、うさたん団が突入を開始する。

 リオが剣を振るい、ミルが跳ぶ。

 ナツキが吠え、クロエが二刀を閃かせる。

 エリカの詠唱が火線を描く。


 その光の奥で、ヴィーナが走る。

 白いローブが揺れ、髪飾りが光を返す。


「皆、お願い! 生きてる人を探して!」


 その声が戦場に響く。

 ぴより姫の指揮――

 奇妙に穏やかで、それでいて不思議と士気が上がる声だった。



 砦の門が見えた瞬間、

 内側から倒れかけた扉が、音を立てて開いた。


 瓦礫の中に、傷だらけの兵士たちがいた。

 彼らは目を見開き、外の光を見つめた。


「……助けが、来たのか……?」


「来ました!」ヴィーナが叫ぶ。

「エルディナの名にかけて!」



 そして背後では――

 アルトミュラーが、まだ暴れていた。

 黒牙の群れをまとめて押し返し、笑って吠える。


「レナァァァァ! もういいかぁぁぁ!?」

「あと五分! まだやって!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


 まるで竜と鬼が混じったような咆哮。


 ――それが、後に語られる《竜壁囮戦》の幕開けだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ