フォルネリアの夜
第七話 フォルネリアの夜
翌日も旅は続いた。霧の街道での一件以来、パーティーの絆はさらに深まり、馬車の中は笑い声が絶えなかった。ナツキは派手な武勇伝を語り、クロエが冷静にツッコミを入れ、レナが温かい眼差しで見守る。エリカはまだ少し臆病だったが、ヴィーナの隣にいると安心したように微笑むことが増えた。
そして、七日間の旅の末、一行はついにフォルネリア辺境侯国の街に到着した。
街の門をくぐると、まず目に飛び込んできたのは、高くそびえる大樹だ。街の中心に立つその木は、街のシンボルである**「霧の中の大樹」**そのものであり、その幹には弓と矢の紋章が刻まれている。人々は皆、弓を背負い、活気に満ちていた。
「すごい…」
ヴィーナは、思わず感嘆の声を漏らした。イシュタルの賑やかさとはまた違う、自然と調和した街の雰囲気に、心が弾む。
一行はまず、依頼主が滞在しているという、フォルネリアの薬草問屋へと向かった。ギルドの紹介状と依頼票を見せると、店の奥から品のいい老人が出てきた。
「ようこそ、冒険者の皆さん。私がイシュタリアの商会から派遣された、マクシムと申します。無事に到着されたようで何よりです」
老人はにこやかに挨拶をすると、今回の依頼の詳しい説明を始めた。薬草の自生地は街からさらに奥へ進んだ場所にあるという。
「街で一泊し、準備を整えてから向かうといいでしょう。その方が、採取もスムーズに進みます」
老人の言葉に、皆が頷く。その日の宿を確保し、夕食を済ませた後、パーティーは全員で街の散策に出かけた。
宿を出た一行は、街路を歩き始めた。石畳の道は、苔むした岩でできており、その間から小さな野草が顔をのぞかせている。街の建物は、木材と石を組み合わせた素朴な造りで、どの家にも庭があり、色とりどりの花が咲き乱れていた。
「へえ、この街もなかなか面白いな!」
ナツキは目を輝かせ、弓矢の手入れをしている職人の店を覗き込んだ。クロエは、川沿いに広がる庭園で、植物を熱心に観察している。エリカはヴィーナの腕をそっと掴み、安心したように周囲の景色を見つめていた。
街中を流れる清らかな川沿いを歩いた。水面は透き通り、小魚の群れがキラキラと光を反射して泳いでいる。川辺には、弓矢の手入れをしている職人や、子供たちと笑顔で遊ぶ母親たちの姿があった。彼らの顔は皆、穏やかで、自然と共に生きている誇りに満ちているように見えた。
「この街は…フォルネリウス、っていうのね」
レナが看板を見上げて呟く。イシュタルとは全く違う、ゆったりとした時間が流れている。ヴィーナは、この街の穏やかな空気に心が安らいでいくのを感じた。レイクスとの旅で訪れた村や街の景色を思い出し、胸が温かくなった。新しい自分を、この街で見つけられる。そう思うと、胸が高鳴った。
その時、一行の目の前に一人の女性が現れた。彼女は透き通るような白い肌と、長くウェーブのかかった銀色の髪を持ち、まるで森の精霊のように神秘的な雰囲気を纏っていた。女性は、ヴィーナに気づくと、まるで彼女だけを認識しているかのように、まっすぐに語りかけた。
「…ふふ、あなたが。あなたからは、とても温かい光を感じるわ」
それは、ヴィーナが聖魔法を使った時に感じたのと同じ、清らかで心地よい光だった。




